後悔の多くは「バタバタ入居」が原因…良い老人ホームを選ぶために見学時にするべきたった一つの「質問」と施設で「借りるべきもの」
後悔の多くは「バタバタ入居」が原因…良い老人ホームを選ぶために見学時にするべきたった一つの「質問」と施設で「借りるべきもの」

虐待、低品質のサービス、想像以上に高額な費用…大事な親を預ける老人ホームでそんなトラブルがあっては大変だ。こうしたアクシデントを避けるためには、介護が必要になってから慌てて施設を探すのではなく、比較検討する余裕があるうちに見学などすることが重要である。

そのときはどんな点をチェックすればいいのだろうか?

 

吉田肇著『介護・老後に困る前に読む本』より抜粋、再構成して、具体的なチェックポイントを解説する。

老人ホームの選び方

将来入るかもしれない老人ホームに目星をつける際は、パンフレットを読むだけでなく、実際に施設を見学すること、可能なら複数の施設を訪ねて比較することをお勧めします。見学の際は、いくつかのポイントがあります。

まず、来訪者に対して職員が笑顔できちんと挨拶してくれるかどうか。それだけで研修が行き届いているかがわかります。次に、入居者や職員の表情がいきいきしているかどうか。楽しく語らう様子などからホームの雰囲気をうかがい知ることができます。

もちろん、「元気で明るい雰囲気だとかえって居心地が悪い」「部屋で静かに過ごしたいので、室内空間の充実が最優先」という方もいるでしょう。「自分に合っている、合っていない」の基準で判断するといいと思います。

さらに、案内してくれる職員に「このホームはいつまでいられますか?」と質問してみましょう。「いつまでもいられますよ」と漠然とした答えが返ってきた場合、選択肢から外したほうが無難です。看取りまでケアする体制のあるホームであれば、「昨年は10人の方が亡くなり、そのうち7人がこのホームで、3人が病院で亡くなりました」などと具体的な情報を伝えてくれるはずです。

そして、トイレを必ず借りましょう。

日々の清掃が行き届いているかを確かめるためです。ほかにも、衛生管理が杜撰だと、食堂のテーブルがベタベタしていたり、醬油差しなどにホコリがたまっていたりします。介護職員が「掃除は清掃業者の仕事」という姿勢でゴミのひとつも拾わない施設から、職員各自が衛生に気を配っている施設までさまざまありますので、よく観察しましょう。

最後に、施設の責任者が見送りの挨拶に出てきてくれるかどうか。施設の入居者への普段の対応はそうしたところにも表れるものです。

以上のポイントは、施設内を10分も歩けば確認できます。自分の経験上明言できるのは、とても律儀に対応してくれる職員がいる一方で、挨拶ひとつしない職員がいるなど、対応が一律でないホームは要注意だということです。属人的な運営は一部の職員に負担が集中しがちで、それを放置していること自体が「難あり」な施設だと推測できます。

私自身、老人ホームの運営に携わっていた現職時代はこうしたポイントについて常に注意を払い、ホームのサービスに携わる人たちにも意識するようにと伝えていました。

老人ホームに求める条件として、「費用」「立地」「職員や入居者の雰囲気」「生活支援サービス」「介護サービス」「看護や医療機関との連携」「認知症ケア」「食事内容」「リハビリ支援」「趣味やレクリエーションのプログラム」などが挙げられます。自身が何を優先するのかを周囲に伝え、見学の際にも優先事項に沿ってよく確認しておきましょう。

現実的な話をしますと、予算との兼ね合いもありますから、すべての条件が申し分なくそろった施設はほぼないと考えたほうがよいでしょう。

だからこそ、「これだけは譲れない」という希望を親が元気なうちに親子間で共有しておくことが重要なのです。

後悔の多くは「バタバタ入居」が原因

老人ホームに関する「後悔」として多いのは、「思っていたよりも費用がかかる」「思っていたよりも掃除やシーツの交換の頻度が少ない」「思っていたよりも職員が少ない」などです。

