「逃げたら死ぬ」襲ってきたクマをボコボコに殴り大外刈りで“返り討ち”にしたラーメン店員(57)の告白「クマは硬かった」右目付近は10針の傷、脇腹は骨折〈青森・クマラーメン店襲撃〉【2025 クマ被害記事 3位】
「逃げたら死ぬ」襲ってきたクマをボコボコに殴り大外刈りで“返り討ち”にしたラーメン店員(57)の告白「クマは硬かった」右目付近は10針の傷、脇腹は骨折〈青森・クマラーメン店襲撃〉【2025 クマ被害記事 3位】

2025年度(1月~12月)に反響の大きかったクマ被害記事ベスト5をお届けする。第3位は、右目付近を10針も縫う大ケガをしたものの、子グマを見事に撃退した男性を取材した記事だった(初公開日:2025年11月17日)。

 

クマ被害の報道が相次ぐなか、青森県三戸町では9日、町内のラーメン店に勤務する50代の男性従業員が子グマに襲われた。男性は右目付近に大きな裂傷を負ったものの、子グマを殴り続け、最後に脚を刈り上げて後ろに投げ飛ばした。子グマは男性を襲うのを止め、近くの山へ逃げていったという。クマを“返り討ち”にした男性Aさんが当時の生々しい様子を明かす。

「殴った手のほうが痛い、クマの体は硬い」

11月9日午前6時20分ごろ、青森県三戸町のラーメン店の男性従業員Aさん(50代)から「クマに顔を襲われた」と119番通報があった。

事故の現場となったのは、三戸駅から南西に約3キロメートルの国道バイパス沿いにある「麺工房てんや三戸店」。午前5時から5時半にかけて、店舗裏でラーメンの仕込みをしていたAさんが体長約1メートルのクマに襲われ、右目付近に裂傷を負うなどのケガをしたという。

Aさんがクマに襲われた当時のことを振り返る。

「朝5時ごろに出勤し、店裏に出てガス栓を開けようとしたら、黒いものがモコモコって動いていて。大きい犬かなと思ったら、クマでした。大きさからみて子グマだと思います。そしたらいきなり俺の顔をめがけて、バーンと爪のある手で襲ってきた。避けきれなくて、右目付近を引っ掻かれてしまった。

とっさに左手でそいつ(子グマ)の顔面を殴ったんだけど、全然効かなかった。殴った手のほうが痛くてね。クマの体は硬い筋肉というか、鉄板みたいな毛皮に覆われている感じ。人とは全然違う」

男性は、子グマに反撃した当時の心境を「逃げたら終わるな、死ぬなと思っていたから必死の抵抗だった」と語る。

その後も子グマを殴り続けるものの、効果はいまいちだった。

「何度も殴ってもさ、全然びくともしない。とにかく手が痛かった。戦い方を変えて、クマの懐に入る感じで脚を引っかけたら、ゴロンと後ろに転がった。それで助かった感じですね。柔道でいう大外刈りでした。後に倒れたクマは国道の方にある店と反対側の山へ逃げていった」

子グマとの戦いを終え、男性は次第に痛みを感じ始めた。頭から血が流れており、右手で右目付近を押さえても血が止まらない。

仕方なく店にあったタオルで止血を試みたものの、吸収できないほどの血が流れ出ていたという。

「バトルみたいなことした」

午前5時半ごろ、ラーメン店のオーナーである佐々木剛さん(58)が出勤した。血まみれ状態のAさんを見て、「何かあったのか!?」と声をかけた。佐々木さんが当時の状況をこう証言する。

「何やってんの?って聞くと、襲われたって言うから、えっ?って思ってさ。最初は昨日飲みすぎて転んだのかな、飲んで転んでどこかに打ったのかなって思ったんだ。普通はそう思うじゃん。誰もクマなんて思わないよ。本人もクマって最初は言わねえんだよ。

でも話を聞くと、『転んでケガした。引っかき傷です』『バトルみたいなことした』って言うんだよ。聞き続けると、『クマを殴ったんです。足技で後ろに投げ飛ばしました』と言い始めて。

本人は『仕事できます』と言うけれど、血だらけだし、傷口にバイ菌でも入ったらとんでもないから救急車を呼べと言って、市内の病院に搬送されたわけ」

病院に搬送されることになり、冷静さを取り戻したAさんは救急車を待つ間、「脇腹も痛え、かなり痛え」と連呼していたという。

救急車がラーメン店に到着し、近くの大きい街である八戸市の市民病院に搬送された。診察の結果、Aさんは命に別条はないものの、右目付近を10針縫うケガをしていたほか、脇腹も骨折していたことが判明した。

診察時に医師からは「眉間の傷、骨が見えている」とも言われたという。それでもAさんは入院することなく、その日に自宅に帰れたという。

右目手術の可能性

Aさんはこれまで格闘技経験がなく、ラーメン屋で勤務する前は近隣の病院で医療従事者として長年働いていたという。男性がクマを投げ飛ばしたことは全国的な話題となり、連絡が相次いでいる。

「娘から『お父さん大丈夫? ニュース見た。これお父さんだよね』と電話がかかってきた。とりあえず生きてるよって返事した。友だちからも連絡が来て、今日は町長が『様子いかがですか』と俺の自宅にお見舞いにきたよ」

現在の様子はどうだろうか。

「いまは歩くと脇腹が痛いし、クマに引っかかれた右目はまだ腫れているから焦点が合わない。

スマホの画面が見えないんだ。もしかしたら手術をするかもしれないと言われている」

クマによる人的被害が全国で多発するなか、クマに襲われたらどうすればいいのか。Aさんは「どうしようもできない」と言い切る。

「『死んだふり』『前にかがんで防御姿勢』とか言うけど、そんな時間の余裕ねえよ。向こうは一瞬で顔を襲いに来るから。子グマだから助かったようなもんで、親グマだったら無理だろうな。ワンパンで俺は死んでいる。もう朝、夜なんてクマが怖くて歩けないです」

相次ぐクマ被害をめぐって、政府は14日の関係閣僚会議で3段階に分けたクマ被害の対策パッケージを取りまとめた。緊急対応として、自衛隊や警察OBなどへ協力を要請する方針だ。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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