【家族で30万円】帰省は贅沢なのか “実家に帰る”が重くなった時代「毎年死ぬ気で飛行機代を工面している」
【家族で30万円】帰省は贅沢なのか “実家に帰る”が重くなった時代「毎年死ぬ気で飛行機代を工面している」

年末年始が近づくと、決まって浮上する話題がある。「今年は帰る? 帰らない?」年末年始に実家へ帰省し、家族や親戚とゆっくり過ごす――。

かつては当たり前のように語られてきたこの時間も、いまや贅沢な選択として受け止められつつある。

帰省するだけで10万円 物価高騰で悲鳴

年末が近づくにつれ、SNSには今年もこんな声が並んでいた。

「今年の冬は帰省せずに終わりそうだぁ(飛行機代たけぇ)」

「帰省補助金出して欲しい。給料安いのに物価高騰でもう動けないよ…」

「年末、帰省するのに航空券調べたら片道6万近くてひっくり返ってる。それでも空席待ち状態。ちなみに、台北は片道4万」

「田舎育ちで1年に1回は帰省しなきゃと思い、毎年死ぬ気でどうにか飛行機代を工面して帰省できてたけど、今回お金足りなくて飛行機代作れなそうだった。そこで会社へ頭下げて前借りという手段を使わせていただいた」

年末年始などの繁忙期には、新幹線の指定席料金も割高になる。しかし、飛行機代の値上がり幅はそれ以上に大きい。航空各社は年末年始を「ピーク期」と位置づけ、通常期とは異なる運賃設定を行なっており、予約のタイミングによっては数万円単位で差が出ることも珍しくない。

その結果、数日の帰省のために、年間を通して資金を確保しなければならないという感覚を抱く人も増えている。

都内在住の30代、高知県出身の会社員男性はこう語る。

「予約時期にもよりますが、実家に帰るだけで飛行機代は往復で10万円ほどかかります。新幹線やバスを乗り継げば片道2~3万円で帰省することも可能ですが、その場合は半日以上かけて、混雑の中を移動することになります。

ただ、飛行機代が昔と比べて特別高くなったかと言われると、正直“毎年こんなもの”という感覚です。うちは兄弟や親戚が多く、年末年始に集まるのが恒例なので、この時期を避けるという選択肢はありませんので、今年も帰りますが……」

この証言が示すのは、「交通費が高騰したかどうか」よりも、出費そのものの重さだ。物価高の中で、出費の“重さ”が増している。

ここ数年、食料品や光熱費を中心に物価は上昇を続けている。総務省の消費者物価指数でも、物価は前年より3%前後の上昇が続き、数年前と比べると生活必需品の価格は1割以上高くなっている。こうした変化が、家計にじわじわと影響を与えている。

そうした中で、「年末に10万円前後の出費」は、以前よりもはるかに重く感じられるようになってきた。

家族で30万円 帰省が贅沢な選択に

いっぽうで鹿児島出身で都内在住の30代女性は、さらに切実な現実を語る。

「年末年始の帰省は、ほとんど諦めています。給料は年々上がっていますが、それ以上に物価も上がっていて、飛行機代の割高感はずっと変わりません。

また、5年前に都内で結婚して子どもも生まれたので、家族3人で帰省すると往復で30万円ほどかかる計算になります。さすがに現実的ではありません。

年末年始にしか会えない親戚や地元の友人との関係は、もう終わったものだと受け入れています」

家族構成が変われば、帰省コストは一気に跳ね上がる。「帰れない」わけではないが、「払う意味を考えてしまう」金額になっているのが現実だ。

マイルを使う、LCCを探す、半年以上前から予約する、夜行バスや新幹線を組み合わせる――など、工夫次第で賄える面もあるが、工夫を前提にしなければならない時点で、帰省は“軽い選択”ではなくなっている。

年末年始の帰省は、「当たり前に帰る年中行事」から、「コストと相談して決める、覚悟のいる選択」へと変わりつつある。

特にコロナ禍で移動を控える期間を経験し、「帰らなくても成立する年末年始」を知った人は少なくない。その体験を経て、「帰らない正月」は、特別な選択ではなく、現実的な選択肢のひとつになった。

高額な費用をかけてまで帰省するべきなのか。2025年の年末、実家に「帰る・帰らない」は気持ちだけで決めるものではなく、家計と相談して判断されるものになりつつある。

それは冷たい変化ではない。多くの人が現実と折り合いをつけながら選び取っている、ごく自然な変化なのだろう。

取材・文/集英社オンライン編集部

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