世界の漁業生産量は過去最多を更新する一方で、日本はピーク時の3分の1以下に落ち込んでいるという。天然魚は世界的に頭打ちとなり、養殖が主流へと転換する中、日本ではまだまだ天然志向が根強く、養殖生産は縮小を続けている。
新刊『国産の魚はどこへ消えたのか?』より一部抜粋・再構成してお届けする。
世界は増加傾向だが天然魚は頭打ち
日本の漁業生産量が減り続ける一方で、世界全体の漁業生産量は対照的に上昇傾向となっている。日本は早くから、沿岸から遠洋にかけて多くの魚を獲り、地域特有のさまざまな料理に活用してきたが、後発の中国や欧米では、ヘルシー志向や和食ブームの影響などもあって、近年、魚食人気が次第に高まり、多くの国・地域で漁業が発展。世界規模でみると、生産量は一貫して右肩上がりになっている。
2023年の世界の漁業・養殖業の生産量は、2億2697万トン(FAO報告)と最多記録を更新した。このうち、天然物の生産量は9080万トンと1980年代後半以降、横ばい傾向だが、養殖物は1億3617万トンと増加傾向。初めて養殖が天然を上回ったことが明らかになった。
日本の養殖魚生産は、天然魚の4分の1以下と圧倒的に少なく、近年は減少傾向にあるが、逆に海外では、中国やインドネシア、インドなどを中心に活発な生産が続いている。天然魚生産が伸び悩む中で、貴重な動物性タンパク質の供給源となっており、今後も養殖生産は天然魚とは対照的に増え続けるとみられている。
このように近年、世界レベルで漁業生産が伸び続けている要因は、海や陸上で行われている養殖の発展が大きく寄与している。逆に天然物は1980年代後半以降、横ばいないし、やや減少傾向となっており、天然魚生産はおおむね頭打ちの状況なのだ。
FAOの報告によれば、世界の天然魚については「1974年には90%の水産資源が適正レベルまたは、それ以下のレベルで例用されてきたが、2019年にはその割合は65%にまで下がってきている。
限りある天然魚の乱獲の防止により、世界的に水産資源の持続的利用への必要性が高まっている。こうした中で、日本の漁業生産について、具体的にどんな魚がどれくらい獲れているのか、紹介していきたい。
日本漁業、水揚げ1位はマイワシ
2024年、日本の魚の水揚げ量は、ピークとなった1984年から3分の1以下の水準に落ち込み、最低記録を更新中である。
世界的な漁業規制強化や、海洋環境の変化に伴う日本周辺での魚の減少などが、漁業衰退の要因と指摘される。魚がいなくなれば、漁業を生業とする漁師も減り、魚の流通量も減る。当然のことながら魚価は上昇し、消費は鈍化して、若者を中心とした魚離れは、一層進んでいく。単純に見れば、漁業・魚食が衰退する環境が、揃っているように思われる。
ここで、現在の日本の漁業生産を詳しく見ていきたい。2024年の漁業生産を魚種別に見ると、ナンバーワンはマイワシで66万7000トン(千トン単位の概数。以下同じ)、2位はホタテガイで31万7000トン、3位は「サバ類」で25万6000トン、4位はカツオで24万3000トン、以下、5位スケトウダラ(12万4000トン)、6位カタクチイワシ(10万1000トン)までが10万トン以上となっており、7位マアジ9万2000トン、8位「ブリ類」8万1000トン、9位ウルメイワシ6万9000トン、10位マダラ5万5000トンなどとなっている(農林水産省)。
各魚種、前年よりも水揚げ量が減っている魚種が多いが、中でも群を抜いて多いのが首位のマイワシである。
マグロはそれぞれ、サバはサバ類
一方、ベスト10の魚種をみると、人気のマグロが入っていない。マグロは、種類ごとに分類されており、キハダマグロ(4万6700トン)を筆頭に、メバチマグロ(2万9000トン)、本マグロ(クロマグロ、1万3400トン)など。いずれもベスト10入りしていないが、「マグロ類」とまとめると、12万3100トンとなり、カタクチイワシを超えて6位となる。
お気づきかもしれないが、水揚げ上位の魚種で「サバ類」と「ブリ類」は、「サバ」や「ブリ」ではなく、「○○類」と分類されている。マイワシは、単独の魚種として公表されているが、イワシと付く魚にはカタクチイワシやウルメイワシなどがある。それなのに「イワシ類」としてカウントされていないのはなぜだろうか。
それぞれの順位に関わってくるだけに、少々不公平な気もするが、仕方のない面がある。例えばサバ類の場合、マサバとゴマサバは、魚市場などで価値が異なり、マサバのほうが高く売れるが、それは大型魚に限った話である。
