「小さいのに高い」。消費者の嘆きが止まらない昨今のサンマ不漁。
新刊『国産の魚はどこへ消えたのか?』より一部抜粋・再構成してお届けする。
サンマは小さくてもなぜ食用流通するのか
近年、急激に資源は悪化。取れるのは小型魚ばかりで、東京都内のスーパーでは2024年もマイワシ並みに小さいサンマが200円以上で売られることが多く、味気なかったのは確かだ。
不漁で細く小さく、脂の乗りも悪い。それなのに、なぜサンマはマイワシやサバとは違って、漁港から豊洲など魚市場を通じて食用として取引され、スーパーなど小売店で販売されるのか。
ほかの魚にはない季節感を感じさせてくれるサンマについて、かつて大手スーパーのイトーヨーカドーで、40年間にわたって水産物のチーフバイヤーなど、魚売り場を担当してきた小谷一彦さん(現・魚食普及アドバイザー、小谷フードビジネス代表)も特別な存在感を感じている。それは、イワシなどのほかの大衆魚とはかなり違っているため、産地(漁港)から小売りに向け、流通する大きな要因となっているようだ。
残念ながら今、生産量が年間数万トンと、過去にないレベルで不漁となっており、獲れても小さく細い。決しておいしいとは言えない。近年、スーパーなどの店頭に並ぶ生鮮用のサンマは、1尾100グラム前後が主体。
小谷さんが魚の仕入れを担当していた2000年半ばまで、「サンマは年間数十万トンという好調な水揚げが続き、1尾あたりの重さはおよそ150グラム、8キロの発泡スチロール箱で50~55尾入りが中心だった。中には200グラムのサンマも獲れていたので、今では考えられないほど大きな魚だった」と振り返る。
当時は、「今のような100グラム前後のサンマは、相対的に価値が低かったため、生鮮流通されておらず、餌や缶詰向けの輸出用として、関係業者に引き取られていた」という。
当時、大きくふっくらしたサンマの小売価格は1尾100円ほど。特売では100円を切る安値で大量に販売され、秋の味覚は庶民の味方だった。小谷さんは「そうした印象が長く、消費者に植え付けられていて、100円で脂が乗った旬の味覚が味わえる。これが日本の魚食を支えてきた。この過去の印象を40歳以上の消費者がいまだに持っており、当時のサンマを思い出しては、今のサンマを嘆いているのが現状」と説明する。
したがって、店頭で消費者の多くが、「ずいぶん小さいサンマなのに高い」と口を揃える。ほかの魚種ならば、スーパーの店頭まで届かないように思うが、そこがサンマとほかのイワシなどの大衆魚と違うところ。
小谷さんは、「『秋刀魚』と書くサンマはほかの魚と違って、ほとんどの消費者が旬を知っているため、季節の魚を味わおうと手を出してくれる。
豊漁のころよりも小さく、1尾100グラムのサンマでも1尾は1尾。「100グラムとは、塩焼きなどとして味わうとき、限界のサイズでもある。これ以下になると、さすがに小さすぎて食べても味気なく感じてしまうため、消費者からそっぽを向かれてしまう」と話す。
サバは5 0 0グラム、イワシに1 0 0グラムの壁
一方、こうしたサンマの価値観について小谷さんは、サバやイワシには通用しないという。
なぜなら「サバの旬を知っている消費者はほとんどおらず、年間を通じて生鮮物が店頭に並んでいるほか、塩干コーナーでも、ノルウェー産や国産の塩サバがフィレ(三枚おろし)の状態で並んでいる。店頭に並んでいる生鮮のサバは、500グラム前後が中心で、産地(漁港)では、このサイズを生鮮用の中心規格に据えており、仕入れ側もこのサイズを中心に仕入れるため、それ以下の小サバは流通に乗らず、消費者の目に入らない」という。
生鮮・塩干物サバは、国内の豊漁・不漁のほか、獲れるサバの大きさが小型ばかりであっても、ノルウェー産をはじめとした輸入物が幅を利かせているため、そちらへシフトすれば国産サバは必要なし、というわけだ。その点で、サンマと供給事情は大きく違っている。
それではイワシのほうはどうか。小谷さんは、「1尾当たりのサイズと価格は、サンマのように、塩焼きができるかどうかといった基準は通用しない。1尾丸ごとで塩焼きした場合、サンマは100グラムの1尾が198円だったとして、イワシの場合、100グラムサイズがあまり流通していないため、単純な比較はできないが、仮に1尾70~80グラムのイワシに百何十円といった売価を付けても、サンマのようには売れない。それは塩焼き用の魚として、イワシの価値がサンマに遠く及ばないためだ」と説明する。
食卓にイワシの塩焼きが1尾、皿に盛られたときと、サンマの塩焼き1尾では、さすがにイワシのほうが見劣りしてしまうだろう。小谷さんは、そうした状況を思い浮かべ、「きっと食卓に集まった家族からは『え~今日はイワシなの~』と、残念がる声が漏れることは間違いないのではないか。それは主婦が最も嫌がる家族の反応である」と語る。
このように、1尾100グラムほどの小さいサンマは、イワシやサバと違って、季節物としての根強い人気から、生産・流通し、消費される。ほかの大衆魚にはない需要がある点について小谷さんは、「サンマの旬が、秋にメディアで盛んに取り上げられるほど明確であるほか、季節感があって1人1尾食べられ、小さくて細くても食卓の一品として出すことができる。サンマの消費願望は、日本人のDNAに組み込まれ、郷愁を覚えることに起因しており、それがイワシやサバとは違った価値を生み出している」とみる。
小谷さんの説明を裏付けるように、豊洲市場では不漁でもサンマは秋の目玉的な存在であり続けている。同市場でサンマを取引する卸会社の競り人は、筆者のインタビューに対し、こう語った。
「築地時代、サンマの豊漁時には、かなり大ぶりで脂が乗ったサンマだけを集荷し、仲卸やスーパーなどに卸売していた。しかし今は、そのころ缶詰用に回されていたサイズしか獲れないから、近年のサンマは必ずしもおすすめできる魚ではないのだが、それでも秋の旬の味覚には違いない。
