田久保眞紀前市長(55)の学歴詐称・大学卒業証書偽造疑惑によって、市議会解散、出直し市議選、さらには田久保氏の失職と大混乱が続いた静岡県伊東市。出直し市長選はあす14日に投開票が行われる。
「私しかいない」小さな港で第一声のマイクを握った田久保氏
12月11日に地元の伊豆新聞が報じた選挙戦の中盤情勢は、田久保氏の前職の小野達也元市長(62)と杉本憲也前市議(43)が先行し、田久保氏と会社役員の新人・黒坪則之氏(64)が追う展開になっている。
土俵際に追い込まれたように見える田久保氏は市南部の小さな港で第一声のマイクを握り、「このままではあの山が危ない。この海が危ない。それを防ぐことができるのは私しかいない」と訴えた。港まで足を運んだ支持者は20~30人。メディアはその倍ほどが集まった。
演説で田久保氏は、自分が反対運動の中心にいた伊豆高原のメガソーラー開発計画が再び動き出して環境を破壊する恐れがあり、自分の前に2期市長を務めた小野達也氏がその下地を作ったと小野氏を責め立てた。
「前の前の選挙(2021年)で私たちは小野達也さんを信じて応援しました。現職の市長でなければこの(メガソーラー)問題は止められないと思って一生懸命応援したんです。ところが、その選挙中にはもう確約書が交わされていて私たちは裏切られていた」
絶叫する田久保氏。彼女が主張する“裏切り”とは何か。
「小野市長時代に伊東市は、建設現場そばの川に橋を架けて重機を入れることを認めない河川占用不許可の決定を出しています。これで工事ができなくなり、業者は決定の取り消しを求める裁判を起こしています。
いっぽうで22年に当時の小野市政は、問題の川に建設予定地から排水を流す内容の宅地造成等規制法(宅造法)の認可を出しています。
この許可前の2021年2月に小野市長が業者に対し『事業遅延により発生する損失を最小限とするため』として、①河川占用不許可取り消しを求めた裁判で控訴棄却(市敗訴)の判決が出れば速やかに許可する②宅造法に基づく許可審査に迅速に対応する――という内容の『確約書』を交わしていたことがわかっています。
これを田久保氏は、当時の小野市長が建設に反対するふりをしながら裏で業者を助けたという風に主張しています」(地元記者)
自分の学歴詐称スキャンダルを覆い隠す“疑惑”を言い立て、最有力とみなす小野氏に批判の照準を絞った形だ。
選挙が1回で成立するのかという不安が拡大
いっぽうの小野氏は選挙告示前日の6日、YouTube番組リハックの討論会で「書類が整えば、許可は出さなければなりません。また確約書というものを入れましたが、これは大きな損害賠償を求められておりましたので、そのリスクヘッジということで書いたもので、それ以降事業は一切進んでおりません」と反論。
選挙戦に入ると、田久保氏が引き起こした市政の混乱ぶりを強調し、収拾できるのは自民党の支援を受けた自分しかいないと訴える。
「今、伊東の子どもたちは全国の方々に笑われている。馬鹿にされている。そういう状況をどうしても許せない。なんとかしたい」
そう叫んだ初日の出陣式には自民党の静岡県議や伊東市議に加え、国会議員も顔をそろえた。防衛大臣政務官の若林洋平参議院議員は「高市総理も『洋平ちゃん、(応援に)行くの?』って聞いてきました」と、高市政権も肩入れしていることをアピール。
組織力を見せつけ盤石にも見える小野陣営。だが、この組織型選挙で田久保氏との一騎打ちに敗れたのはことし5月のことだ。
出陣式に参加した県議は「前回の選挙に比べて心配です。(きょう集まった)伊東の市民の方が前回より少ないんですよ」と心配を口にする。
小野陣営からは別の懸念も出ている。
市長選は最多得票を得た候補者でも投票数の4分の1を獲得しなければ再選挙となる。9人もの立候補者が出る中、選挙が1回で成立するのかという不安が拡大。
小野陣営の県議は「(最多得票の候補者の得票が)25パーセントに行かない再選挙をやった町がこれまで2つもあります。3回もやったところもあるんです。市民の皆さん、それでいいんですか」と訴える。
第三極の杉本氏は「もう足の引っ張り合いはやめましょう」
伊東市では「2期やった小野さんがあまりに不人気だから前回選挙で田久保さんに票が流れた。
その間隙をつき、前回小野氏を推薦した連合静岡に加え、国民民主党からの推薦も取り付けた杉本氏が小野氏を追い抜く可能性もある。
田久保、小野両氏の批判合戦を念頭に「もう足の引っ張り合いはやめましょう」と2人ともをチクリと批判する杉本氏は「伊東市は今、過去の政治に戻るのか、そして前に進むのか、問われている」とも言い、過去の政治を連想させる小野氏を主要な敵とみなしているようだ。
特定行政書士でもある杉本氏は40代の若さと6年間の市議経験を挙げ、「過去は過去で、それを踏まえた上で未来に向かって前に進めていく。そのために若さと政治経験とそして専門知識を武器に、変わったぞと言われるものを作っていきたい」と攻勢をかけている。
嘘をつく、との意味の「タクボる」という言葉が子どもたちの間で流行った伊東市。リハックの討論会で司会者からこの現象をどう思うかと聞かれた田久保氏は、
「伊東市っていう言葉が良くも悪くも有名になったというところで、ここからこの有名になった伊東市の知名度をどういう風に利用していくのかっていうのは大事だという風に思っています」
と胸を張ったりもした。有名になりすぎた伊東市の未来は果たして――。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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