払い終えは80歳…超長期住宅「50年ローン」を組む若者が急増中! 地方にしか住めない人が「東京に住める」夢のような商品の落とし穴
払い終えは80歳…超長期住宅「50年ローン」を組む若者が急増中! 地方にしか住めない人が「東京に住める」夢のような商品の落とし穴

マンション価格の高騰が止まらない中、50年ローンが流行している。35年ローンに比べ月々の支払いを抑えられるようになり、手が届かなかった物件にアプローチできるという、若年世代にとっては「救いの一手」だ。

一方、購入者は35年ローンよりも大きなリスクを抱えることになる。また、50年ローンの普及は住宅価格のさらなる上昇を招き、格差を拡大させる要因にもなりかねない。話題の50年ローンの実態を、築地コンフィデンシャル氏が取材した。

急速に普及する50年ローン…東京に住みたい人の希望

SBI新生銀行は11月、変動金利での住宅ローン借入期間を最長50年まで取り扱いを拡大した。「月々の返済負担を軽減できます」「購入可能な住宅物件の選択肢が広がります」と、より広い物件や立地条件の良い住宅も選択肢に入ってくるとアピールする。

かつては一部の地銀やノンバンク、住宅金融支援機構などが手掛ける特殊な商品だった35年を上回る超長期の住宅ローンだが、2025年に入ってauじぶん銀行やPayPay銀行といった大手ネット銀行が50年ローンに対応したのを皮切りに、急速に普及が進んでいる。

住宅金融支援機構が4月から5月にかけて実施した調査によると、過去半年間で住宅ローンを借り入れた人のうち、返済期間が35年超と回答した比率は25.5%と、3年前の9.3%から3倍近くに増加。既に4人に1人は利用している計算となり、選択肢としてすっかり定着したと言えそうだ。

利用者から見て、50年ローンのメリットは明らかだ。

本記事を執筆している時点での相場に照らし合わせ、5000万円を年0.68%で借り入れ、返済期間を35年とした場合、月々の返済額は13.3万円となる。50年ローンの場合、金利が0.1%上乗せされるものの、毎月の返済額は約10万円になる計算だ。

同じ金額を借りながら、月々の負担額を3万3000円減らすことができるのだ。税金や社会保険料を考慮すると、月々の給与が5万円増えるのと同等の効果がある。

月々の返済額から借入額を決める人々にとっては、これほど力強い味方はいない。上記と同じ条件で月々の返済額を13万円に抑えようと考えた場合、35年返済では借入額は4900万円だが、50年にすると、6500万円まで借り入れが可能になる。

これまで都心の物件を選べなかった人が、50年ローンを使うことで東京に住むといった使い方が可能になるのだ。

だがもちろん、うまい話ばかりではない。

金利上昇リスクに弱いという落とし穴

仮に5000万円を35年ローンで借り入れた場合、年0.68%で返済を続けると、18年後には残債が2500万円と半分を割るが、50年ローンの場合、まだ3300万円以上残っている計算となる。

総支払額も、35年ローンでは約5620万円だが、50年ローンでは約6040万円と、50年ローンの方が約420万円多くなる。

また、借り入れ期間が伸びるということは、金利上昇に脆弱だということも留意しておきたい。

先ほどは35年ローンの金利を0.68%で計算したが、仮に1.5%まで上がった場合、35年ローンと50年ローンの支払総額の差は840万円まで拡大する。超長期ローンは序盤で元本がほとんど減らないため、金利上昇リスクに弱い構造となっている。

既に高市政権の積極財政による財政悪化リスクを織り込み、長期金利の指標となる10年物国債は1.8%を超える水準で取引されている。

今後、日銀が利上げを進めていくことは確実な情勢で、「いつ上げるか」ではなく「どこまで上げるか」という状況になっている。安易に50年ローンを借りた人々全員が、こうしたリスクを織り込んでいるとは言い難い。

「郊外物件や狭小戸建で50年ローンはおすすめできない」

返済序盤で元本が減少するペースが遅いということは、離婚や病気などで住宅を手放さなければならなくなったときに、物件の価値よりも借金の残高が大きくなる「残債割れ」のリスクが大きくなるということでもある。

