〈足立区・盗難車で11人死傷〉「人が信号の高さくらいまで宙に舞っていた」凄惨すぎる事故現場…死亡した男性は「自転車が好き」フィリピン人女性には「夢があった」
〈足立区・盗難車で11人死傷〉「人が信号の高さくらいまで宙に舞っていた」凄惨すぎる事故現場…死亡した男性は「自転車が好き」フィリピン人女性には「夢があった」

東京都足立区の国道4号(日光街道)で11月24日の白昼、自動車販売店の展示車を盗んだ男がパトカーの追跡を受けて暴走、歩道に乗り上げるなどして次々に人をはね、2人が死亡、9人が重軽傷を負うひき逃げ事故を起こしたとみられる。警視庁西新井署は同日、現場から徒歩で逃走した37歳の男を自動車の窃盗容疑で逮捕、ひき逃げ事件についても調べを進めている。

この事件で足立区内の無職・杉本研二さん(81)が頭の骨を折るなどして死亡、同区の会社員でフィリピン国籍の女性、テスタド・グラディス・グレイス・ロタキオさん(28)も出血性ショックで死亡した。

点検作業のために無施錠でスマートキーを車内に置いていて…

逮捕された男は同日午前10時20分ごろ、同区島根の自動車販売店に駐車してあった普通乗用車1台(時価約310万円相当)を窃取した疑いがかけられている。警視庁担当記者が事件の経緯を解説する。

「容疑者はこれまで同店に2回来店していて、スタッフ間でも要注意人物として認識されていたようです。最初の来店が7月4日で、『これを買いたい。午後にお金を持ってきます』とクラウンを指差したものの結局現れず、事件2日前の11月22日の昼ごろにも展示車を見ていたのを目撃されている。

事件当日も存在に気づいたスタッフが『例の人がまた来て、奥の方に消えていきました』とインカムで注意喚起をして間もなく、クラウンがすごい勢いで左折して国道4号を走り去ったのですぐに110番通報した。

男は来店時のアンケートに住所氏名を残していたため、防犯カメラ映像の解析と合わせてすぐに特定されたのです。盗まれたクラウンは試乗車ではなく、商品として展示するために他店から陸送してきた車両でした。ナンバプレートの代わりに『認定中古車』のプレートを付け、点検作業のために無施錠でスマートキーを車内に置きっぱなしにしていたのを、男に狙われたようです」

通報を受けた警視庁のパトカーが男の運転する盗難車を発見、追跡を始めたのは約2時間後の同日午後0時半ごろ。車は暴走し、横断歩道を渡っていたロタキオさんをはね、歩道に乗り上げて約100メートル走行し、杉本さんら歩行者4人をはねた後、車道に戻ってトラックに衝突、ガードレールに突っ込んで止まった。暴走中の多重事故でトラックの運転手ら6人がけがを負った。

「第一事故現場は時速約70キロでブレーキ痕はなく、歩道に乗り上げてからも時速約60キロという相当なスピードで走っている。

目撃証言などから赤信号を無視した可能性もあり、警視庁は道路交通法違反(ひき逃げ)や自動車運転死傷処罰法違反(危険運転致死傷)容疑も視野に入れて調べを進めています。

しかし、刑事責任能力の有無を判断するため、今後は鑑定留置の必要性も浮上してくるとみられます」(前出・警視庁担当記者)

自転車が好きな杉本さん、親切だったロタキオさん

 凄惨なひき逃げ現場を目撃した近くの美容室経営の60代男性がこう証言した。

「何台ものパトカーのサイレンが鳴り響いていたので、何ごとかと思って外に出ると、目の前を白い車が走り去って約20メートル先で歩道に乗り上げ、次々に人をはね飛ばしていった。横断歩道の信号の高さくらいまで、人が宙に舞っていたのを目撃した。

パトカーの追跡から逃げようと歩道でも結構なスピードを出していて、歩いている人のことなどどうでもいいと言う感じに見えました。すでに横断歩道で女性が1人倒れていて、パトカーから降りた警官がすぐ救護活動をしていました。この幹線道路では追突事故はよく起こるけど、こんなひき逃げ事件は見たことがありませんよ」

 亡くなった杉本さんと同じアパートに住む80代男性は、肩を落として取材に応じた。

「杉本さんと最後に会ったのは4、5日前だったな。アパートの駐輪場のあたりで挨拶してね。普段も長話をするような間柄ではないから詳しいことは知らないけど、杉本さんはこのアパートに来てまだ1年も経ってないんじゃないかな。一人暮らしで仕事はしてないって聞いてる。

顔を合わせるのも朝だったり昼だったりで基本は挨拶だけなんだけどさ、あまりにも可愛らしい緑色の自転車に乗っているから、『いい自転車に乗ってるな』って声をかけたことがあるんだ。

そうしたら『自転車好きなんだ』って言っていたよ。ちょっと小型の、若い人が乗りそうな自転車だったんだけどな。

その自転車もずっとないし、彼の部屋の電気もつかないからおかしいと思ってたら、報道の人が来て事件のことを聞かされた。取材の人に、現場にあったという杉本さんの自転車の写真を見せてもらった。それで本当に亡くなったんだって……」

いっぽう、ロタキオさんの自宅アパート近くに住む40代女性はこう語った。

「少し前からフィリピンの方々がここら辺に住み始めて、どうやら学生さんで近く日本語学校に通っていると聞いていました。特に近隣トラブルとかはなく、挨拶もちゃんと正しい日本語で言える真面目な子っていう印象ですよ。彼氏さんがいたって聞いてた」

同じアパートの別部屋に住む外国人男性も、言葉少なにロタキオさんについて振り返る。

「朝見かけたり夜に帰ってくるところを何度か見かけました。会った時は『ハロー』って感じで挨拶するいい子。私が見かける時はいつも彼氏っぽい人と一緒にいて『仕事に行くところ』って言っていた。事故にあったというのは聞いたから知っている。

うん…残念……」

また、ロタキオさんの友人は「日本語をたくさんおしえてくれて、親切だった。彼女には夢もあったのに…」と肩を落とした。

警視庁は逮捕された男の氏名を公表するかも含め、慎重に調べを進めている。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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