テレビはまだまだ終わらない。心に“ひっかかった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。
今なお、国民的行事の「紅白歌合戦」
『第76回NHK紅白歌合戦』の出場歌手が発表された。初出場を果たす歌手にはKAWAII LAB.所属アイドルのCANDY TUNEとFRUITS ZIPPER、ソロとしては初となるアイナ・ジ・エンドと幾田りら、楽曲『イイじゃん』とそのポーズが流行したM!LKなどがいる。
昨年、連続出場が途絶えたPerfumeがコールドスリープ(活動休止)前に再び出場する一方、昨年は披露する楽曲をめぐって騒動が起きた星野源の出場が消えた。
初出場組の中には、メンバーのSNSでの言動をめぐってネット上で出演中止を求める署名活動が起きたグループもいる。しかし、裏を返せば、“テレビ離れ”と言われて久しい今なお、紅白が高い話題性を持つ“国民的行事”であるとも言える。
年が明けるとネットニュースに視聴率歴代ワースト〇位などの見出しが躍ることが恒例になっているが、昨年は個人23.4%・世帯32.7%(関東地区・ビデオリサーチ調べ)。高視聴率を叩き出すお化け番組であることには変わらない。今年も横並び(同時間帯)ダントツ首位を獲得することだろう。
紅白の出場歌手発表はニュースとして民放各局で扱われ、その後に続くのが「なお、当局では~」という大みそか番組のさりげない告知だ。ここから一気に、民放各局の“大みそかの戦い”が始まっていく。
民放で現在、最も安定して結果を出しているのがテレビ朝日の『ザワつく!大晦日』である。4年連続で民放トップの視聴率を獲得している背景には、石原良純、長嶋一茂、高嶋ちさ子の“強烈な三人”によるわかりやすいキャラクター性がある。
ベースとなる『ザワつく!金曜日』は企画こそトーク、クイズ、グルメとごくごく普通だが、我の強さと自由奔放な振る舞いで番組をかき回すメインの3人、それに振り回されながら進行する"猛獣使い"の高橋茂雄(サバンナ)のやり取りが秀逸で、他では見ることのできない面白さをもたらしている。
テレ朝に対抗できるのは日テレ?
『ザワつく』は主に中高年の視聴者から高い支持を集め、レギュラー放送されている金曜19時台の視聴率でも他の追随を許さない。この世代をメインターゲットとするテレ朝の看板番組だ。今年は同局の連続ドラマ『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』とコラボした「高嶋ちさ子殺人事件」を予定。5年連続民放トップをとれば、快挙と言えるだろう。
この『ザワつく』の民放トップを阻止しようとしているのは日本テレビ。近年は『笑って年越し!』、『THE笑晦日』、『ぐるぐるナインティナイン』の「ゴチになります!」とお笑い色の強い特番を編成していた。
しかし、かつて民放トップを毎年獲得していた『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』の「絶対に笑ってはいけない」シリーズを惜しむ声は終了から5年経っても根強く、「日テレの大みそか=ガキ使」のイメージを覆すことはできなかった。
そこで今年は打って代わり、『有吉ゼミ』の人気企画『ヒロミが解決!八王子リホーム』を放送予定。DIYが得意なヒロミが自ら施工して依頼主の悩みを解消するこの企画は、毎年夏の『24時間テレビ』でも恒例の通し企画となっているが、ついに大みそか戦線にも駆り出された。
ヒロミは『ザワつく』のトリオと同世代で、中高年からの支持も高い。視聴率をとるために、日テレがテレ朝に真っ向勝負を挑んだかたちだ。
一方、フジテレビは『新しいカギ』の大みそか特番で若年層の視聴率を狙う。
SNSとの親和性の高い企画構成は、いわば「世帯視聴率よりも、コア視聴率に挑む」というフジのここ数年のスタンスそのものだ。
今年7月に放送されたフジテレビ問題の検証番組では、『新しいカギ』の総合演出を務める田中良樹氏が出演し「テレビ局はタレントのため、タレントはテレビ局のためという番組作りは時代錯誤」「今の時代に合っている楽しさや面白さを再定義していく」と語っていた。
5月には「学校かくれんぼ」がドイツの国際映像祭で銀賞を受賞。再生・改革を掲げるフジのフラッグシップともいうべき番組のさらなる挑戦に注目だ。
9年連続、変わらないテレビ東京
そんな中、各局の大みそかの並びで最も異彩を放つのはテレビ東京。演歌・歌謡曲の歌手が勢揃いの『第58回年忘れにっぽんの歌』、松重豊が主演のドラマ『孤独のグルメ』の大みそかスペシャル、さらにクラシック音楽で新年のカウントダウンを行なう『東急ジルベスターコンサート』を今年も放送する。
ネット上で"テレ東伝説"と持て囃されているように、他局とは一線を画した独自の企画、低予算で最大限の視聴率をとろうとする姿勢がテレ東の強みとされる。この強みが1年で最も発揮されているのが大みそかだ。今年で9年連続となるこの編成は、各番組のコアなファンの多さの現れと言えよう。
なお、TBSの大みそか特番は各局で最も情報解禁が遅く、放送される番組も毎年のように変わる。昨年は『オールスター感謝祭』のクイズシステムと『炎の体育会TV』に代表されるスポーツバラエティが融合した『大晦日オールスター体育祭』が放送された。
その直後の『CDTV』の「年越しカウントダウンFes.」は今年も放送予定で、フルサイズ演奏や出演アーティストと一緒に作り上げるステージプランが特徴の音楽番組で新年を迎える。
大みそかはテレビにとっても一年の総決算。「オールドメディア」と揶揄されることが多くなった昨今、各局がそれぞれの力と予算を惜しみなく投入した番組が並んだタイムテーブルは今も視聴者をワクワクさせる。年末年始に自宅や帰省先で家族や親戚、揃ってテレビを見て楽しむ時間が、この先も続いていってほしい。
文/ノブユキ

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