「郊外物件や狭小戸建では50年ローンを組むことはあまりおすすめできない」

都内の不動産仲介会社で働くA氏は語る。

過去10年以上、価格が上昇する一方だった都心のマンションとは違い、狭小戸建や郊外のマンションは経年により市場価格が落ちているものも少なくない。

「10年、20年経った時点で売却しようと思っても、残債割れとなって身動きが取れなくなる可能性がある」(A氏)という。では、どういう人が50年ローンを使うべきなのか。

「最初から50年ローンを使うことを前提に家を探した」

最近、江東区でマンションを購入した33歳のBさんはこう語る。実際には80歳までしか借りられないので47年ローンだが、それでも十分だという。「返済額を抑えることで予算が増えたし、余裕が出た分はNISAに投じることで資産運用にまわしている」という。

ネット銀行の場合、50年ローンは金利が0.1%程度上乗せされるが、まだ借り入れ金利は1%を下回っている。

実は35年ローンを35年かけて返済する人は少数派

投資信託で積み立てているオルカンやS&P500の利回りを年3~4%と計算すれば、「可能な限り月々の支払いを抑え、投資に回した方が得だ」という結論に至ったという。

世界の株式市場がいつまでも右肩上がりが続くという保証はないが、「中長期的に円安が進むという想定の下、最大の負債である住宅ローンを日本円で借り入れ、資産をドルに連動する投資信託で運用することは、為替リスクに対するヘッジとして機能する」とBさんは語る。

マネーリテラシーが高く、手元資金に余裕がある層にとっては、若いうちの住宅ローンの返済負担を抑えながら資産運用に資金を投じるのは、理にかなった行動といえるだろう。

実は35年ローンでも、実際に35年間かけて返済する人は少数派で、ライフスタイルの変化に合わせて物件を売却して住み替える人は多い。

80歳まで返済が続くと聞くとギョッとするかもしれないが、手元資金に余裕を持たせるために50年ローンを借りるというのは一つの戦略といえる。

そもそも、残債割れも絶対に悪いという訳ではない。

トータルでかかった費用が賃貸で同じ物件を借りた場合よりも低ければ、購入が正しかったといえるだろう。

一方、都心部のマンションであっても、絶対に安全とは言い切れない。特に危ないのが、資産価値を過信して、与信目一杯で借りるパターンだ。

「マンションは資産だという話を鵜呑みにして、入社2年目や3年目の若者が50年ローンで1LDKを購入する例が相次いでいる」と前述の不動産仲介会社で働くA氏は話す。

ビルやアパートを保有する投資家向けの50年ローン

35年ローンでは手が届かない物件が50年ローンでは買えるようになるというのは事実だが、月々の資金繰りがギリギリの計画で背伸びをして購入した場合、金利上昇やインフレに伴う管理費・修繕積立金の値上げなどのリスクと正面から向き合うことになる。

不動産売買の経験が浅い若者が早く買わねばという焦りから高値づかみするケースも多く、「35年ローンで買えないような物件を背伸びして買うのはおすすめできない」とA氏は話す。

もともと、貸出期間が50年に及ぶローンは、ビルやアパートを保有する投資家向けに、親子2代、3代で返済することを前提として開発されたものだ。収益を生まない住宅に用いる以上、相応のリスクがあるというのは認識しておくべきだろう。

今後、厳しい立場に追い込まれる人とは

リスクという観点では、今後住宅を購入する人々が意識すべきなのは、不動産事業者が50年ローンを前提にマンションを開発したり、土地を仕入れたりするようになるということだ。つまり、予算の増加を前提に、住宅価格は高くなる方向に作用する。

小学館の人気漫画『葬送のフリーレン』では、かつて圧倒的な殺傷能力を誇った魔法「ゾルトラーク」が人類に解析され、防御や装備の技術が向上しゾルトラーク普及前と普及後で世界が変わったという描写がある。

不動産の世界における50年ローンは、このゾルトラークと同じような効果があると筆者はみている。50年ローンの利用率があたりまえになった世界では、より人々はレバレッジを利かせて自宅を購入するようになる。

そうなると、厳しい立場に追い込まれるのは、住宅ローンを組めない非正規雇用者や零細の自営業者だ。格差拡大のトリガーは、既に引かれている。

文/築地コンフィデンシャル 写真/shutterstock

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