日本テレビで『有吉ゼミ』、『有吉の壁』、『マツコ会議』などのヒット番組を手がけ、2023年からフリーとして活躍する演出家・ディレクターの橋本和明氏。Prime Videoで昨年配信された『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』は、オリジナルバラエティ番組視聴者数歴代No.1(※Amazon MGM スタジオが日本で手掛けたバラエティ作品における配信後1か月以内の国内視聴数)を記録するなど、メディアを横断してヒットコンテンツを生み出し続けている。
日テレ退社時に葛藤した、配信での戦い方
──約20年在籍された日本テレビを退社し、フリーになられてから3年。動画配信サービスやSNSで次々と人気コンテンツを生み出していますが、テレビ出身のクリエイターとしての強みはどこにあると感じていますか?
橋本(以下、同) 配信プラットフォームの場合、どうしてもテレビでは観ることができない「きわどい笑いを狙う」ということが多くなってくると思います。誰かがめちゃくちゃ追い込こまれるとか。もちろんそれはそれでひとつの正解だと思いますが、自分の性格的には向いていないと思っていて。
僕が作ってきた『有吉ゼミ』や『有吉の壁』、『マツコ会議』などの番組は、興味のある出演者の本質を掘り下げていくスタイルだったので、「自分に配信の戦い方があるのか、配信コンシャスになれるのか?」といった葛藤はありました。会社を辞めたときはやっぱり怖かったし、悩みました。
それでも、たくさんの人に観てもらわなければいけないゴールデンタイムの番組を経験してきたからこそ、誰でも観られるフレームの中でお笑いの間口を広げることができるのではないかとも感じていて。全世代が楽しめるコンテンツを作ることは意識しています。
テレビマンの強みは、視聴者に何が求められているのかというマーケティングができること。視聴者がどういう環境で視聴するのかを理解し、多くの人に楽しんでもらうため一生懸命コンテンツを作る。そして毎日出る視聴率などのデータを参考に細部を修正をしていく。そのスピード感こそが、テレビマンの武器だと思います。
──Prime Videoで昨年配信された『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』は、実力派芸人たちが1日限りのオリジナルコンビを結成し、即興コントの頂点を決めるお笑いサバイバル・バトルです。Prime Videoというプラットフォームで制作する上で意識したことは?
地上波テレビのゴールデンタイムは、毎日3000万人の視聴者がテレビの前にいて、どの番組がおもしろいのか選んでくれている状態です。それはとても幸せなことなのですが、やっぱり配信となると、わざわざPrime Videoを立ち上げて「これを観よう」と思ってもらえるコンテンツを作らなければいけない。そのきっかけになるのがYouTubeやTikTokなどSNSでのPRだったりもするわけで。
画で惹きつける強烈なビジュアルを作るために、まずはせり上がってくるセットを作りました。お願いしたのはフジアールの鈴木賢太さん。フジテレビの伝説のバラエティ番組のセットを作ってこられた方です。めちゃくちゃリスペクトがありましたし、「一度は賢太さんにセットを作ってほしい」と思っていました。舞台がせり上がる演出や巨大なLEDパネルが並ぶセットなど、ショーアップを極められたと思います。
芸人さんがコンビを組みたい人を指名する設定も大きいですね。「この人が相方だったら勝てるんじゃないか」と惚れ込んで指名をするわけですし、逆に指名された側は「期待に応えることができるのか」というプレッシャーを抱える。
観客の方が一番おもしろくなかったコンビを投票し、1組ずつ脱落していく演出は制作する上での肝としてこだわりました。残酷ではありますが、芸人さんがその分「絶対に負けられない」とムキになるはず。逆に最下位にならなければ残れるわけで。全員を笑わせられなくても、2割の人に強烈に刺さったら最下位にならないという考え方もできる。そこに戦術が生まれる余地がありますよね。そういった構造を配信らしい仕掛けとして意識しました。
「1億円で観たことのないセットを作ってください」
──Prime Videoだからこそ実現できたことはありますか?
