いしだあゆみ『ブルー・ライト・ヨコハマ』は1日10万枚のオーダーが10日以上!?  横浜の街の色を変えた名曲、誕生の瞬間
いしだあゆみ『ブルー・ライト・ヨコハマ』は1日10万枚のオーダーが10日以上!? 横浜の街の色を変えた名曲、誕生の瞬間

今年の3月11日に76歳で亡くなった歌手で俳優のいしだあゆみさん。彼女の名を世に広めた大ヒット曲『ブルー・ライト・ヨコハマ』は今から57年前の1968年12月25日に発売された。

そんな名曲の誕生秘話をお届けする。

昭和歌謡最大のヒットメーカー・筒美京平にとって、記念すべき最初の1位曲

いしだあゆみは、1964年4月にレコードデビューした。歌手と俳優を掛け持ちしながら、日本ビクターから4年間で23枚ものシングルをリリースしたものの、どれもヒットには結び付かなかった。

そして歌手に専念するため、1968年4月に日本コロムビアへ移籍。作曲家・筒美京平、作詞家・橋本淳のソングライターチームにより3枚立て続けにリリースして、その間に必ずヒットを出す、という約束になっていた。

1枚目の『太陽は泣いている』がスマッシュヒット(18位)したものの、続く『ふたりだけの城』は不発。そして最後の3枚目として、1968年のクリスマス(12月25日)にリリースされたのが、『ブルー・ライト・ヨコハマ』だった。

結果的に、1日10万枚のオーダーが10日以上続き、当時150万枚を超える特大ヒットを記録。後に「昭和歌謡最大のヒットメーカー」となる筒美京平にとって、記念すべき最初の1位曲となった。この時、いしだあゆみはまだ20歳で、大阪の出身だった。

作詞を手掛けた橋本(29歳)と筒美(28歳)は、中等部から青山学院に通っていた。ハイカラな学内には多数のジャズサークルがあり、二人は共に音楽を志す仲間だった。恵まれた環境の中で育んだ洒落た感性は、20代後半になっても失せることはなかった。

『ブルー・ライト・ヨコハマ』が大ヒットした1969年。それは“激動の時代”と言われ、一部の学生たちは“全共闘(全学共闘会議)”の真っただ中にいた。ベトナム戦争に反対する若者たちが、新宿西口広場などで集会を開いて機動隊と衝突。ヒッピー族が街を闊歩しながら、カウンターカルチャーとしてのフォークソングを口ずさんでいた。

橋本がこだわった“ブルー”

実はこの歌は用意周到にされたものではなく、レコーディングの前日に生まれたというから驚く。

「明日までに作ってくるように」とレコード会社から依頼され、詞先の制作だったにも関わらず、歌詞がまったく思い浮かばなかった橋本は、自然に横浜へ足が向いていたという。

ところが昼間の横浜からは何のインスピレーションも感じない。その時に思い出したのが、前年に出掛けたフランスのカンヌで、澄んだ“ブルー”の海の中に飛び出た滑走路に飛行機が降り立つ、夢のような美しい風景だった。

橋本は以前、ニューヨークの美術館で見た「ピカソの青の時代」にいたく感動し、以来“ブルー”に取り憑かれていた。

そして夜になって港の見える丘公園へ行き、そこから川崎の工業地帯や錆びた貨物船を見つめた。“ブルー”の灯りがひっそりと点滅していた。

憧れの地と目の前の光景が、こうして“重なり合った”のだ。

橋本は大桟橋近くのホテルのロビーで歌詞を綴り、赤電話で筒美に伝えた。

作曲家は徹夜でメロディーを乗せて、新曲『ブルー・ライト・ヨコハマ』を完成させた。

「明日の幸せより、今が最高の幸せという歌にしたかった。それが時代にマッチしたのでしょうか」(橋本淳)

この歌は、作詞家・橋本淳にとっても、『ブルー・シャトウ』(ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)に次ぐ大ヒットとなった。橋本がこだわった“ブルー”によって、一つの街の色が変わった。『ブルー・ライト・ヨコハマ』の大ヒット以降、横浜の夜景はブルーが基調となった。

文/TAP the POP

引用元・参考文献
『筒美京平の記憶』監修/馬飼野元宏(ミュージックマガジン)
『レコード・コレクターズ』2025年9月号(ミュージック・マガジン)
『東京歌物語』(東京新聞出版局)

TAP the POP Anthology 音楽愛 ONGAKU LOVE Volume One

TAP the POP (著), 中野充浩 (著), 佐藤剛 (著), 五十嵐正 (著), 宮内健 (著), 阪口マサコ (著), 佐藤輝 (著), 佐々木モトアキ (著), 長澤潔 (著), 石浦由高 (著)
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2025年11月30日2,970円(税込)14.81 x 2.95 x 21.01 cmISBN: 979-8276212906~「真の音楽」だけが持つ“繋がり”や“物語”とは? この一冊があれば、きっと誰かに話したくなる~ 「音楽が秘めた力を、もっと多くの人々に広めたい」 「音楽が持つ繋がりや物語を、次の世代に伝えたい」 そんな想いを掲げて、2013年11月にスタートした音楽コラムサイト『TAP the POP』(タップ・ザ・ポップ) 。本書は今までに配信された約4,000本のコラムから、140本を厳選した「グレイテスト・ヒッツ第1集」的アンソロジー。 TAPが支持するのは、楽曲に時代や世代の風景、試行錯誤が息づいているもの。アーティストやソングライターに、出会いや影響、美学が宿っているもの。そのような音楽には単なる流行やヒットを超えた、人の心を前進させる力や救済する力があるからです。 「大切な人に共有したい」「あの頃の自分を取り戻したい」「音楽をもっと探究、学びたい」……音楽を愛する人のための心の一冊となるべく、この本を作りました。どのページにも「⾳楽愛」が満ち溢れています。
この⼀冊が、物事について深く考えさせてくれるきっかけとなり、静かなる興奮と感動となりますように。⾳楽の旅路へようこそ。
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