〈NHK受信料〉役所には甘く国民に厳しい「鬼のダブスタ督促状」…公用車カーナビ問題が突きつけた根本的疑問
〈NHK受信料〉役所には甘く国民に厳しい「鬼のダブスタ督促状」…公用車カーナビ問題が突きつけた根本的疑問

NHKが受信料未払い世帯や事業所に対して督促を強化、昨年度の10倍を超える督促件数を見通すという。さらに地方自治体の公用車のカーナビに対しても受信料を徴収していく。

元NHK党の秘書でコラムニストの村上ゆかり氏は、「警察や自治体に対しては『丁寧な周知』に留め、国民に対しては督促を強化するというダブルスタンダードでは、NHKへの信頼はさらに下がっていくのではないか」と指摘する。

パトカーや救急車のカーナビも対象に

NHK受信料制度は「受信設備を設置した者は、NHKと契約を結ばなければならない」とする放送法第64条を根拠としており、最高裁も2017年12月の大法廷判決でこの契約義務を合憲と判断している。

NHK受信料は衛星契約であったとしても月額数千円。それでも不満が消えない理由は、支払う理由が生活実感とあまりにも結びつかないからである。

総務省の情報通信白書でも、若年層を中心にテレビ視聴時間が減少し、インターネット利用時間が増加していることが繰り返し示され、NHK自身も若年層のテレビ離れを公式資料で認めている。

それにもかかわらず、テレビを設置しているという一点だけで契約義務が生じ、NHK受信料を支払えと言われる。この構造が、現代の国民の感覚と全くずれているのだ。

実際に視聴しているかは関係なく、受信可能であるかどうかが基準になる。だが、生活感覚から見れば、使っていない機能のために料金を無駄に請求されるのはたまらない。

最近のテレビのリモコンにはネットフリックスのボタンがついていることが多いが、ネットフリックスと契約を結ばなければコンテンツも視聴できないし、料金を請求されることもないのは、当たり前のことである。

受信料制度に対する不満が一段と可視化されたのが、公用車に搭載されたカーナビからNHK受信料を徴収する動きが報じられた場面である。

警察のパトカー、救急車などの公用車に設置されたカーナビが「受信機」に該当することを行政側が認識しておらず、未契約が発覚した。

公用車は言うまでもなく公務のために使われる車であり、カーナビは公務の移動のために使用されるものであるから、基本的にはそこにテレビ放送を視聴する意図など存在しない。

しかし総務省は過去に、ワンセグやカーナビが受信設備に該当し得るという解釈を示しており、たとえ公用車であっても受信契約が義務付けられるとされた。テレビを見ることのないカーナビにもNHK受信料を徴収する――この構造に、多くの人が制度運用そのものへの疑念を強めることになったのである。

「放送の受信を目的としない受信設備」は除外されているのに徴収

放送法第64条は、NHKの受信契約義務を「特定受信設備」を設置した者に課している。この「特定受信設備」とは、「放送の受信を目的としない受信設備」は除外されている。

つまり、放送を受信する機能を備えていても、その設置目的が放送の受信ではない場合、契約義務の対象から外れる余地が理論上は存在するはずだ。

公用車は業務用であり、カーナビはテレビの視聴を目的とせず、目的地までの道順確認のために設置されている。普通に考えれば、公用車のカーナビは「放送の受信を目的としない受信設備」と整理できるはずだ。

いずれにせよ、我々の税金で運営している自治体から、利用目的があるわけでもないNHKが受信料を請求したことに対して、批判は強まっている。

さらに今年12月12日、千葉市議会定例会が公用車のNHK受信料について、国に対し、全額免除制度の創設を求める意見書を全会一致で可決するなど、自治体からも制度に対する反発が見られた。

読売新聞が11月17日に報じた記事によれば「今年10月までに、都道府県や県庁所在地など主要な122自治体のうち半数以上の73自治体で受信契約漏れが判明。このほか、少なくとも約200市町村が未契約」で「徴収ルールの見直しを求める声も上がっている」という。

NHKがこの整理を公式に認めることはしない

だがNHKがこの整理を公式に認めることはしないだろう。

公用車で認めれば、その論理は必然的に一般国民の車両に波及する。業務用であれ私用であれ、カーナビの設置目的は同じである。

「視聴を目的としない」という評価が成立すれば、個人のカーナビも同様に扱われ、これまで契約対象としてきた相当数の世帯や事業者が、契約義務から外れる可能性が生じるからだ(ちなみに一般家庭における「自家用車」の場合、住居ですでに受信契約を結んでいれば、たとえ車にテレビ番組視聴が可能なチューナー付きのカーナビが搭載されていても、世帯同一性が認められるため追加契約の必要はない)。

だが今の状況では、制度防衛のために常識を押しのけているようにしか国民の目には映らないのではないか。  

ここで生じる不信は、金額の問題ではない。なぜ設置する目的を考慮しないのか。なぜ、明らかに視聴目的でない公用車にまで受信契約の義務を課すのか。この問いに対し、NHKは正面から「収入が減るかもしれないから」とは言わず、説明は抽象化する。

