〈高校駅伝・花の1区列伝〉故障、転倒、貧血…それでも名門・佐久長聖のエースたちが最長区間で勝ち続けた理由
〈高校駅伝・花の1区列伝〉故障、転倒、貧血…それでも名門・佐久長聖のエースたちが最長区間で勝ち続けた理由

「花の1区」を制する者は、チームの流れを決める…12月21日に全国高校駅伝2025が開催される。かつて、最長区間である1区にて、3年連続区間賞を獲得した名門・佐久長聖高校には、異例ともいえるエースの系譜が存在した。

故障に苦しんだ關颯人、覚醒を遂げた名取燎太、圧倒的な強さを誇った中谷雄飛――彼らはなぜ、あの大舞台で勝てたのか。

新刊『佐久長聖はなぜ強いのか?「人」を育てチーム力を上げる指導メソッド』より一部抜粋・再構成してお届けする。

花の1区を制したエースたち

佐久長聖は全国高校駅伝の最長1区を2015年から3年連続で制しています。ひとり目は關颯人でした。彼は中学時代から力のある選手でしたが、佐久長聖に来るのを最初は渋っていたんです。

どちらかというとカラダが強い方ではなかったんですけど、ポテンシャルは高かったですね。故障もあって、入学後は順調というわけではありませんでした。でも勉強もできる子で、きちんと考えながら競技に取り組んでいたと思います。

全国高校駅伝は2年連続で1区を好走しました。2年時はそんなに練習を積んでいなかったので、「来年、区間賞を取るための1区だから」と言って送り出したんです。最後まで先頭争いをしたので、「区間賞を獲得したら来年どうしよう」とレース中によからぬことを考えてしまいました(笑)。最終的に区間3位でホッとした自分がいたのも事実です。 

翌年は關が29分08秒で区間トップに輝き、同2位の羽生拓矢選手(八千代松陰)、同4位の鬼塚翔太選手(大牟田)、同5位の阪口竜平選手(洛南)、同6位の館澤亨次選手(埼玉栄)らと東海大学に進学しました。

この「黄金世代」を軸に両角速先生が駅伝監督を務める東海大学は箱根駅伝と全日本大学駅伝で優勝を飾ります。

關は大学でも故障に苦しんだようで、実力を発揮できない部分がありました。箱根駅伝は1年生で花の2区を担いましたが、箱根と全日本のVメンバーに入ることができませんでした。実業団のSGホールディングスでも苦労していますが、佐久のような環境で少しトレーニングをすればきっと良くなるはずです。本来の走りができるように期待したいと思っています。

2016年の全国高校駅伝1区は名取燎太が29分22秒で区間賞を獲得しました。1学年上の關とは少しタイプが違って、のほほんとした性格です。中学時代から実力はありました。全国高校駅伝は1年生のときに2区を担いましたが、スタート直後に転倒して、血だらけで帰ってきたのをよく覚えています。

名取燎太、中谷雄飛…佐久長聖のエースを担った選手たち

2年時は名取が準エースという位置づけでした。長野県駅伝で1区を試そうかなと思っていたんですけど、移動中に足首を捻挫した影響で、1区に起用できなかったんです。そのときは相当、叱りましたね。実は視力が悪くて、メガネをかけることもなく、コンタクトレンズもしていませんでした。

そのため移動中に落ちていた石に気づかず、つまずいたんです。それからはコンタクトレンズをつけるようになりました。

2年時は北信越駅伝で1区を走って、全国高校駅伝は4区を区間6位と好走。3年時は全国高校駅伝1区で区間賞を獲得しました。もともとラストスパートがある子じゃなかったんですけど、インターハイ5000mで目覚めたんです。今まで見たことのないラストスパートをかまして、決勝に残りましたから。全国高校駅伝前にも「インターハイのようなスパートを出せよ」と声をかけました。最後にスピードのある塩澤稀夕選手(伊賀白鳳)を差し返したのは感動的でしたね。

