2016年に相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で入居者45人を殺傷した植松聖死刑囚。そんな彼と獄中結婚した女性が今年の2月に初めて植松聖死刑囚との面会を果たした。
月刊『創』の篠田編集長による『死刑囚と家族になるということ』より一部抜粋、再構成してお届けする。
植松聖死刑囚と獄中結婚した妻が面会室で交わした話
最初に翼さん(仮名)から話を持ち掛けられてから半年余。やまゆり園障害者殺傷事件・植松聖死刑囚と獄中結婚した彼女が2025年2月28日に初めて面会を果たした。
私と植松死刑囚の代理人弁護士も同行したが、私だけ接見許可が得られておらず、待合室で待つことになった。
結婚が成立したのは12月5日だから、そこからでも3カ月弱、最初に婚姻届けを提出してから半年もかかった。死刑囚の処遇に関わる東京拘置所の一連の対応には大いに疑問を感じたが、粘り強い交渉でやっと翼さんの接見が認められたわけだ。
もともと翼さんが植松死刑囚に会いたいという話から始まった獄中結婚だが、実際に面会するまでに半年以上もかかったというこのことに、死刑確定者の置かれた状況が示されている。
そもそも死刑囚がどんな処遇を受けているかについては社会的にほとんど知られていないし、拘置所の裁量でいかようにもされてしまうというのが現実だ。
結婚が受理されて新たに作られた植松死刑囚の戸籍謄本を翼さんが差し入れたのが12月5日だったが、植松氏本人の手に渡らないまま結局、不受理。弁護人経由で再度差し入れたがそれも不受理。
今回、初めてわかったのは、植松氏の実の両親も戸籍謄本の差し入れなどをやってくれていたことだ。この実の親の尽力が大きかったのかもしれない。
婚姻届けの用紙に始まって、差し入れた書類は全て、植松氏本人に渡るまで1カ月ほど拘置所に留め置かれた。そういう処置がとられたのは、この獄中結婚によって彼の接見交通権が広がることを快く思わない拘置所の判断によるとしか思えない。
半年間もそういう目にあえば、弁護士や私のような相談相手がいない人だったら途中であきらめていたかもしれない。今回、最終的に面会にまでこぎつけることができたのは、弁護士や私のサポートがなされたことと、何よりも翼さん本人の意思が堅かったからだろう。
結婚後、翼さんは銀行口座などの名義も植松姓に変えている。本人は植松姓を名乗ることを早い時期から決めていた。
最初の面会の日に書籍などを宅下げ
2025年2月28日、初めて対面した際に、植松死刑囚は、照れながらも感激した様子で、翼さんに何度もお礼を言ったという。
実の両親は時々面会に訪れているが、頻繁にとはいかないため、その妻との最初の面会で彼はいろいろな頼みごとをした。
例えば彼の手元にあった約50冊もの書籍や雑誌を宅下げという形で引き取るといったことだ。とはいえ、彼女が用意してきたキャリーケースに入りきる量ではなく、仕方ないので拘置所のそばのコンビニから、創出版へ宅配便で送ることにした。
植松死刑囚が東京拘置所に移送された2020年以降、どんな本を読んできたかには多少興味があって、仔細に眺めた。
まず多かったのが、『ゴルゴ13』や『ジョジョの奇妙な冒険』などのマンガだ。特に『ジョジョ』関係は、ボロボロになるまで読み込まれた増刊のほか、新書版や文庫版なども揃っており、お気に入りのマンガであることがよくわかった。
そのほかでは浅野いにおさんのマンガ単行本『世界の終わりと夜明け前』。終末ものも植松死刑囚のお気に入りだ。グラフィック関係の本や、仏像の写真が載った本もあった。
彼は獄中でよく観音像などのイラストを描いているが、そのために仏像の写真が載った本を手元に置いていたのだろう。
よくわからなかったのが『家庭教育の心得21』(森信三)といった本だ。なぜ彼が家庭での教育に興味を抱いたのか、不明だ。
28日に最初の面会を果たして以降、翼さんは連日、面会に足を運んでいる。2人ともブルーハーツなど好きなミュージシャンが同じだったりして話に花が咲いているらしい。
翼さんはこれまで自殺未遂を経験するなどしてきた女性で、植松死刑囚になぜ思いを馳せるようになったかなど内面はそう単純ではない。3月4日の手記に「何故か帰りの電車でひとすじの涙が頬を伝いました」とある。
獄中結婚といっても、植松死刑囚はいつ刑が執行されるかわからない存在だし、ようやく会えるようになったといっても、今の状態は不安定なもので、彼女自身、いろいろ戸惑いを感じているのだろう。
「美化されており一抹の不安を…」と手紙に
植松死刑囚は弁護士への手紙の中で「彼女の中で私はそうとう美化されており、一抹の不安を感じていますが…」とも書いているから、年上の彼の方が、多少は客観的に状況を見られているのかもしれない。
ただ同じ手紙の中で、彼女が頻繁に花などいろいろなものを差し入れしたりしていることへの感謝の気持ちを書いている。
2人のやりとりは表面的にはよくある恋愛話に見えるが、そのすぐ背後に深い影が控えているのは、当事者たちも理解しているはずだ。
植松死刑囚が書いた最近の手紙の中で、恋愛や結婚に言及している部分を引用しておこう。
《私は「恋愛」に関してけっこう冷めた眼で見ていて、情熱的に愛し合っていても、いつの間にか必要以上に憎しみ、ののしり合うこともあるようです。
だから、「結婚」という誓約にも懐疑的でしたが、○○さん(原文実名)が現れてからは、家族として互いを尊重し、日々を育むことは素晴らしいことだと思うようになりました。天変地異の世の中ですが、何が云いたいかというと、私はいつでも○○さんの味方でありたいと思っています。》
翼さんの手記を読むと2人がラブラブな関係に見えるが、実際には喧嘩もしているようだ。最近喧嘩になった理由が興味深いので紹介しておこう。
5月頃に2人は互いの印象をイラストや絵で表現しようとなった。植松死刑囚が描いた妻のイラストは、とても色がきれいで、彼が獄中でスキルを上げていることがわかる。
そして翼さんが油彩画で描いた夫のイメージは、彼女の画力も一定の水準に達しているが、多くが抽象画で、何となく彼女の不安な気持ちが反映されているのが特徴だ。
そして喧嘩の原因になったのは、この2点とともに『創』25年7月号に掲載した翼さんの絵は抽象画で、後で聞いてみると彼女の自画像とのことだったが、植松氏はそれを見て、自分の死刑執行のイメージを描いたのではないかと思い、激怒。
この話でわかったのは、植松氏がやはり執行について不安を感じているということだ。死刑囚だから当然だし、日本における死刑執行は、当日の朝に突然告げられるから、死刑囚はその恐怖に怯えて毎日を過ごすことになる。
その恐怖は恐らく当事者でなければ理解できないものだろう。植松氏はどちらかといえば、そういう不安をストレートに表に出さないタイプに思えるが、その反応について聞いた時には、やはりそうなのかと思った。
2020年3月、控訴を取り下げる際に彼もいろいろ思い悩んだ様子が窺えたことを思い出した。
文/篠田博之 編集/月刊「創」編集部
『死刑囚と家族になるということ』(創出版)
月刊「創」編集部 (編集)

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