「公務員は安泰」と言われる時代は終わりつつあるのかもしれない。長年、「クビにならない」と言われ続けてきた公務員だが、能力不足を理由に分限免職処分になるケースが各地で増加している。
2023年には、分限免職の処分を受けた熊本県宇城市役所の元職員の男性(26)が処分は不当だと訴訟を起こし、処分を取り消す判決が言い渡されている。こういった現状の中、奈良県五條市役所職員のAさん(20代)は、12月31日付で分限免職処分となると通知された。Aさんは『納得がいかない』と怒りをにじませながら取材に応じた。
採用からわずか半年あまりで市役所を解雇されたAさん
「解雇? これって解雇になるんですかね……。クビってことですよね……」
11月中旬、奈良県の五條市役所人事課から分限免職処分を告げられたAさんは最初信じることができず、そう漏らしたという。Aさんは今年4月に条件付き(試用期間あり)で採用され、処分を告げられた時は試用期間中だった。Aさんが五條市で働きだした経緯について語る。
「もともと私は九州地方の大学を出て、一般の企業や他の町役場で仕事をした後、五條市役所で働きだしました。
関西方面が好きだということと、五條市は市町村単位で柿の収穫量が1位であり、ふるさと納税を駆使した地方創生をしていきたいという思いから、五條市で働きたかったんです。もちろん公務員なら生活も安定するだろうという思いもありました」
Aさんが配属された産業観光課は企業の誘致や進出などに携わっており、奨励金や補助金に関する業務を行なっていた。配属されてから3か月ほどは課としてもAさんを育てていこうという雰囲気があったそうだ。
「仕事になかなか慣れることができず、申請書類の間違いや誤字、脱字の事務的ミスをしてしまい、それを指摘されていました。最初だから勝手がわからなかったのですが、『仕事が遅い』という烙印をおされたんです」
その頃から課の上司をはじめ、人事課に何を言っても信用してもらえなくなり、すべてがAさんに悪いほうに転がっていった。Aさんが続ける。
「『Aさんから仕事を発注された』と窓口に言いに来る方や、『補助金の申請が決裁されたはずだ』と言う方などがいました。私は『そんなことは言っていない』と言いましたが信じてもらえず、どんどん状況が悪くなっていきました。
また、私のデスクが汚かった時に、デスクの全面に『掃除しろ』などと嫌なことを書かれた張り紙を張られたりするようになりました。試用期間についても私だけ延長されてしまったのですが、そのことを課内で言い触らされたりもしましたね。『私を追い出そうとしているんだろうな』ということは感じていました」
何を言っても上司や人事課に信用されず…
仕事面だけでなく、私生活についても誤解を生むような事態が生じたというAさん。誤解はすべて解けなかったという。
「春に五條市に引っ越してきて、すぐに夏になりますし暑い間は水風呂ですまそうと考え、ガス会社と契約をせずにいました。家に来る契約の案内のハガキも無視していたら、ガス会社の人が市役所の窓口まで来たのです。
そのことが問題になったのですが、私が『お金を払っていないのではなく、契約をしていないだけです』と言っても最初は信用してもらえませんでした。
他にもあらゆる物事がAさんにとって都合の悪いほうへ動いていった。話を聞けば聞くほど、失敗も多く誤解されがちなAさん。処分を受けた決定的な理由について何か思い当たるフシがあるのか。Aさんに尋ねてみた。
「私に対する当たりがきつくなった時期に五條市役所での仕事はもう続けられないと思って、他の地域の自治体の面接を受けようと、その自治体の人事課にメールを送ったことがあるんです。それがまさか、面接を受けたい自治体ではなく五條市の人事課に送ってしまっていて……。そういったことも辛く当たられた理由のひとつかもしれません。
11月21日に正式に免職通知をもらいましたが、免職理由には『勤務態度及び公務外において公務員として相応しくない行動があり、指導したにもかかわらず改善されていないため、公務員としての適格性を欠くと判断する』と書かれていました。人事課もはっきりとした言い方はしませんでしたが、事務のミスやガス会社のことなどは面談時に言われました。
あとは市役所内で車の事故が起きたときに、その事故について業務時間中に市役所職員の同僚と1、2通ほどメールのやり取りをして、それが服務規程違反にあたるという話もされました」
しかし、Aさんはこの免職理由に納得がいっていないという。
「私はこれまで無遅刻無欠席でしたし、仕事をこなすのは早くなかったかもしれませんが業務に真面目に取り組んでいました。服務規程違反と言われたメールの件にしても事故があった日はメールをしましたが、いつも業務中にメールをしているわけではありません」
「市役所内で検討し、顧問弁護士にも相談した上で最終的に市長が決定」
五條市役所はAさんに対する分限免職についてどのように考えているのか。
「Aさんは公務員で決められている6か月の試用期間の条件付きで採用しました。通例ではその後に正式採用になるのですが、Aさんについては勤務態度、ないしは公務外において公務員としてふさわしくない行動をしており、指導しても改善する見込みがなく、適格性を欠くという判断にいたりました。
いたった事実を積み上げておりますが詳細はお話しできません。懲戒処分までにはいたりませんが、服務規程違反に該当するような行動をしており、注意すべき点が何点かありました」
分限免職処分についてはどのような形で決定するのか。また、明確な基準があるのか担当者に尋ねてみた。
「基本的には分限免職は公務員の仕事に合っていないというような方が対象になることが多いのではないでしょうか。今回についても慎重に市役所内で検討しましたし、顧問弁護士にも相談しました。その上で最終的に市長が決定をした形です。
Aさんについては今まで起こした問題の積み上げと、本人から事実確認をとって最終決定をしました。私が知っている限りでは、今まで五條市で分限処分が行なわれたという話は聞いたことないので、今回が初めての可能性もあります。
また、試用期間の延長も今回が初めてだったと思います。
Aさんは残っている有休を消化し、12月31日付で職を失う。取材の最後にAさんは『本当に私は五條市役所を辞めたくなかったですし、これからも五條市で働きたかった』と強い口調で語っていた。
市役所の判断は妥当なものだったのか。いずれにせよ、公務員であってもその仕事ぶりはしっかりと上から見られている。「公務員になれば一生安泰」という神話は崩壊しつつあるようだ。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部ニュース班

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