だから高市総理は「標的」に選ばれた––––経済失速に焦る習近平が異例の”敗北宣言”…中国共産党が脅える「2026年の悪夢」の正体
だから高市総理は「標的」に選ばれた––––経済失速に焦る習近平が異例の”敗北宣言”…中国共産党が脅える「2026年の悪夢」の正体

高市早苗総理の存立危機発言以降、悪化を続ける日中関係。だが、これに対し「習近平に焦りがみえる」と指摘するのは経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏。

「なぜ独裁者はこれほどまでに焦っているのか。その答えは、厳しい経済指標と、都市部に広がる荒涼とした風景の中にある」と小倉氏が解説する。

もはや国家の体裁を保てないという悲鳴

北京に吹き荒れる風は、かつてないほど冷たく、そして焦燥感に満ちている。

12月8日、中国共産党の心臓部とも呼ばれる政治局会議において、一つの決定的な方針転換がなされた。それは、外部から見れば単なる言葉の綾に見えるかもしれないが、専門家の目には「敗北宣言」とも映る異例の事態であった。

これまで習近平政権は、過度な借金に頼らない「質」の高い成長を掲げ、金融政策においても「適度」という曖昧な表現で慎重姿勢を崩さなかった。

しかし、この日の会議で彼らが決定したのは、2026年に向けて「より積極的な財政政策」と「適度に緩和的な金融政策」を導入するという方針である。

「緩和的」という言葉が党の公式文書に刻まれたのは、実に15年ぶりのことだ。これは、なりふり構わぬ景気刺激策、すなわち劇薬を投入しなければ、もはや国家の体裁を保てないという悲鳴に他ならない。

なぜ、独裁者はこれほどまでに焦っているのか。その答えは、厳しい経済指標と、都市部に広がる荒涼とした風景の中にある。

崩れ去った不動産神話、希望と職を失った若者

中国経済を支えてきた不動産神話は完全に崩れ去った。建設途中で放置された巨大マンション群は、新たな入居者を迎えることなく風化し、地方政府の財政を圧迫し続けている。

物価が下がり続けるデフレの波は、人々の消費意欲を奪い、企業から投資の活力を削ぎ落とした。

若者たちは職を失い、希望を失い、ただ静かに社会から背を向けている。こうした絶望的な状況下で、習近平指導部が掲げる「2026年の成長率目標5%前後」という数字は、もはや実現不可能な妄想に近い。

それでもなお、この数字に固執するのは、独裁体制の正当性を維持するために、どうしても「成長」という物語が必要だからである。

ロイター通信は、この政治局会議の決定が意味するものを冷静に報じている。

借金という名の麻薬を打ち続ける

「中国共産党の最高意思決定機関である政治局は月曜日、国営メディアの新華社通信が伝えたところによると、中国は2026年に向けて内需の拡大を維持し、より積極的な政策で広範な経済を支援するという」

「『より積極的な財政政策』と『適度に緩和的な金融政策』についての言及は、来年の成長目標(恐らく5%前後に留まる見通し)を達成するために、高い財政赤字、国債の発行、そして追加の利下げを示唆しているとアナリストらは指摘する。

『来年の成長目標は再び5%前後に設定されると予想している。中国は堅調な輸出に頼ることでそれを達成できるからだ。たとえ輸出が一時的な課題に直面したとしても、政府は財政政策を使ってその穴を埋めることができる』と、ユーラシア・グループの中国ディレクター、ダン・ワン氏は述べた」

(ロイター通信『中国は2026年に向けて、より積極的な政策で需要拡大を約束』 12月8日配信)

この記事が指摘するように、習近平指導部は「財政の穴埋め」によって無理やり数字を作ろうとしている。だが、それは借金という名の麻薬を打ち続けることに他ならず、根本的な解決にはなり得ない。

だから高市総理は「標的」に選ばれた

国内経済がガタつく中で、対外的にも追い詰められた独裁者が次にとる行動は、歴史が教える通り、決まって「外敵」を作ることだ。

国民の不満を逸らし、愛国心という名の熱病で社会を統合するために、手頃な敵が必要となる。そして今回、その標的として選ばれたのが、日本の高市早苗首相であった。

高市首相は、台湾有事に関して「日本の存立危機事態になり得る」と明言し、長年維持されてきた「戦略的曖昧さ」を軽率にも放棄してしまった。一見、勇ましい発言に聞こえるが、その論理は破綻している部分があると言わざるを得ない。

