情報は足りているのに心が消耗する…現代人が陥る「情報の新型栄養失調」とは
情報は足りているのに心が消耗する…現代人が陥る「情報の新型栄養失調」とは

私たちは毎日、ニュースやSNS、動画など膨大な情報に触れている。にもかかわらず、不安が募り、心が疲弊していく感覚を覚える人は少なくない。

その背景にあるのが、十分な情報量を摂取しているにもかかわらず、内容が偏ることで心身に不調をきたす「情報の新型栄養失調」だ。

現代人が陥りやすいこの状態と、健全な情報との向き合い方について、『戦略的暇 人生を変える「新しい休み方」』より一部を抜粋、編集してお届けする。

現代人が陥る「情報の新型栄養失調」

情報の栄養バランスに注意「新型栄養失調」とは、私たちの生命活動に必要なカロリーは充分足りている反面、ビタミンやミネラルなど必要な栄養素の摂取量が不足している状態のことです。

極端な粗食や偏食が原因とされており、免疫力や運動機能の低下などの大きなリスクを孕んでいます。従来の栄養失調は食事から得るカロリーがそもそも足りていない状態なのですが、摂取カロリーは足りていても(過剰に摂取していても)、特定の栄養素が足りていないことから生じます。実は、栄養失調は食料が慢性的に不足していた時代の話だけではないのです。

ここから転じ、情報の新型栄養失調という造語が指し示すのは、「充分すぎる量の情報を消費しているのに、その情報バランスは偏っており、自身のメンタルヘルスを損ねている状態」です。

これまでの章で触れた通り、ネット上で得る情報は自分の興味・関心のあることがメインかつ、その情報も非常にかいつまんで説明されたもの(加工されたもの)が多いです。

そして、アルゴリズムによって「自分が関心を持つと思われる情報」が優先的に送り届けられるため、消費する情報のバランスを欠くことに繫がります。

ニュースメディアやSNSに出回る情報の中には読者の不安や注意を過度に煽るジャンクな情報も多いため、刺激はあれど人生においては役に立たない情報を貪り続けるのは避けたいものです。

自分が口にするものに何が入っているのか意識をする人は多いものの、情報にはそのような成分表示はされていません。最近、ショート動画がよく出回るようになりましたが、ファクトチェックが不充分なコンテンツも多く、事実誤認どころか視聴回数を増やすために事実を誇張、歪曲しているような動画も見受けられます。

英語には〝You are what you eatあなたはあなたの食べるものでできている〞という言葉がありますが、私たちの脳は情報を食べて、その情報から目の前の世界を形作っていきます。



現代人の情報における栄養バランスは非常に悪くなりがちだと自覚したうえで、意識的に情報の好き嫌いをなくして幅広い情報を摂取する必要があるのです。

スローメディアの重要性

近年、速報性を優先したストレート・ニュースを発信するメディアだけではなく、綿密な取材や洞察に基づいたコンテンツを発信するスローメディアの重要性が高まっています。

スローメディアはスローフード運動に影響を受けており、まさに食事と同じく情報の量や提供される速さよりも質を重視しています。

米メディア「ニューヨーカー」「ニューヨーク・タイムズ」「アトランティック」などは、即時的な内容を伝えるよりも情報の信憑性や独自の深い分析を信条とし、長編記事が多く掲載されています。

また、日本国内の情報だけだとどうしても視野が狭くなりがち。事実、デジタルデトックス(以下、DD)に関しても海外メディアのほうがいち早く取り上げていたのに対して、日本でDDについての報道をよく見かけるようになったのはコロナ禍以降のことでした。

今はネット上で記事を翻訳して読むこともできるので、海外のニュースメディアを覗いてみるだけでも発見が得られるでしょう。人と異なる情報を摑むことは、人生においても大きなアドバンテージになります。

スローメディアは、読み応えのあるボリュームの記事が多く、確かに記事を読むには労力を要します。しかし、ゆっくり咀嚼しながら読むからこそ得られる学びや気づきもあり、自分自身の栄養になります。食事と同じく、「よく噛んで食べる」ことは大事なのです。

ネットの情報は大量だけど、均一的

DDの必要性について懐疑的な人たちからは、「DDをしているとデジタル上で有用な情報を得る機会をみすみす逃してしまう」と意見をいただくことがあります。確かに、こういった気持ちになるのもわからなくはありません。

しかし、情報というのはデジタル上で見かける記事や動画といった類のものに収まりません。

誰かと話していて得られる気づきも情報ですし、自分の内から発せられる体感や直感のようなものこそ、見すごすべきではない情報です。

情報を「私たちが行動をする際の判断基準となるもの」だと定義すると、情報に類するものは非常に幅広く、中には「論理的には説明がつかないもの」も含まれます。「第六感」などが、まさにそうですね。

