ヤマト運輸がベトナム人ドライバー500人採用…不安視される「運転技術」「コミュニケーション」「助成金」についてヤマト本社と現役ドライバーに聞いてみた…取材でわかった誤解
ヤマト運輸がベトナム人ドライバー500人採用…不安視される「運転技術」「コミュニケーション」「助成金」についてヤマト本社と現役ドライバーに聞いてみた…取材でわかった誤解

11月13日、ヤマト運輸は現地IT大手FPTと連携しベトナム人運転手約500人を採用すると発表した。令和9年から年間約100人ずつ、5年間で最大約500人の採用を見込んでいる。

希望者は2026年からベトナムのFPTグループの教育機関が開講する特別クラスで半年間、日本語や日本文化、安全運転を学ぶ。その後、留学生として1年間日本に滞在し教育を受け、外国の運転免許から日本の運転免許に切り替えて大型自動車第一種運転免許を取得しヤマト運輸で5年間働く。 この報を受け、ネットでは様々な憶測が飛んでいるが、ヤマト運輸や現場のドライバーに見解を尋ねてみた。

人が増えること自体はいいことだと思うが…

物流業界において慢性的なドライバー不足は深刻な課題のひとつである。

日本の大型トラックドライバーの平均年齢は50.9歳と高く、今後もドライバー不足が続くだろうと問題視されている中、今回のヤマト運輸と現地IT大手FPTの連携は今後の輸送力の強化に繋がるとみられている。

だが、一方でネットでは「日本で1年間、教育を受けるとはいえ慣れない日本の道路をいきなり走れるのか?」「外国人を受け入れて補助金目当てではないのか」「日本語の読み書きが不十分の状態できちんと配送ができるのか」など様々な懸念が広がっている。

ベトナム人運転手の採用について、都内でヤマト運輸のドライバーとして勤務する40代男性に尋ねるとこう回答があった。

「実際問題ドライバーの数は足りていないと思います。過重労働とまでは言いませんが、休憩をとるタイミングがないこともありますし、年々ドライバーは辞めていっています。仕事がきつくて辞める人も多いですし、他社の引き抜きなんかもあったりするんですよ。

雇い入れるベトナム人の方たちはラストワンマイル(顧客に荷物が届くまでの最後の区間)のドライバーではなく、拠点間を行き来する長距離の幹線輸送のドライバーなので、すぐに俺たちには関係してきませんが、人が増えること自体はいいことだと思いますよ」

いっぽう、別のヤマト運輸のドライバーの男性はベトナム人雇用に関しての不安を語った。

「日本人であれば1年間でトラックドライバーとして走るのは可能だと思います。ですが、ベトナム人となると正直その期間だけで大丈夫なのかなという不安はあります。

というのも日本の運転免許を取得するのって世界的に見て厳しいって言われているんですよ。外免切り替えも厳しくなってますし、その上、走り慣れてない日本を走るわけですから。

さらにヤマトには運転に関して、より安全に運転するため独自のルールもあるのでスケジュール的に足りるのかなとは思います。幹線輸送ということなので走ることはないかもしれませんが、都内のようなごちゃごちゃした住宅街を走り回るのは1年間の教育ではまずムリだと思います」

「荷物が盗まれるのでは?」との不安も 

ネットで不安視されているのは運転だけではない。

2025年版の「警察白書」では、2024年の来日外国人の侵入窃盗の検挙件数の約8割がベトナム人による犯行だと明らかにされている。

そうした背景によってベトナム人による窃盗のイメージが強いのか、ネットでは「荷物が盗まれるのでは?」という差別的な憶測が多く見られた。

先ほどの男性ドライバーは会社からベトナム人の雇用について正式なアナウンスはされておらず、自身の務める営業所の所長から「ネットで見て知っていると思うけどそういうことだから」と聞いただけだという。そのため、あくまで詳細はわからないという前提ではあるがネットでの憶測の疑問についても答えてくれた。

「あくまで私の知っている幹線輸送のやり方になるので、ベトナム人の方が同じシステムでやるのかはわかりませんが、荷物を盗むということは起こりづらいのかなと思います。幹線輸送ですと、拠点から拠点を移動して荷物を運びますが、途中でトラックに積んだ荷物に触れるタイミングはありません。

それに荷物を積んでいるトラックの扉には開けたらわかるようにラベルが貼ってあるんです。しかも、そのラベルを剥がして開けるときには、写真を撮って『今から剥がして開けます』と送ります。なので、盗むというのはなかなか起こりづらいとは思います」

他にも複数の現場のドライバーの話を聞いたが、人手不足の中、人が増えるのはいいことだと捉えているドライバーが多かった。

ヤマト運輸の回答は…

ヤマト運輸“本社”にも問い合わせてみた。ベトナム人の雇用に至った経緯や理由についてきくと以下の回答があった。

〈トラック業界は50歳以上が約半数を占め、日本の大型トラックドライバーの平均年齢は、50.9歳と全産業と比べ6.8歳ほど高くなっており、29歳以下の若年層は全体の1割にも満たない状況にあるため、今後、定年退職などで日本の大型トラックドライバーは大幅に減少する見通しです。

物流業界全体における輸送力の維持・強化のためには、将来を見据えたうえで、国内外の意欲ある若年層を「幹線輸送を担う大型トラックドライバー」として育成していくことが求められており、社会課題解決につながる取り組みの一環となります。

ベトナムを募集対象としたのは、日本で働く意欲の高い若年層が多く、FPTグループが持つ教育機関をはじめとしたアセットや知見を最大限に活用できるためであり、まずはベトナムでの採用・育成スキームを構築することを最優先としています〉

ネットで不安の声が多かった安全面や事故を起こした際の補償、また外国人雇用に関する助成金についても質問すると以下の回答だった。

〈安全教育については、ベトナムで半年間、ヤマト運輸監修の安全基礎教育を行い、日本留学後に1年間、ヤマト運輸監修の安全応用教育により日本の交通ルールや技能などを学んでいただきます。入社後には日本人ドライバーと同様にヤマト運輸の社内免許の研修・試験を受けていただき、合格してから拠点間輸送を担う大型トラックドライバーとして活躍いただく予定です。

また安全教育だけでなく、採用者には入社前の段階で、日本語だけでなく日本の文化を学習いただきます。当社は、多様な人々が活躍できる環境の整備を推進してまいります。

事故を起こした場合の対応は、日本人のドライバーと同様です。現時点で助成金の申請は行っておりませんが、今後、受給要件などを確認し、検討します〉

外国人ドライバーの育成から採用の仕組みを構築し、慢性的な人手不足にあえぐ物流業界の現状に風穴を開けられるのか注目が集まる。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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