会議が終わったはずなのに、なぜか頭の中はスッキリしない。資料も議題も用意したのに、次に何をすればいいのかが見えない――。
会議と雑談と1on1のすべてを兼ね備えたコミュニケーション術
壁打ちによって頭の中のモヤモヤが構造化される、というのを第0章でお話ししました。でも、そもそも「壁打ち」って何を指すのか、何をするのか、よく分からない方も多いのではないかと思います。そこで会議や雑談、1on1などと壁打ちの違いをまず確認していきましょう。
もちろん似ている部分もありますが、明らかな違いがあると僕は感じています。
まず、会議との違いは、必要とされる「議題」や「資料」の精度、そして結論を求められるかどうかです。
会議を開くとなると、必ず「〇〇についての会議」と議題が設定され、その議題に向けて参加者は準備を求められます。会議の目的や主催者のタイプによっては、かなり作り込んだドキュメントやパワポの資料を期待される場合も少なくないでしょう。
また、「〇〇についての会議」には必ず、その時間を費やしただけの「成果」が求められます。
結論や次の展開につなげるアクション、課題を明文化してチームに共有したり、上司に報告したり。
壁打ちは会議と違って丸腰でOK
壁打ちの場合、議題=「イシュー」は、多少あやふやでもOK。
「来年に向けて、なんとなく部署を越えたイベントをやってみたいなぁと考え始めたばかりで。よかったら壁打ちにつき合ってくれませんか?」
そんな、ぼんやりスタートが許されるのが壁打ちの素晴らしいところです。
議題がぼんやりしているので、ちゃんとした資料を準備できるはずもなく、「資料なし」の丸腰で話を始めても相手から失礼だと思われない。「壁打ちなんだから、そりゃそうだよね」と分かってもらえるという気軽さがあります。
さらには、結論が出なくてもよし。なぜなら壁打ちの目的は、結論を導き出すことではなく、「言葉のやりとりを通じて、モヤモヤを言語化していくこと」だからです。
30分や1時間話したところで、「あ~、なんとなく形が見えてきました!」という感覚をつかめたら大成功。きれいな箇条書きで結論を並べられなくても、「壁打ちなんだから、そりゃそうだよね」と受け入れられる寛容さがあります。
だからといって何も進んでいないかというとそうではなく、壁打ち前と壁打ち後では明らかにモヤモヤがスッキリと整い、言語化レベルが上がっています。「ということは、次はこれをやるべきだ」とネクストアクションが見えて行動が始まる起点になる効果は大きいのです。
つまり、「次の行動へと進める」という推進力のパワーは会議と同様にありながらも、会議よりもずっと気軽でハードルが低く、始めやすいというよさが「壁打ち」にはあるのです。
壁打ちと雑談の大きな違いは「問いかけ」
では、気軽に始められるという点で似ている「雑談」と壁打ちの違いは何でしょうか?
これはシンプルに、「イシュー」があるかどうかです。つまり、「解決すべき問い」の設定ですね。会議と違うのは、このイシューがゆるくていいということです。
「〇〇とは、結局なんなのだ?」
「なんのために〇〇をやっているんだっけ?」
「〇〇をどう進めていったらいいのか?」
そんな問いかけから、壁打ちは始まります。
テニスでは、最初にポーンとボールを上げて相手コートに打ち込むサーブからラリーは始まります。壁打ちにはこのサーブボールが必ずあるのに対し、雑談にはサーブがありません。ただ思うままに、話したいことを散漫に話してもOKというコミュニケーションが雑談なんですね。
これはこれで「幅広い話題を共有しながら放出・発散できる」という効果があるわけですが、壁打ちの場合は特定の問いに関連するモヤモヤを整理するのに役立ちます。
ちなみに先に挙げた3つの問いは、僕が壁打ちで使う典型的な問いのパターンなのですが、それぞれ「WHAT(定義)」「WHY(目的)」「HOW(方法)」についてのモヤモヤをスッキリさせる入り口になります。
「〇〇とは、結局なんなのだ?」=WHAT(定義)
「なんのために〇〇をやっているんだっけ?」=WHY(目的)
「〇〇をどう進めていったらいいのか?」=HOW(方法)
1on1は壁打ちよりも「個人的」なことがある
では、2人で行う面談、「1on1」との共通点と違いも明らかにしてみましょう。
共通点は、やはり1対1のコミュニケーション量を上げて、信頼関係を築く効果でしょう。「あなたのために30分の時間をとる」という設定そのものが、関係性を育みます。
では違いは何か、というと、イシュー=「解決すべき問い」の種類です。
壁打ちでは仕事上の課題などがイシューとなりますが、1on1ではしばしば「メンバー個人について」がテーマになることがあります。
壁打ちよりも深く互いを知ることができるコミュニケーションだと言えますが、仕事上での課題にフォーカスする場合には、壁打ちのほうがよりラフでスピーディであり、壁打ちを受ける側にも業務に関する知見が必要となってくるでしょう。
1on1は精神的に、壁打ちは実用的にチーム間のグルーヴを上げてくれるコミュニケーションとして僕は捉えています。僕の場合は1on1もかなりラフなコミュニケーションになるように心がけていますし、そうあるべきだと思っているので、1on1の中に壁打ち的な要素が入ってくることがあるイメージです。
会議の推進力と、雑談のラフさと、1on1の関係性構築力、これらすべてのいいとこどりができてしまうのが「壁打ち」なのです。
あらためて、すげーーー!!!と感動しています。
ブレストと壁打ちは似て非なるもの
それでは最後に、もっとも近そうなブレストと比べてみましょう。ブレスト=ブレイン・ストーミングは、その語感から壁打ちとかなり近い印象があるかもしれません。しかし、実は明確な違いがあると気づきました。
それは、「イニシアティブ」です。
ブレストの場合は、複数人が一つのイシューについて対等に意見を交換し合うというイメージで捉えてみてください。Aさんの意見に対し、Bさんが意見を言い、またCさんも意見を出す。まさにストーミング(嵐)のようなアイデアの交換。
一方で壁打ちでは、はじめのサーブを打ち込む人が主役になります。
WHAT?WHY?HOW?と自分が今明らかにしたいモヤモヤのイシューを打ち込んで、相手の返しを受けて、さらに打ち返していく。最後にボールを受け取るのも、はじめのサーブを打ったその人です。
「それってつまり?」「どうしてそれをやりたいの?」「どうやったらそれができるの?」と問いを重ねていくうちに、ビジョンやネクストアクションが明らかになっていきます。
つまり、「壁打ちをお願いします」とアクションを起こしたその人が、イニシアティブ(主導権)を持ってアイデアを膨らませることができる。誰かからの指示を待って決められたとおりに動くのではなく、自分の中から生まれたアイデアをベースに行動を起こす。壁打ちは「自分起点の思考術」なのです。
だから「壁打ち」。テニスの壁打ちと同じで、あくまでサーブを始めたその人が主体。相手は「壁」なんです。
自分が言い出しっぺとしてイニシアティブが持てる。
それが壁打ちのほかにはない最高の価値なのです。
文/伊藤羊一 写真/shutterstock
壁打ちは最強の思考術である
伊藤羊一

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