なぜなら、米国のトランプ政権が「アメリカ・ファースト」を掲げ、台湾防衛に介入しない可能性を完全に無視しているからだ。頼みの米軍が動かなければ、そもそも自衛隊が米軍を防護するという「存立危機事態」の前提条件自体が消滅する。

最大の変数を考慮せず、単なる願望で安全保障を語るその短絡的な姿勢は、主権国家のリーダーとしてあまりに未熟であり、中国という老獪な喧嘩相手に格好の隙を与えただけである。

ただ、中国側の反応も常軌を逸していた。

米TIME誌「中国政府は過剰に反応している」

「軍国主義の復活」だの「歴史の反省がない」だのと、使い古されたプロパガンダを大音量で叫び立て、日本への渡航自粛や水産物の輸入停止といった報復措置に出たのである。理性的な外交対応とは程遠い、ヒステリックな感情を爆発させたのだ。

米TIME誌は、この異常な反応の背景にある中国側の「本音」を、鋭い視点で分析している。

「台湾を巡る日中間の対立は、中国の経済的苦境から目を逸らすための有効な気晴らしであり、日本バッシングはナショナリズムの劇場でうまく機能するものの、そこにはリスクもある。

中国政府は過剰に反応しており、ニューデリー、キャンベラ、ジャカルタからマニラ、バンコク、ハノイ、ソウルに至るまで、『不安定の弧』を煽っている。日本の地域のパートナーたちは身を潜めているが、中国の好戦的な振る舞いと、それが何を前兆としているのかについて、不安を感じずにはいられない」

「高市首相が就任早々に二国間関係を破壊したのはなぜか。(中略)高圧的な中国は、防衛費の大幅増額という彼女の公約に対する国内支持を集めるのに役立つ。

さらに、中国に立ち向かうことは彼女の保守的な支持層にとって魅力的な餌であり、ドナルド・トランプ米大統領の尊敬を勝ち取ることも期待したのかもしれない」

(TIME誌『日本の高市早苗はいかにして中国との関係を破壊したか』11月30日配信)

理性を失った独裁政権の末路

この記事にある通り、中国にとって高市首相への攻撃は「経済的苦境から目を逸らすための気晴らし」に過ぎない。しかし、その代償はあまりにも大きい。

日本への団体旅行を禁じ、水産物を締め出すことは、一見すると日本への制裁に見えるが、その実、中国国内の旅行代理店、航空会社、日本料理店、そして水産加工業者を直撃する「自傷行為」である。

中国のSNS上では、日本旅行を楽しみにしていた市民からの嘆きや、突然の禁輸措置で廃業に追い込まれる業者の悲鳴が溢れている。

経済が疲弊し、ただでさえ仕事が少ない中で、観光や飲食という数少ない雇用の受け皿を、政府自らが破壊しているのだ。これこそが、理性を失った独裁政権の末路である。

メンツを守るためならば、国民の生活などどうなっても構わないという冷酷な本音が、透けて見えるではないか。

習近平指導部は、「より積極的な財政政策」で経済を回そうとしているが、一方で外交においては自国の経済活動を阻害するような喧嘩を売り続けている。

アクセルとブレーキを同時に踏み込むようなこの支離滅裂な行動は、彼らがパニック状態に陥っている何よりの証拠だ。

国内に渦巻く不満がいつ爆発するか

12月8日の政治局会議で示された「焦り」と、高市首相に対する異常な「攻撃性」。この二つは別々の現象ではない。根っこは同じだ。

自らの失政によってボロボロになった経済を直視する勇気がなく、国内に渦巻く不満がいつ爆発するかと怯える、孤独な独裁者の恐怖心である。

かつて「戦狼外交」と呼ばれた威圧的な態度は、いまや「負け犬の遠吠え」へと変わりつつある。張り子の虎は、自らの体が燃え上がっていることに気づきながらも、吼えることを止められない。

なぜなら、吼えることを止めた瞬間、足元に広がる経済崩壊という深い闇に呑み込まれてしまうことを、誰よりも彼ら自身が知っているからだ。

我々日本人は、この隣国の錯乱した姿に惑わされてはならない。毅然とした態度で原則を貫き、自由と民主主義の価値を守り抜くこと。そして、中国という巨大なリスクから距離を置き、自国の経済と社会を強靭に保つこと。

それこそが、崩れゆく巨龍の断末魔に巻き込まれないための、唯一にして最大の防衛策なのである。歴史の審判は、すでに下されようとしている。

虚構の数字と暴力的な言葉で塗り固められた城塞が、音を立てて崩れ落ちるその時まで、我々は冷静にその行方を見届ければよい。

文/小倉健一 写真/shutterstock

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