大半を占める小型魚は、養殖の餌や飼料・肥料などに使われるため、供給側からすれば選別する必要がない。さらに漁港関係者によれば、「そもそも小さいとゴマサバ特有の斑点が薄く、マサバとの見分けも付きにくい」こともあって、今後もマサバとゴマサバを分けてカウントすることはできないだろう。
これに対し「マイワシ」は、単独で漁獲されることが多く、水揚げ段階での区別が可能。イワシと付く魚には、カタクチイワシやウルメイワシなどがあるが、水揚げ時に別々に集計することができるのだ。
こうした魚統計における限界が当然、順位にも大きく影響することがある。マイワシは2024年、ダントツの水揚げで2019年から6年連続トップ。それ以前は、長らくサバ類が首位の座を守っていた。ただ、もしも「マサバ」と「ゴマサバ」が分けられていたら、少なくとも2016年から9年連続でマイワシが生産量トップだったことは間違いない。
このほか「ブリ類」については、ちょっと事情が違う。出世魚であるブリは、「ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ」などというように、大きさによって呼び名が変わるが、その区分は地域によって違ったり、同じ漁港でも日によって呼び方にブレがあったりする。
そもそも出世魚とは言っても、それぞれの区分に、明確な大きさ・重量に関する規定があるわけではないから、扱われる漁港や魚市場などで、ざっくりした目安で魚名が使われていることが多い。
大型で10キロを超えるようなブリは、まさしく大ブリだが、それ以下(主に6キロから1キロ未満)の魚、つまりワラサ、イナダ、ワカシなどは、あいまいな基準で名付けられているから、漁獲統計上も同一魚種「ブリ類」としてカウントするしかない。
同様に「セイゴ→フッコ→スズキ」、「サゴシ→サワラ」、「シンコ→コハダ→コノシロ」といった出世魚も、流通段階ではそれぞれの魚名が付けられているものの、はっきりと区別することはできない。
出世魚とは言わないが、マグロの場合、本マグロとメバチマグロ、キハダマグロは、小魚に比べて大きいだけでなく、それぞれ魚の価値が大きく異なることから、小さくても水揚げの段階ではっきり分けられるため、別々にカウントされる。
ただし、マグロ類もこの3種については、例えば本マグロなら小型魚を「メジ」「ヨコワ」など、メバチマグロの小型は「ダルマ」、キハダマグロの小型は「キメジ」といった呼び名があり、漁港などでも使われているが、これらについても統一基準がなく、それぞれ大型魚の呼称で生産量が示されている。
加えて「サケ類」はもっとややこしい。
魚名はそれなりにきっちりと表記する必要があるが、あまり基準を厳しくすると大きな混乱を招く。特にさまざまな料理に浸透しきっているサケ・マスの場合、「シャケ弁」を、場合によっては「マス弁」としなければならないのは、少々酷な話だろう。
日本の代表魚、人気は下位
一定の制約はあるものの、日本の魚に関する統計として指標となる漁業生産量は、近年は全体として減る一方である。さらに水揚げの筆頭は、マイワシを中心にホタテガイ、サバ類、カツオ、スケトウダラといった順に多いことがわかる。
筆者はよく、知り合いに「日本で一番獲れる魚はなんでしょう?」というクイズを出す。日本を代表する魚は何なのか。どれほどの人が知っているのだろうかと思い、この質問を投げかけるのだが、正解率はあまり高くない。ざっと3割程度である。
少なくともここ6年間、日本で一番獲れている魚であるマイワシの人気は、決して高くない。大量に漁獲されている割に、魚売り場で大量に売りさばかれているとは言いがたい。2位のホタテガイはそれなりの人気があるし、どちらかといえば高級貝の仲間ということもあって、消費拡大への可能性を探る必要はあまりないが、3位のサバ類などの大衆魚と呼ばれる魚は、たくさん生産されている割に、国内消費が少なくて話題になりにくい。
日本で魚が獲れなくなって漁業が衰退し、世界的に人気を博している和食・魚食文化が廃れようとしている。そうした中、今の魚の生産・流通・消費の実態をこのまま放置していれば、将来の日本漁業は、本当に崩壊してしまうのではないかといった不安が高まってくる。
逆に言えば、たとえ魚の全体の水揚げが低調であっても、水揚げが上位で比較的たくさん獲れている魚たちをもっと利用すれば、漁業者の実入りも上がり、魚食文化の継承についても、別の筋書きが描けるようになってくるのではないかと思う。後述するが、それだけメジャーな国産魚が見過ごされている現状がある。
