習近平は本気で焦っている–––「EV墓場」と「異常な少子高齢化」今、中国経済に広がる“違和感”の正体
習近平は本気で焦っている–––「EV墓場」と「異常な少子高齢化」今、中国経済に広がる“違和感”の正体

EV(電気自動車)の大量放置が象徴する「EV墓場」、不動産バブル崩壊後の内需低迷、そして世界でも例を見ないスピードで進む異常な少子高齢化。表面上は5%前後の成長率を維持しているように見える中国経済だが、その内実は決して健全とは言い難い。

習近平政権下の中国が直面する構造的な問題を、冷静に読み解く。

「成長」ではなく、「膨張」と呼ぶべき不健全な現象

日本の投資家が、中国経済に対して抱いている違和感、そして不安。それは決して間違った感情ではない。むしろ、その直感こそが、これからの激動の時代を生き抜くための最も信頼できる羅針盤となりえよう。

連日報じられる中国の「EV(電気自動車)墓場」の映像をご覧になったことがあるだろうか。広大な空き地に、ナンバープレートも付いていない新品同様の電気自動車が、雑草に埋もれて何千台、何万台と放置されている光景だ。

空から撮影されたその映像は、まるで現代文明の墓標のようであり、見る者の背筋を寒くさせる。

これは、政府の補助金目当てに企業が車を作りすぎ、需要もないのに生産ラインを止められないという、歪んだ構造の象徴だ。私たちはこの光景から目を背けてはならない。ここにあるのは「成長」ではなく、「膨張」と呼ぶべき不健全な現象だからだ。

ステロイド剤を打ち続けて無理やり体を大きく見せる

2025年末現在、中国経済は表面的には持ち直しているように見える。おそらく2026年には、5%程度の成長率を叩き出すだろう。しかし、その数字に騙されてはいけない。それは、健康な筋肉がついた結果ではなく、ステロイド剤を打ち続けて無理やり体を大きく見せているようなものだ。

ゴールドマン・サックスは、2025年11月のレポートで、輸出主導による短期的な成長を予測している。

「中国の実質輸出の伸びは、今後数年間で年率5~6%になると予想されており、以前の予測である2~3%から上方修正された。これは中国製品が世界市場でのシェアを獲得しているためである」

「(ゴールドマン・サックスは)中国の2025年の実質GDP成長率予測を4.9%から5.0%に微修正し、さらに今後2年間の予測については、より大きな上方修正を行った。これは、より強力な輸出が経済全体の拡大を牽引するという見方に基づいている。ゴールドマン・サックスのリサーチ部門は、2026年の実質GDP成長率予測を4.3%から4.8%へ、2027年の予測を4.0%から4.7%へと引き上げた」(ゴールドマン・サックス「China’s Economy is Forecast to Grow Faster Than Expected in 2026」)

不動産バブルが崩壊し、内需が冷え込む中国

国内の不動産バブルが崩壊し、中国の庶民は財布の紐を固く締めている。内需が冷え込んでいるのだから、企業は生き残るために海外へ活路を見出すしかない。なりふり構わぬ輸出攻勢は、日本を含む世界の製造業にとって脅威以外の何物でもない。

2026年までは、この輸出ドライブによって見かけ上の数字は維持される。トランプ氏との一時的な手打ちも、時間稼ぎにはなるだろう。しかし、その先に待っているのは2030年という断崖絶壁だ。ここから先、中国経済は避けようのない減速の重力に捕らわれる。

なぜなら、中国が抱える構造的な病巣は、もはや対症療法で治せる段階を超えているからだ。

第一に、人口減少と少子高齢化のスピードが異常に速い。

日本も同じ道を歩んでいるが、中国の場合は「豊かになる前に老いてしまう」という致命的な問題を抱えている。

社会保障制度が未整備なまま、支えられる側の高齢者が激増し、支える側の若者が減っていく。一人っ子政策という、かつて国家が強引に進めた人口管理のツケが、今になって残酷な形で回ってきているのだ。

長期的な減速は避けられない

第二に、不動産不況の闇が深すぎる。これまで中国経済を牽引してきたのは、マンション建設などの不動産投資だった。地方政府は土地を売って財源にし、その金でインフラを作って成長を演出してきた。

しかし、その錬金術は終わった。誰も住まない「鬼城(ゴーストタウン)」が各地に点在し、建設途中で放置されたビル群が雨風に晒されている。

地方政府が抱える「隠れ債務」の総額は、誰にも正確にはわからない。一説には天文学的な数字になるとも言われている。この巨大な借金の爆弾を抱えたまま、かつてのような高度成長を続けることは物理的に不可能だ。

欧州のシンクタンク、ブリューゲルは、この状況を「重力」と表現し、長期的な減速は避けられないと分析している。

「収束理論(より貧しい国はより豊かな国よりも高い成長率を享受する傾向があるという理論)に基づくと、中国の成長率は2035年までに2.4%へと減速し続けるはずだ」

「このような減速にもかかわらず、中国の一人当たり所得が2万ドルを大幅に超えるため、中国は『中所得国の罠』を回避することができるはずだ」

「しかし、中国のGDP規模(ドルベース)が米国を追い抜く可能性は低そうだ。

中国は2035年までに米国の規模に並ぶはずだが、その後は収束が止まるだろう。これは、2035年以降、両経済の規模がほぼ同じになることを意味する」(ブリューゲル「Can Chinese growth defy gravity?」2023年6月20日)

統計数字を操作して体裁を整える中国当局の習性

2030年には3%、あるいはそれ以下への減速が必至だという見方は、決して悲観的すぎるものではない。むしろ、統計数字を操作して体裁を整える中国当局の習性を考えれば、実態はもっと悪い可能性すらある。

もちろん、中国の指導部も何もしていないわけではない。不動産依存からの脱却を目指して、必死にハイテク産業への転換を図っている。しかし、ここで冷静に考えてみてほしい。経済改革には、痛みが伴う。既得権益を壊し、非効率な国有企業を整理し、市場の自由に任せる。それが本来の改革だ。

だが、今の体制にそれができるだろうか。すべての権力を党に集中させ、民間企業の首根っこを押さえつけるような統制強化の動きは、自由なイノベーションとは正反対の方向だ。

「改革成功で減速回避可能」というシナリオは、理論上はあり得る。

だが、それは今の政治体制が、自らの権力を削ってでも経済合理性を優先する場合に限られる。

現状を見る限り、その確率は低いと言わざるを得ない。経済よりも統制、自由よりも規律を重んじる今の空気の中では、改革は掛け声倒れに終わるリスクが高い。

文/小倉健一 写真/shutterstock

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