「特定の社員だけ飲み会に誘わなかったらパワハラ?」「使えないって言ったらマズイ?」コンプラ全盛時代、マジで〈犯罪〉になるケースとは〈弁護士が解説〉
「特定の社員だけ飲み会に誘わなかったらパワハラ?」「使えないって言ったらマズイ?」コンプラ全盛時代、マジで〈犯罪〉になるケースとは〈弁護士が解説〉

「部内のある社員だけ飲み会に誘わなかった」「頑張れ!と背中を叩いた」「使えない、と社員に言った」……さて、この中で「違法なパワハラ」に値するのは? コンプラ全盛時代、法的にアウトなラインはどこにあるのか。

 

「お嬢様」の素朴な法律の疑問に松井浩一郎弁護士が明快に答える書籍『それ犯罪です! 知らないとヤバい刑法の話』から抜粋・再構成して、犯罪になるケースを解説する。

あなたも知らず知らずのうちに罪を犯しているかもしれない……。

「頑張れ」と言って部下の背中を叩きましたけど、こういうコミュニケーションは犯罪ですか?

お嬢様 最近なんでもかんでも「パワハラ」って言われてしまうじゃない。どうなのかしら。

松井弁護士 たしかに、ありとあらゆることが「ハラスメント」に当たって、弁護士の間でも議論になることが多いよ。

お嬢様 この前、私のセレブ社長のお友達が、くよくよしてた後輩の背中を「頑張れ」って叩いてあげたらしいのよ。そしたらパワハラですって。

松井弁護士 それはちょっと厳しい気もするけど、場合によってはパワハラになるかもしれないから要注意だね。

最近、「ハラスメント」の考え方をめぐってはさまざまな議論がなされている。昔は当たり前に許容されていたことが、今の時代では一発アウトなんてことも多い。とりわけ「パワーハラスメント」は幅広い行為を含んでいるから、今一度、注意深く行動する必要がある。

「頑張れ」と言って部下の背中を叩く行為は、「パワハラ」の「身体的攻撃」に該当する可能性があり、また、叩かれた側の捉え方によっては、「暴行罪」(刑法208条)に該当する可能性もあるんだ。

もちろん、上司と部下の関係性にもよるし、その他の事情も併せて考慮されるが、ありとあらゆる行為がハラスメントに該当する可能性があることは念頭において行動してほしい。

まとめ 「頑張れ」と部下の背中を叩くのは犯罪の可能性がある

要点1 「パワハラ」の「身体的攻撃」にあたる可能性がある
要点2 背中を叩かれた側の捉え方によっては「暴行罪」にあたる可能性もある
要点3 何がハラスメントにあたるのかは、弁護士の間でも議論になっている

部下に「使えない」と言ってしまったら、アウトでしょうか?

お嬢様 私のセレブ社長のお友達が、この前、部下に「使えない」と言ったらパワハラで訴えられたらしいわ。あなたなら勝てるわよね。

松井弁護士 どうだろうね。その2人が置かれた状況とかによるからな。

お嬢様 「使えないわね」

松井弁護士 おっと、お嬢様、さすがのブラックジョークでヒヤッとしたよ。

「パワーハラスメント」とは、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境を害する行為をいうんだ。その中には「精神的攻撃」という類型があり、「使えない」という言葉が、この精神的攻撃にあたる可能性はある。

部下が一所懸命に仕事をしているのに、嫌がらせのように「使えない」と言ったり、繰り返し言ったりしたら、パワハラにあたるという判断がされると思う。どうしても仕事の上で、「使えない」と思ってしまったとしても、それは内心に留めて、適切なアドバイスをして仕事がしやすい環境を作る努力が求められる時代になっている。

ほかにも精神的攻撃にあたる可能性の高い言葉には、たとえば次のようなものがある。

・解雇をにおわせる
「お前はクビだ」「もう来なくていい」など

・暴力をほのめかす
「死ね」「次ミスしたら殺すぞ」など

・相手を侮辱する
「給料泥棒」「やる気出せよ」など

・容姿や国籍・出自に関する差別的な言葉
「ハゲ、チビ、デブ、ブス」「外人」など

・自由や権利を奪うような言葉
「有給の取得は認めないぞ」など

まとめ 「使えない」と言うのはハラスメントにあたる可能性がある

要点1 「パワーハラスメント」の「精神的攻撃」にあたる可能性がある
要点2 特に繰り返し言ったり、真面目に働いている部下に言ったりすると、ハラスメントにあたる可能性が高まる
要点3 「使えない」は思うだけにして、アドバイスや環境整備に努めよう

特定の社員に飲み会を知らせなかったらまずいですか?

お嬢様 私のセレブ社長のお友達が、この前パーティーを開いたらしいんだけど、一部の社員を誘わなかったみたいなのよ。そしたら、その人たちにパワハラって訴えられたらしいわ。

松井弁護士 それは大変だったね。そのパーティーに僕も行きたかったけど、同じ会社にいて誘われなかったら、たしかにショックかもね。

お嬢様 でも、毎回全員を呼んでシャンパンをご馳走していたら、さすがにセレブ社長も大変よね。

松井弁護士 毎回シャンパンとはさすがセレブ社長だけど、本当にパーティーに誘わない行為がパワハラにあたってしまうのか解説するね。

パワハラの定義は、一つ前の質問で書いたとおり、業務上必要かつ相当な範囲を超えた行為になる。

飲み会は業務とは直接関係がなく職場の就業環境とは別物なので、特定の人を誘わないというだけで、すぐにパワハラになるわけではない。

しかし、飲み会が実質上、会社のための決起集会であったり、飲み会に来た社員が優遇されたりといったことになれば、少し状況は変わってくるよね。

それ以上に、たとえば、特定の社員を意図的に排除して、孤立させたり、人間関係に悪影響を及ぼしたりした場合は、「人間関係からの切り離し」というパワハラの類型にあたる可能性がある。

もちろん毎回飲み会に全員を誘う必要はないけど、特定の社員を排除するようなことがないようにできるだけ気を付けてほしい。

まとめ 飲み会の性質や、意図的な排除かどうかで異なる

要点1 飲み会に誘わないこと自体は、ハラスメントとは限らない
要点2 飲み会に出られないことが仕事に不利になるような状況だと問題
要点3 意図的に特定の社員を呼ばないのはパワハラの「人間関係からの切り離し」にあたる可能性がある

文/松井浩一郎・アトム法律事務所

松井浩一郎、アトム法律事務所 著『それ犯罪です! 知らないとヤバい刑法の話』祥伝社

松井浩一郎、アトム法律事務所
「特定の社員だけ飲み会に誘わなかったらパワハラ?」「使えないって言ったらマズイ?」コンプラ全盛時代、マジで〈犯罪〉になるケースとは〈弁護士が解説〉
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2025/11/41870 円(税込)272ページISBN: 978-4396618520日常の「ちょっとしたこと」が、実は犯罪かもしれない――。本書は、『おとな六法』のアトム法律事務所発、楽しく読めて、ためになる法律エンターテインメントです。 テーマは「刑法」。 どんな行為が犯罪になるのか? 犯罪にはどんな刑罰が科されるのか? ――日常にひそむ「それ犯罪です!」から「なんとこれは犯罪じゃないのか!」まで、楽しく学べます。 「これって犯罪?」が60エピソード! 会話形式でテンポよく読めるから、法律がスッと頭に入る。 ◆本書の特徴 1.楽しく理解できる対話形式 2.全60質問、どこから読んでもOK 3.日常にひそむ「それ犯罪です!」をユーモラスに解説 気軽に読めて、一生使える「刑法の教養」!
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