筆者は日本の漁業を「捨てたもんじゃない」と感じている。地球規模の温暖化に伴う海洋環境の変化により、豊漁・不漁を繰り返す魚資源は、漁獲管理だけで完璧にコントロールすることは難しい。世界的に見ても天然魚の漁獲が不振となっているだけに、獲れているマイワシをはじめとした日本を代表する魚を、有効に利用していかなければならない。
「お先真っ暗」ではない!? 日本の漁業
今でも漁業関係者からは「日本の漁業はまだまだいける!」といった前向きな見方がある。漁獲量の減少は、内外の漁業・魚資源をめぐる急激な環境変化によるもので、日本漁業のポテンシャルに急激な衰えはないという捉え方である。
世界の漁業生産が過去最多を更新する一方で、日本の漁業はジリ貧状態。ただ、天然魚介類の生産は、内外ともに決して好調というわけではない。FAOの近年の報告によれば、世界の水産資源の35%が過剰に漁獲されており、持続可能な漁業資源の利用が求められている。
そうした中、日本の漁業生産の落ち込みについては、戦後の高度成長に伴う独占的な漁業の反動といった見方がある。
このように、天然魚の生産は日本だけでなく、世界レベルで伸び悩み、下降傾向をたどっている。その一方で、海外では養殖漁業の発展が目覚ましく、これが世界的な漁業生産の伸びを支えているのだ。
世界的な漁業生産の上昇は現在、中国をはじめとした養殖によってもたらされていると言える。中国では、コイやフナのほか、ソウギョやハクレンと呼ばれる淡水魚を中心に、活発な養殖生産が行われている。
これに対し、日本の養殖生産は緩やかな減少傾向。2024年の養殖生産量は合計約83万トン(海面・内水面)で、過去20年で3割以上減った。養殖の生産量は、海の天然魚の状況とは異なり、消費不振などにより採算が合わなくなるケースが多く、生産を抑えざるを得ないといった事情からだ。
日本では天然志向が根強く、ハマチやカンパチ、タイやサケなど、国内の天然魚や輸入魚との競合により、消費が振るわずに魚価安となったり、餌などの経費がかさんだりして、生産を伸ばせない状況となっている。
文/川本大吾 写真/shutterstock
『国産の魚はどこへ消えたのか?』(講談社)
川本大吾
1980年代末まで世界一の漁業大国として、和の食文化を支えてきた日本の漁業。だが近年は漁獲量もベスト10圏外に落ち凋落著しい。なぜいまのような状況になっているのか。気候変動・乱獲などによる不漁、せっかくたくさん獲っても一般消費者の食卓まで届かない流通の問題、サーモン、サバをはじめ、海外からの輸入増大、後継者不足。日本の漁業の現在を長年の取材から明らかにしながら、これからの道を探る。
【目次】
第一章 減り続ける日本の魚
〇漁業生産、過去最低を更新中〇世界は増加傾向だが天然魚は頭打ち〇日本漁業、水揚げ1位はマイワシetc.
第二章 獲っても食べない国産魚
〇今の魚の自給率は半分近く〇スーパーの台頭が魚離れの原因か〇マグロやアジの開きも安さ重視etc.
第三章 日本一の魚を食べない理由
〇マイワシが魚の餌ではもったいない〇マイワシの流通阻む100グラムの壁〇職人からも調理が敬遠される etc.
第四章 消費の主役は外国魚
〇伝統・郷土料理にもノルウェー産〇ノルウェーに漁港がない理由〇アフリカ諸国で人気、日本産のサバetc.
第五章 秋の味覚はいつ復活するのか
〇豊漁には程遠い推定資源量〇サンマ漁業関係者の苦境〇マグロ漁やイカ漁へ挑戦etc.
第六章 揺れ動く日本のマグロ事情
〇「大間まぐろ」がほかの追随を許さない理由とは〇マグロ管理の甘さを露呈、国の対応急務etc.
第七章 強化される内外のマグロ管理
〇日本周辺のマグロ、一時は最低水準に〇流通の主役・普及品のメバチマグロ
第八章 マグロ人気に陰り・サーモンが台頭
〇当初は「日本では無理」と門前払い〇回転寿司やスーパーのマグロはおいしいかetc.
第九章 おいしいマグロが食べたい!
〇冷凍マグロのおいしい解凍法とは〇血合いには赤身の100倍のセレノネインがetc.
第十章 大衆魚の利用が水産業復権のカギ
〇獲れる魚を食べられるように〇小サバのうまい食べ方とは?etc.
第十一章 漁師の減少を食い止めよう
〇10年前の3割減〇各地で続々、女性漁師が誕生etc.

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