ひとつは時間をかけて番組を作れたこと。元テレビ朝日のプロデューサーさんがAmazonに行かれたタイミングで、ふたりで「何かおもしろいことをやりたいですね」と企画を立ち上げたのが2023年1月でした。何度もディスカッションをして、アイデアを積み上げながらコンテンツを作っていくのはすごく大事なこと。
どうしてもテレビだと企画してから2ヶ月後には放送しなければならないなど、制作のスパンが短いんですね。どちらがいい悪いではなく、まったく違う競技と捉えています。今回は「1年後にどういう収録にしよう」と考えられる贅沢さがありました。
もうひとつは、予算をかけられたこと。Prime Videoのすごさって、ひとつのコンテンツにちゃんと予算を投下して「観たことのないものを作ろう」としている。これは結構、エンターテインメントの原点だと思うんです。
もちろん予算がすべてではないけれど、予算をかけたから観られるものもある。そこは配信プラットフォームの強みだと思いました。セットを発注した賢太さんに「1億円で観たことのないセットを作ってください」と言えたのはやっぱり嬉しかったですし、彼もめちゃくちゃ肩が回ったと思います。
──セットに1億円かけられたということは、全体の制作費もかなり大きかったことが予想できます。広告収入を元にしたテレビ業界のビジネスモデルは過渡期に来ています。出演者や制作者などの人材も、今後“稼げる”配信プラットフォームへ流出していくのではないでしょうか?
テレビ出身のクリエイターが仕事を決める時に、報酬を基準だけに選ぶことはあまりないと思います。「おもしろいことがやりたい」という思いが何よりの動機になるのかなと。
そもそも「稼げそうという理由だけで、配信プラットフォームの仕事をやりたいと思っても、そんな甘い世界ではないと思います。配信コンテンツの世界では圧倒的な強度が求められ、「どれだけ心に響くコンテンツを作れるか」が重視されるので、見たことないものを作るという情熱が何よりも大切だと思います。
コンテンツでも、『侍タイムスリッパー』や『カメラを止めるな』など、低予算でも大ヒットする作品があるわけですよね。お金をかけることが唯一の勝ち方ではない。そう考えると、エンターテインメントの世界はシンプルな資本の原理に寄らないと思っています。ワクワクできる環境にこそ才能が集まってくるし、テレビ局にはテレビ局なりの戦い方がまだまだあると思っています。
「テレビで芸能人が家を買っていいんだっけ?」
──ヒットコンテンツを生み出す、橋本さんなりのテクニックはあるのでしょうか? 多くの人に受ける企画の生み出し方を教えてください。
テレビ出身のクリエイターの強みとして、マーケティングができることとお伝えしましたが、それと併せて企画力も必要になってきます。『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』の場合、「信頼する相方と一緒に即興コントで勝ち上がりたい」という状況の中で繰り出される、芸人さんたちのものすごい能力や表情が魅力だと思います。その姿は他では観られないもの。誰も観たことのないものです。それを生み出す仕組みを設計できるか、コンテンツの企画を練り上げる力が大事になります。
以前、『24時間テレビ』の中の『有吉ゼミ』の企画として、ヒロミさんに1日で駅をリフォームしてもらったことがあるんです。なんとか無事完成したんですが、それを見た駅を使っている学生さんたちの喜んでいる顔や、やり切ったヒロミさんや職人さんの顔は、テレビで放送したことないほどの鮮烈な印象が残るもので。
『有吉ゼミ』がヒットをしたきっかけは、「坂上忍、家を買う。」というコーナーでした。「テレビで芸能人が家を買っていいんだっけ?」「放送して大丈夫?」みたいな葛藤を抱きながら形にしましたが、企画の中に不安があることこそが、すごく大事なんです。不安がない企画は計算ができているものですから、その時点であまりおもしろくなりません。最後に自分の中にモヤモヤした不安が残るかどうかが、いい企画かどうかの判断の基準になったりしますね。
マーケティングをした上で、でも最後は「きっとこれが観たいんじゃないか」という勘みたいなものに賭ける。めちゃくちゃ怖いし度胸が試されます。
──橋本さんはよく「エンターテインメントで時代を変える」とおっしゃっています。変えたいこととは具体的に?
僕個人の気持ちとしては、クリエイターがやりたいと思うコンテンツをのびのびと作れる時代がいい時代だと思うんです。クリエイティブファーストな世界に世の中が動いていくといいなと思っています。
ちょっと前の時代だと、テレビ局やプラットフォームの狙いが最初にあり、そのお題の中でクリエイターがものを作るというやり方以外は難しかったと思います。でも今はPrime Videoなどの配信プラットフォームやテレビ、YouTubeなど、いろんなコンテンツの出し皿がある。
『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』にしても、僕とプロデューサーさんの「新しい賞レースを作ろう」という単純な思いから始まっています。面白そうだからやりたいというシンプルなモチベーションこそが、最後までやり切る原動力になりました。
配信コンテンツに強度が求められる時代だからこそ、こうした自分の中から湧き上がるモチベーションを大切にしていきたいですね。クリエイターの熱量がいたる所に充満する、クリエイティブファーストな世の中の方が、いいコンテンツがたくさん生まれるんだろうなあと思います。
取材・文/松山梢

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