こうした後悔が生まれる原因は、「入居契約書を読み込まずに入居を決めてしまう」ことにほかなりません。「急に倒れて入院→身体機能が低下→退院→自宅での生活が難しい→バタバタと入居」という経緯をたどる人が多いことの表れとも言えます。

例えば、老人ホームのパンフレットに「食事代月額4万円」と書いてあったとしても、体調が悪くて部屋まで運んでもらった場合や、体調に応じてメニューを変更した場合などは、プラスアルファの費用がかかることが大半です。

特別なサービスを受けたときは、そのたびに費用が加算されるわけです。掃除やシーツの交換の頻度は、公的な介護施設である特別養護老人ホームの場合、平均して週に1回程度。掃除は週に1~2回程度です。

老人ホームは一般的に24時間4交替のシフト制で動いています。たいていは食事の時間に多くの人員を配置し、夜中は限られた人数で介護サービスにあたっています。夜勤がほぼひとりという施設もあります。そうした施設で深夜に入居者の容態の急変があったときなどは、たったひとりの職員が救急搬送に付き添うわけにはいきませんから、家族や応援スタッフを呼ぶことになります。

比較検討する余裕があるうちに老人ホームの実情をよく下調べし、契約書にどんなことが記載されているかを把握しておくことで、さまざまなトラブルや行き違いを回避できます。

成り行き任せにしたがための「バタバタ入居」ほど選択肢が少なくなる、もしくは一択になりがちで、自分が望む暮らしが遠ざかってしまいます。そうした理由から、老人ホーム選びにおいても早めの選択がカギとなるのです。

一方で、最近は「子どもたちに迷惑をかけたくない」と、介護が必要になる前に親御さん自身で民間のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を探されるケースも増えています。ラグジュアリー感を売りにしたサ高住もあり、「終の住処」としての期待度が高まっているぶん、入居される方と介護事業者との間で「最期まで」の捉え方に乖離を感じることも増えています。というのも、介護度が重度になった場合は解約と途中退去を原則としている施設もあり、それがもとでトラブルになるケースがあるからです。

厚生労働省の調査(*1)によると、サ高住で実際に看取りまで行っている割合は、「実施している」が25.3%、「実績はないが対応可能」が32.7%、「実施していない」が30.8%(無回答が11.2%)です。医療依存度が高まった場合には別の施設や病院に移ることになる施設もあるため、「最期までいられるのか」「看取りの体制があるのか」をしっかり確認したうえでの選択を心がけましょう。

なお、厚生労働省の調査(*2)によると、介護施設などの定員数は年々増加傾向にあり、施設別に見ると、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、有料老人ホーム、サ高住の定員数が顕著に伸びています。

高齢になれば誰しも介護が必要な生活になる可能性があります。要介護になって入居するならどんな施設が理想的なのか。自分の求める老人ホームについて、親子で意見を交換することから始めてみましょう。
 

*1 厚生労働省 サービス付き高齢者向け住宅の現状
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000018673.pdf

*2 厚生労働省 令和5年介護サービス施設・事業所調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service23/dl/kekka-gaiyou_1.pdf

文/吉田肇

『介護・老後で困る前に読む本 親子で備える知恵と早期の選択で未来を変える!』(NHK出版)

吉田肇
後悔の多くは「バタバタ入居」が原因…良い老人ホームを選ぶために見学時にするべきたった一つの「質問」と施設で「借りるべきもの」
『介護・老後で困る前に読む本 親子で備える知恵と早期の選択で未来を変える!』(NHK出版)
2025/7/101,760円(税込)200ページISBN: 978-4140819968「お金」「住まい」「健康」「地域とのつながり」……あなたの老後に向けた備えは大丈夫?
失敗しない将来への備えは、親子で元気なうちに話し合い、自分に合った選択をすることがベスト。

介護現場歴30年以上、介護支援専門員、認定介護福祉士、宅建士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を有する著者が豊富な知見や事例、データをもとに、「百人百色」のさまざまな介護・老後の課題から自分にとって最適な選択へと導くための知恵や実践すべき行動から、親子で話しづらい話題をスムーズに行うコミュニケーションのヒントまで情報満載に紹介。
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