NHKの公式ホームページには、「NHKのテレビ放送を見ていないので、受信料を支払いたくない」という問いに対し、「公共放送としてのNHKの運営を支える財源は、テレビ等の受信機を設置またはNHKの配信の受信を開始しているすべての方に負担していただく受信料によることが、最も適切であるとの考え方に基づくものです」と記載されている。

このNHKの回答は、なぜ視聴していない人まで負担する必要があるのか、なぜ設置目的や利用実態を考慮しないのかという国民の本質的な疑問に応えられているものではない。この回答では、かえって国民は自分たちの感覚が切り捨てられたと感じるのではないか。

「公共放送が公共性を失っている」

さらにNHKはカーナビ受信料について警察や自治体に対しては「丁寧な周知」に留める一方、一般国民には受信料の督促を強化するという方針を執ると報道されている。

実際、2025年3月には愛媛県警が捜査用車両に設置したカーナビ38台分の受信料、約644万円を支払っていなかった事案が判明した。さらに島根県警や愛知県警といった地方警察でも同様の未払いが次々と発覚している。

これでは、NHKは自らの組織を守るためだけに都合よく運用しているだけのように映り、さらなる不信を招く恐れがある。

受信料制度が作られた1950年当時、受信機とはほぼテレビそのものであり、テレビを持つことはイコールNHKを見ることを意味していた。だが現在では、受信機という概念は極端に広がり、スマートフォン、パソコン、カーナビ、ゲーム機など、映像を受信できる機器は生活の隅々に様々に入り込んでいる。

にもかかわらず、受信料制度だけが1950年当時のまま「受信できるかどうか」という一点に立ち続けている。公共のためと言いながら、目的外利用が明らかな機器からも徴収する。それには「公共放送が公共性を失っている」と感じている国民は少なくない。

NHK内部の人間が、こうした状況を理解していないはずがない

NHKの内部にいる人間が、こうした状況を理解していないはずがない。理解しているからこそ、支払いの大義名分が抽象化され、「公共放送の使命」という表現に集約されていく。

制度を変えられない理由は明確だ。制度を変えることは、組織の存続にかかわるからである。NHKの収入の大半は受信料であり、広告収入に頼らない仕組みは、公共放送としての独立性を支えてきた。

しかし今のNHKがスクランブル化や任意契約に移行した瞬間、視聴していない層の支払いは止まり、受信料収入は一気に減少する可能性が高い。

NHKの組織は、その衝撃に耐えられる設計になっていない。

全国ネットワーク、災害対応体制、専門職の長期雇用――これらは短期で削減できない固定費である。一度縮小すれば、元の規模に戻すことは困難を極め、公共放送の機能そのものが失われる恐れがある。

NHKは、「現実に合わせて制度を変え、組織の規模縮小を受け入れる」か、「制度を守り、組織を守る」かという選択を迫られた。その結果、民意を理解したうえで、後者の「制度を守り、組織を守る」という選択をしている。

この状態は国民から見れば不誠実に映るだろう。だが内部論理としては一貫している。制度を動かせば崩れ、崩れれば公共放送としての役割を果たせなくなる。現状維持は消極的な逃避ではなく、防衛手段として選ばれているのだ。

問題は、この防衛が長期的に見て成立するかどうかである。

海外の公共放送では、受信料制度を見直し、税方式や選択制に移行した例も存在する。英国の公共放送であるBBCでも、受信料制度の持続可能性が議論されている。

それでもNHKは「公共放送の使命」をことさらに強調する。

しかし受信料制度そのものや、NHKの運用の在り方への国民の不信感はもうすでに限界まできているのではないか。

受信料制度を現行のまま防衛し続ける結果として起きるのは、突然の崩壊ではなく、「静かな失墜」だろう。受信料制度は維持され、組織も存続されるが、NHKの公共放送としての信頼は、このままでは少しずつ、確実に、削られていく。

督促は強化され、裁判も増え、国民の心はNHKからどんどん離れる。若者のテレビ離れによるNHK離れも深刻だ。

信頼を失った公共放送は、公共であり続けることができなくなっていく。災害時に情報を出しても、反発が先に立つかもしれない。平時の番組はどんどん見られなくなり、若年層との接点はさらに細る。

NHKを視聴する国民が減れば、その影響も当然、徐々に失っていく。立法府は、総務省は、国は、この状況をどこまで放置し続けるのか。公共放送の大義は先送りできるほど軽微な問題なのか。

NHKの受信料制度は「強制を前提にした制度」から「公共性を条件とした選択型制度」へ段階的に移行すべき時がきているのではないか。

先送りすればどんどん状況は悪化する恐れがある。国会でNHK受信料制度問題の議論が進むことを、筆者は心から願っている。

文/村上ゆかり 写真/shutterstock

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