〈5000円で紙コップ紅茶〉大炎上で英国ブランド陶器へ…大阪万博アフタヌーンティーが辿った“進化のドラマ”
〈5000円で紙コップ紅茶〉大炎上で英国ブランド陶器へ…大阪万博アフタヌーンティーが辿った“進化のドラマ”

2025年、大盛況のうちに幕を閉じた大阪・関西万博。そんな万博でネットをざわつかせたニュースの一つが、英国パビリオンのレストランで提供された5000円の「アフタヌーンティー」だ。

本場イギリスのアフタヌーンティーを体験できるという触れ込みで提供されたのは、紙コップにティーバッグを入れただけの紅茶。

この写真がXに投稿され、「これが“英国の顔”なのか」と批判が殺到したのは4月末のこと。炎上から始まり、ようやく“英国らしさ”にたどり着くまでの道のりを振り返りたい。

英国らしからぬ衝撃のアフタヌーンティー

「書きたいことは沢山あるけど、とりあえず一番衝撃的だったことを書きます」

そんな前置きとともにSNSに投稿された写真は衝撃とともに瞬く間に拡散された。

簡素な木製の二段スタンドにサンドイッチと業務用と思われる数個のカットケーキ、そして大きなスコーンが1個。ジャムやクリームは使い捨ての紙コップに入れられている。

何より象徴的なのが、紅茶だ。白い紙コップにティーバッグをぽちゃんと入れただけ。

さらに投稿者のYasukoさんは写真には写らない事情についても語った。

「メニューにはスコーン2個と書いてあるのに、実際は1個だけ。聞いてみると『大きいスコーンに変わったから1個なんです』と……」

また、乾いたサンドイッチや水分を奪われるスコーンを食べるには紙コップ一杯程度の紅茶ではとうてい量が足りず、店員にお湯の追加を依頼。店員は一瞬、戸惑いながらも追加のお湯をもってくると、それを見た隣席の客も同じ要求をし、同様のサービスが受けられるようになったという。

「せっかく5000円払ったのに納得できないのは良くない。

外国人相手には、自分の意見をしっかり伝えた方が良いと思います」

万博前のPR番組などで紹介されていた内容とのギャップもあり、この投稿は一気に拡散。英国文化への失望だけでなく、「中抜きされているのでは」といった声もSNSに広がった。

こうして批判の声が国内外で広がると、5月1日、大阪・関西万博英国政府代表のキャロリン・デービッドソン氏がXに動画を投稿。日本語で「ご期待に十分お答えできなかったというご指摘を受け、すでにサービスの一部を改善いたしました」と説明した。

しかしその後のアフタヌーンティーもまた、物議を醸すことになるのだった。

またも批判「もはや間違い探しを提供されてる?」

5月初旬、スタンドのスイーツは増え、クロテッドクリームも英国ロダス社のものをまるごと提供。ジャムも陶器に移された。紅茶は紙コップを脱し、テーブルにはフレンチプレス(紅茶を抽出する器具)と空のマグカップ。客が自分でカップに注ぐスタイルになっていた。

が、ここでツッコミが入る。“英国の本場アフタヌーンティー”にもかかわらず、“フレンチプレス”の紅茶なのだ。しかも、カップはティーカップではなくコーヒーカップ。

天然なのか、高度なジョークなのか、SNSでは「もはや間違い探しを提供されてる?」「イギリスでも普段飲む用はもちろんティーバッグにマグカップなんだけど、万博で他国に文化を紹介するときには、さすがになぁという感じ」といった声があがることになった。

実際に体験した人に、当時のことを振り返ってもらった。

「フレンチプレスの紅茶は、正直あまり印象に残ってなくて、味も普通でした。フードもそこまで美味しいとは思わなかったですが、別で注文したフィッシュアンドチップスとペンネは美味しかったです。ボリュームはあって、2人でシェアしてちょうど良いくらいでしたね。5000円は万博価格として妥当かな、という印象でした」

なにはともあれ、英国を代表するクオリティーとは言い難いが、“万博の中で食べられる”と考えれば、値段相応と感じられる程度にはなってきたようだ。

こうして批判は徐々に収まってきたものの、英国館はここからさらに改良を重ね、6月頃からついに“本気”を見せ始める。

なんと、イギリスの老舗陶器メーカー「バーレイ」のティーセットの使用を開始。バーレイのカップ&ソーサーとティーポット。スタンドも、木製2段から、バーレイのプレートを重ねた3段タワー仕様で、青い小花模様の皿にスイーツがぎっしり並ぶ。

体験した女性はこう振り返る。

「見た目がとても豪華で、視覚的にも満足度が高かったです。スイーツやセイボリーのお味も申し分なく、イギリス名物のビクトリアスポンジケーキを思わせる小さなケーキや、アフタヌーンティーには付き物のキュウリのサンドイッチなど、『イギリスの伝統の一端を楽しんでいる』という実感が得られる構成になっていると感じました」

5000円が安く感じられるまでに進化

気になる値段についても「5000円というのは破格だったと思います」と最高の誉め言葉だ。

「5000円は、日本の喫茶店より少し高く、ホテルのティールーム等より少し安いくらいに見えますが、私たちは事前にXで『1セットでゆうに2人分はある』と聞いていたので、2人で1セットをシェアし、大変リーズナブルだと感じました」

こうしてついに、5000円が安いと感じられるほどのクオリティにまで進化したのだ。

紙コップ紅茶から始まり、フレンチプレスを経て、バーレイのポットとプレートへ――。最終的にはすばらしいアフタヌーンティーとなったが、その陰には、同じ値段で、粗末なものを提供されてしまった人も大勢いる。

この「万博アフタヌーンティー騒動」は、2025年の大阪・関西万博を象徴する出来事として、今後も語り継がれていくだろう。

取材・文/集英社オンライン編集部

編集部おすすめ