インフレと人口増により、東京23区の食料品小売の勢力図が塗り変えられようとしている。イオングループの「まいばすけっと」が出店を加速させ、「西友」を買収したトライアルが小型店「トライアルGO」を都内で初めてオープンした。
そうした中、コンビニ業界3位のファミリーマートが衣料品という新たな武器を手に快進撃を続けている。コンビニビジネスの在り方を大きく変える可能性もありそうだ。
「まいばすけっと」首都圏5000店舗展開の衝撃
「まいばすけっと」は2025年12月12日に「西新宿五丁目店」をオープンし、店舗数は1294店舗となった。イオンの吉田昭夫社長は10月の決算説明会で年間200店舗以上のペースで出店、2030年までに2500店舗、将来的には首都圏5000店舗体制を目指すという壮大な計画を語った。
「まいばすけっと」はイオンの物流ネットワークを活用し、プライベートブランド「トップヴァリュ」の商品を取り扱うことで、低価格化を実現している。コンビニでは200円を超えるカップ麺でも、自社のベストプライス商品であれば130円~140円程度で購入できる。
そして、全店直営型だというのも見過ごせない。吉田社長は「フランチャイズ制をとらずに直営していることでオペレーションを完全にコントロールできる」と語った。短期間でスタッフの習熟度を高める体制を整え、さらに人件費の削減も進めている。
コンビニは2020年7月にレジ袋の有料化が行なわれた。それに伴い、エコバッグを持参した消費者の多くは、商品を自らの手で詰める必要に迫られた。購入した商品を手厚くビニール袋に入れることは、スーパーやドラッグストアとは違うコンビニならではのサービス力の高さの象徴だったにもかかわらずだ。
そこにインフレが加わると、いっそう割高感が意識されてしまう。さらにアルバイト不足が深刻化し、セブン-イレブンのような大手コンビニは店内調理の強化を図ったため、オペレーションが複雑化した。フランチャイズ経営が中心のため、均質なサービスの提供が難しい。
コンビニのサービス力の低下と割高感は、「まいばすけっと」が躍進している背景にあるのは間違いなさそうだ。
一般的に直営店は利益率が低くなる傾向があるが、「まいばすけっと」は「トップバリュ」の商品構成比率が大きいため、2024年度の営業利益率は2.8%と高い。「2024年 スーパーマーケット年次統計調査」によると、業界平均は1.4%ほどだ。
ただし、「まいばすけっと」には、惣菜や弁当の味が他社と比べると発展途上にあるという課題がある。
「まいばすけっと」の課題を克服した「トライアルGO」
一般的にコンビニの弁当やおにぎりは、提供するベンダーが本部の強い影響下に置かれている。コンビニやスーパー向けにお弁当、おにぎり、惣菜などを製造・供給する中食ベンダーのわらべや日洋は、2000億円以上ある売上の8割近くがセブン-イレブン向けである。
弁当はコンビニの生命線とも言える商品のため、本部とベンダーは一丸となり、長い時間と熱量をかけて商品のブラッシュアップを図ってきた。
一方、「まいばすけっと」は、「トップヴァリュ」のチルド・冷凍・レトルト食品が充実しており、利益率が高いプライベートブランドの構成比率を上げるという経営戦略もあって弁当や惣菜の強化を図るという道をとりづらい。
このすき間を縫うようにして都心に攻め込んだのが今年11月7日に都内初出店を果たした「トライアルGO」だ。
例えば、福岡発のディスカウントストア「トライアル」が展開する次世代型小型スーパー「トライアルGO」では看板メニューの「ロースかつ重」が343円で販売されている(2025年12月16日時点)。
「トライアルGO」は西友のサテライト店舗という位置づけで小型店のため、店内調理を行なうことができない。同じ小型店舗でも、セントラルキッチンを使うコンビニは全国に配送網を築いているため、低コスト化を図ることができるが、東京23区への出店が十分でないために物流費がかさんでしまう。そこで今年7月に買収した「西友」のキッチンを使ってサテライト店舗で販売するという方式を採用した。
「トライアルGO」はオペレーションの簡略化も図っており、賞味期限に応じて時間に応じた値下げを自動で実施。顔認証による決済が可能で、一度登録するとそれ以降は財布やアプリが必要ないという仕組みを採用している。得意の省人化を徹底的に推し進めているのだ。
ただし、「トライアルGO」にも課題はある。小型店であるがゆえに西友よりも割高だという点だ。さらに出店場所が西友の近くに限られるため、拡大スピードも限られる可能性が高い。
鮮度と品揃えで勝負のヤオコー、衣料品専門店を出店したファミマ
東京23区の勢力図を塗り替えようとする勢力は他にもある。
「ヤオコー」は駅から離れた中規模店が主体だが、「杉並桃井店」は「トライアルGO西荻窪北店」、「板橋四葉店」は「まいばすけっと徳丸5丁目店」の商圏内にあると言えそうだ。
「ヤオコー」は低価格がウリのスーパーとは路線が異なる。地域密着型の売り場構成、高い鮮度と豊富な品揃え、ハイクオリティな弁当・惣菜類が特徴なのだ。例えば、「メヒカリ」や「ウマヅラハギ」のような、一般的なスーパーでは見かけない珍食材を扱うことも多い。
弁当も「ローストビーフライス ガーリック醤油」など、飲食店に引けを取らない商品を販売している。
東京都では「生鮮食料品等の購買意識について」というアンケート調査を行なっており、重視するポイントで1位だったのが「鮮度」だ。2位の「価格」は、2.6ポイント下がることが示されている。生鮮食料品においては、小型店よりも「ヤオコー」に軍配が上がる可能性がある。
いっぽうで、コンビニの逆襲も始まっている。
細見研介社長は決算説明会見にて、「スタートしてから5年目でこれだけ成長しているのは、まだまだニーズがあるからだ」と語った。何より、食料品を主軸としてきたコンビニ業界の常識を打ち破った功績が大きい。
衣料品ブランド「Convenience Wear」のデザイナーは、2016年のリオ五輪閉会式「フラッグハンドオーバーセレモニー」の衣装製作も担当した落合宏理氏で、その実力は折り紙つきだ。安い衣料品とは一線を画す、洗練された商品構成が人気の秘訣のようだ。アパレル事業に強い伊藤忠商事に買収されたファミリーマートらしい戦略でもある。
2025年9月に「Convenience Wear」の初のサテライトショップをオープンした。衣料品の専門店は、コンビニの新たな在り方を提案しているようで興味深い。コンビニは新たな方向性を模索している。
取材・文/不破聡

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