『じゃあ、あんたが作ってみろよ』はなぜ国民的ドラマになったのか…原作者・谷口菜津子が語っていたキャラクターの成り立ち、作品に込めた想い
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』はなぜ国民的ドラマになったのか…原作者・谷口菜津子が語っていたキャラクターの成り立ち、作品に込めた想い

TBS火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が、12月9日に最終回を迎える。各種ランキングで上位を独占し、TVerでも異例の数字を連発。

再生回数はTBS日曜劇場『VIVANT』を抜いて、同局ドラマ史上最高記録を更新し、“今年最大の社会現象ドラマ”となった。

なぜ、ここまで多くの人の胸に刺さったのか。その答えは、原作者・谷口菜津子が語ってきた言葉と、ドラマの構造を照らし合わせると鮮明になる。

原作者・谷口菜津子氏が語っていた言葉

同作の主人公・海老原勝男(竹内涼真)は、超ハイスペでありながら古い価値観のまま30代を迎え、プロポーズした途端に恋人・鮎美(夏帆)から別れを告げられる。勝男は鮎美への思いを引きずりながらも、料理を通して初めて自分の弱さと向き合い、少しずつ変わり始める。一方の鮎美も「自分が信じ込んでいた“良い女性像”」を手放し、本当の自分へと変わっていく。

最終回では、この二人がどんな選択をするのかが注目されている。

同作が国民的な広がりを持てた理由のひとつは、勝男と鮎美の関係や考え方が、現代の価値観の揺らぎそのものを体現していた点だ。勝男は古い価値観に縛られ、鮎美は“正しい女性像”を演じ続けて疲れ果てた。しかし、どちらも“間違っている”わけでも、悪者でもない。

原作者・谷口菜津子氏は、昨年2月に本サイトの取材でこう語っている。

「勝男と鮎美は『これまで』の形式での『幸せになるためのモデルケース』を意識し過ぎて、“本当の自分”を忘れてしまった2人です」

令和になって価値観が変わりつつあっても、昭和~平成の“理想像”とされてきたテンプレートから逃れられず、「正しいはずなのに幸せじゃない」という矛盾を抱える人は多い。勝男と鮎美は、その“揺れ”を可視化した存在だ。

SNSで「わかる」と共感が広がり、大きなうねりを生んだのは、この“誰も悪くない世界”が多くの視聴者の感情を代弁していたからだろう。

もちろん、時代の価値観と向き合うドラマは今に始まったことではない。むしろここ数年のトレンドとも言えるテーマだし、構造だけを見れば本作もその系譜に位置づけられる。それでも、なぜこのドラマが“突出して”爆発したのか。その答えこそが、もっとも語られるべきポイントだろう。

ほかのドラマと決定的に違っていたポイント

本作が爆発的に支持された理由は、何より“笑えた”からだ。

ジェンダー作品は、ともすると“論”になりがちで、視聴者が「どちらの立場につくべきか」を迫られる。しかし本作はその真逆。語らず、教えず、ただ勝男の日常のドタバタを置く。そして注目すべきは、勝男は“弱者”でも“悲劇の人物”でもなく、ただ“自分の正解が通用しない世界”に戸惑う普通の、いや、どちらかといえば強い男だ。

こうしたキャラクターについて、谷口氏はこう語っている。

「『壁にぶち当たるハイスペ』を作ろうと思って生まれたんです。」
「人生って、勉強だけじゃどうにもならないことが多すぎて……。」

勝男は毎週のように“勉強では解けない問題”にぶつかる。自分の答えを否定され、主張し、それでもまた否定される。

少し飲み込んで悔しがり、また歩く――その小さな前進が、視聴者には“希望”に見えた。

重くならず、攻撃的にならず、笑って見られる。現代人が“避けずに語れる”ジェンダー作品として成立している点は、極めて大きい。

SNSではここ数年、ジェンダー論がバズるたびに、男女・世代の対立が強まり、正解のない論争で傷を増やす光景が繰り返されてきた。だが勝男は違う。

一度は否定しながらも受け入れ、よさを認識する。だから彼は常に、男性側から見れば「気持ちは分かる」と思える部分があり、女性側から見れば「そこがズレてる」と突っ込みたくなる部分がある。

その結果、勝男はどちらの陣営の味方にもなり、同時に反面教師にもなるという不思議な立ち位置を獲得した。

谷口氏は彼をこう位置づける

「『反省できる人』にしたいな、と。」

勝男は成長するが、いきなり完璧にはならず、またすぐズレる。この“変化の不完全さ”が圧倒的なリアリティを持っていた。

最終回はどうなる? 勝男と鮎美の決断は…

多くのジェンダー作品が“正しさ”を語りがちなのに対し、本作は徹底して“生活”を描く。料理、洗い物、買い物、友人、家族、仕事、恋愛……。

“生活が変われば、価値観は変わる”。その視点が常に中心にある。だから視聴者は、勝男と一緒に変化の過程を歩けた。ジェンダー論争の時代に、視聴者の理解を笑いとともに自然に一歩進めた。その稀有さこそ、この作品が国民的ドラマになった最大の理由だろう。

最終回では、いったいどんな答えが描かれるのか。谷口氏のこの言葉は、作品全体に通るテーマそのもののように思える。

「別に立派なことはしなくてもいいから、周囲の影響を受けながら、何をしているときが楽しいのかを探していく。人生、なんでもやってみるといいと思うんです。」

勝男と鮎美が、どんな“自分の答え”を選ぶのか。その瞬間を、いよいよ視聴者は見届けることになる。

取材・文/集英社オンライン編集部

編集部おすすめ