そもそも、自然界で得られる情報は五感を通して感じられるのに対し、デジタル上で用いるのは視覚と聴覚と極めて限定的です。スマホを手放してみるだけで、実は身の回りには(あるいは自分の中には)たくさんのリッチな情報があることに気づくはずです。

現代のデジタル社会においても、情報の流通量だけで言えば非常に多いのでリッチな情報といえるかもしれません。しかし、ほとんどはデジタル上で多くの人に届けるために最適化されるので似たような形が取られています。つまり表現としては、「均一的な情報が大量にある」が正しいでしょう。

たとえば、書籍や記事でよく見る「~が〇割」「~するための〇つの方法」といった紋切型の見出しもその一つ。ひとたびこのような見出しが多くの人の注意を引くとわかると、似たような見出しが大量に出回るようになります。

これは見出しだけでなく、コンテンツそのものにも同じ傾向が当てはまります。ネット記事では「まとめ記事」やリスティクル記事が増えましたが、これも大量かつ均一的な情報をいかに整理して、効率よく消費してもらうのか考慮された末に生まれたコンテンツ形態です。


リスティクル記事:list(リスト)とarticle(記事)から成る造語。「〇〇のための10の方法」などの見出しをつけた事実のみを列挙したまとめ記事。

文/森下彰大 写真/shutterstock

戦略的暇―人生を変える「新しい休み方」―

森下彰大
情報は足りているのに心が消耗する…現代人が陥る「情報の新型栄養失調」とは
戦略的暇―人生を変える「新しい休み方」―
2025/4/241,980円(税込)320ページISBN: 978-4868010753

▼「ビジネスブックマラソン」(2025/04/23)で紹介され、大反響!



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立ち止まることで、人生が変わる
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「仕事がうまくいかない」「人間関係で悩んでいる」
「最近、寝ても寝ても眠い」「いつも不安や焦りを感じている」
「頭痛、腰痛に悩まされている」など、
現代人が抱えている様々な問題は、
“脳疲労”が原因です!

デジタル技術の急成長により、
私たち人間は“脳疲労”を経験しています。
現代特有の「徒労感」や「生きづらさ」から脱却し、
幸福な生き方を描くために──
大切なのは、「タイムアウト(一時休止)」。
自分の人生に「ポジティブな変革を起こす」ための休息が必要です。

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今の私たちに足りないのは、余白ではないか。
私たちが思うように力を発揮できないのは
「ケイパビリティ(能力)」ではなく、
「キャパシティ(許容量)」の不足が原因なのではないか、と。
スマホの充電は満タンなのに、
自分の充電ができていない人がたくさんいます。
でも、やっぱりそれは勿体ないこと。
              ――「はじめに」より

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本書では、古今東西の膨大な研究や名著から、
「なぜ、人は充実した時間を失っているのか」
という問題について考え、現代社会を俯瞰します。
脳疲労から、そして「効率主義」をはじめ
現代人がとらわれるバイアスから脱却する方法として
3つの戦略的“暇”を提案します。
ぜひ、今日からでも戦略的“暇”に取り組み
自分のために充実した時間を取り戻しましょう!

【目次例】
PART1 戦略的“暇”とは?
第1章 私たちはどこから来たのか
1.最高のOFFから最高のONを生む
2.良質な暇の希少化と「新しい休み方」の必要性
4.暇の向かう先は必ずしも善ではない     など
第2章 デジタル社会は私たちをどう変えたのか
1.ほぼデジタルライフに生きる私たち
2.AI時代に欠かせない創造性が奪われる
3.身体への影響 など
第3章 デジタル社会と分断される「今」
1.糾弾されるテック企業
2.フィルターバブルとエコーチェンバー
3.タバコより強い誘引力を持つSNS
4.孤立する「今」──ナウイズムの檻 など
PART2 これからのデジタル社会をどう生きるか
第4章 デジタルと共存する「新しい休み方」 STEP1:デジタルデトックス
1.「依存」ではなく「共存」する
2.現代人が陥る「情報の新型栄養失調」 など
第5章 コスパ・タイパからの脱出 STEP2:時計時間デトックス
1.時計時間にとらわれる私たち
2.時計時間からの脱出方法①:フロー など
第6章 凝り固まった「私」を解き放つ STEP3:自分デトックス
1.デジタル的に括られた自分
2.禅が目指すのは「自分の消失」 など
第7章 ゲーム・チェンジャー「スぺパ」
1.他者との交わりから自分を見つける──バフチンとメロン
2.個人で「スぺパ」を取り入れる など

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