消費者も秋になれば、やはりサンマを食べたいと思う。それを感じたスーパーのバイヤーや鮮魚専門店は、日々水揚げされたサンマのうち、できるだけ大きなサイズを仕入れようとする。
豊洲市場に限った話ではないが、近年、魚の旬が忘れられようとしている。冷凍技術の向上や養殖漁業の発展などにより、いつでも同じ魚が食べられるのは、消費者にとってありがたいことだが、その一方で、秋のサンマのように季節感・旬を感じられる機会を減らすことになり、それが魚離れの要因にもなっているのだ。
サンマ漁業関係者の苦境
近年、サンマが記録的な不漁に見舞われていることで、サンマ漁業関係者は厳しい状況に置かれている。水揚げ減少で単価は高くなっているものの、総漁獲金額は豊漁期に比べ大幅に減少。サンマ漁に見切りを付ける漁業者も多い。
これまでサンマの総水揚げ金額は、おおむね200億円以上、多い年には300億円に達したが、5年ほど前から深刻な不漁となったことで、2023年には約100億円と大幅に減った。これにより、サンマ専用の漁船である棒受け網漁船は、2024年が100隻程度で、10年前より50隻ほど減っている。棒受け網漁船は、ほかの魚種を獲ることはない。
不漁で過去に例がないほど、サンマの漁業経営が苦しい状況となっている中で、サンマの主力団体である「全国さんま棒受網漁業協同組合」の大石浩平専務理事は、「不漁だからといって、今、何か特別なことをするというだけの体力はない。
ほかの魚を獲るために船を造るにしても、ウクライナ情勢などで資材費が高騰し、以前は9~10億円弱で建造できたものの、今は12~13億円が必要で造れない。サンマ漁船は、多くが東日本大震災で被災したが、国の共同利用事業で3分の2の補助を受けて新たに建造したばかり。災害復旧によって建造した場合は、ほかの漁法に転換しても、現状復帰・回復が必要になる。
さらに、他魚種については、資源管理強化の発想が前提になるため、現状の枠から出られないのが現状。以前はロシア海域で、サケ・マス漁をやる漁船もあったが、ロシア側が同国水域における流し網漁業の操業を禁止したため、2016年からは、日本の200カイリでしか操業できなくなっている」と、サンマ漁業の窮状を訴える。
文/川本大吾 写真/shutterstock
『国産の魚はどこへ消えたのか?』(講談社)
川本大吾
1980年代末まで世界一の漁業大国として、和の食文化を支えてきた日本の漁業。だが近年は漁獲量もベスト10圏外に落ち凋落著しい。なぜいまのような状況になっているのか。気候変動・乱獲などによる不漁、せっかくたくさん獲っても一般消費者の食卓まで届かない流通の問題、サーモン、サバをはじめ、海外からの輸入増大、後継者不足。日本の漁業の現在を長年の取材から明らかにしながら、これからの道を探る。
【目次】
第一章 減り続ける日本の魚
〇漁業生産、過去最低を更新中〇世界は増加傾向だが天然魚は頭打ち〇日本漁業、水揚げ1位はマイワシetc.
第二章 獲っても食べない国産魚
〇今の魚の自給率は半分近く〇スーパーの台頭が魚離れの原因か〇マグロやアジの開きも安さ重視etc.
第三章 日本一の魚を食べない理由
〇マイワシが魚の餌ではもったいない〇マイワシの流通阻む100グラムの壁〇職人からも調理が敬遠される etc.
第四章 消費の主役は外国魚
〇伝統・郷土料理にもノルウェー産〇ノルウェーに漁港がない理由〇アフリカ諸国で人気、日本産のサバetc.
第五章 秋の味覚はいつ復活するのか
〇豊漁には程遠い推定資源量〇サンマ漁業関係者の苦境〇マグロ漁やイカ漁へ挑戦etc.
第六章 揺れ動く日本のマグロ事情
〇「大間まぐろ」がほかの追随を許さない理由とは〇マグロ管理の甘さを露呈、国の対応急務etc.
第七章 強化される内外のマグロ管理
〇日本周辺のマグロ、一時は最低水準に〇流通の主役・普及品のメバチマグロ
第八章 マグロ人気に陰り・サーモンが台頭
〇当初は「日本では無理」と門前払い〇回転寿司やスーパーのマグロはおいしいかetc.
第九章 おいしいマグロが食べたい!
〇冷凍マグロのおいしい解凍法とは〇血合いには赤身の100倍のセレノネインがetc.
第十章 大衆魚の利用が水産業復権のカギ
〇獲れる魚を食べられるように〇小サバのうまい食べ方とは?etc.
第十一章 漁師の減少を食い止めよう
〇10年前の3割減〇各地で続々、女性漁師が誕生etc.

![【Amazon.co.jp限定】鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 豪華版Blu-ray(描き下ろしアクリルジオラマスタンド&描き下ろしマイクロファイバーミニハンカチ&メーカー特典:谷田部透湖描き下ろしビジュアルカード(A6サイズ)付) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Y3-bul73L._SL500_.jpg)
![【Amazon.co.jp限定】ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~ *Blu-ray(特典:主要キャストL判ブロマイド10枚セット *Amazon限定絵柄) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Nen9ZSvML._SL500_.jpg)




![VVS (初回盤) (BD) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51lAumaB-aL._SL500_.jpg)