東海大学では3年時の全日本大学駅伝8区で日本人トップに輝き、チームの日本一に貢献しました。4年時は箱根駅伝で花の2区を務めています。長い距離に強く、実業団のコニカミノルタではマラソンに挑戦中です。まだ結果は出ていないですけど、彼の性格上、淡々とやるタイプなのでこれからでしょう。
今季(25年)は5000mで13分33秒08の自己ベストを出して、日本選手権にも出場しました。今後が非常に楽しみです。

中谷雄飛は当初、県内の別の高校を志望していましたが、村澤明伸に説得を手伝ってもらい、佐久長聖に来ることになりました。中学時代は800m・1500mの選手だったので、彼の持ち味であるスピードを磨きながら、どう距離を伸ばしていくのか。そう考えながら指導しました。

入学時、全国高校駅伝は1年目に3km区間、2年目に5km区間、3年目に長距離区間を走れたらいいよね、という話をしたんです。1年目は全国高校駅伝で2区(区間19位)を走りました。本人が納得するような結果ではなかったと思うんですけど、彼の成長プランのなかでは予定通りです。「来年はアンカーを走りたいです」と言ってきたくらいなので、練習意欲が高く、オーバートレーニングで貧血になってしまったほどです。

貧血の改善を最優先して、2年目を迎えました。当時、8月下旬に全国高校選手権の1万mがあり、名取が出場予定でしたが、中谷も出場すると言ってきました。1位が齋藤椋選手(秋田工業)、2位が名取で、3位に中谷が入ったんです。

それで本人も長い距離のイメージをつかむことができて、駅伝シーズンは長距離区間を担うようになったんです。

日本人高校生に負け知らずだった中谷雄飛

2年時の全国高校駅伝は3区で当時・日本人最高記録となる23分28秒をマーク。倉敷高校の留学生に追いつかれましたが、最後に突き放して、トップでタスキを渡しました。

3年時の全国高校駅伝は1区で29分08秒の区間賞。プレッシャーもあったはずですが、それを力に変える強さを持っていたと思います。3年時はトラックを含めて、日本人高校生に負け知らずで、卒業していきました。本当に強かったです。その強さはちょっと異常だったので、私も安心してエース区間を任せることができました。

早稲田大学では1万mで27分台を出して、学生三大駅伝でも活躍しました。ただ箱根駅伝の距離はちょっと対応しきれなかったのかなと感じています。本人は非常に真面目なので、箱根駅伝でも結果も出さなきゃいけないという思いが強すぎたのかもしれません。実業団のSGホールディングスでも苦しんでいますが、力はあるので、きっかけをつかめばまた走れるようになると思います。

文/高見澤勝 写真/佐久長聖高校駅伝部

『佐久長聖はなぜ強いのか?「人」を育てチーム力を上げる指導メソッド』(竹書房)

高見澤勝
〈高校駅伝・花の1区列伝〉故障、転倒、貧血…それでも名門・佐久長聖のエースたちが最長区間で勝ち続けた理由
『佐久長聖はなぜ強いのか?「人」を育てチーム力を上げる指導メソッド』(竹書房)
2025年12月10日1,870円(税込)200ページISBN: 978-4801947481

“日本一厳しい”環境で育まれた“人間力”を武器に
2023年&2024年 全国高校駅伝2連覇を成し遂げた
佐久長聖の“駅伝力”の神髄に迫る!?

「佐久長聖はなぜ強いのか?」とよく聞かれます。


全国から有望な選手が集まってくるわけでもなく、
ハイレベルな練習をしているわけでもありません。
ただ「強い」のは決して偶然ではなく、明確な理由があると思っています。

箱根駅伝に出場したOB選手が59人。全国トップクラスの実績を誇り、これまで村澤明伸、大迫傑、鈴木芽吹、關颯人、上田瑠偉、名取燎太、中谷雄飛、吉岡大翔、永原颯磨、山口竣平…多くの名ランナーを輩出してきた佐久長聖の秘密に迫る1冊。

第1章    競技人生のスタート
両角先生との出会い
佐久長聖の礎となったクロカンコース
全国高校駅伝の優勝を意識して

第2章 大学・実業団時代の苦しみ
箱根駅伝に潜んでいた魔物
高見澤、お前はマラソンだ!
4年目にしてマラソンに到達

第3章 指導者としての喜びと苦悩
母校で指導者のキャリアがスタート
全国高校駅伝で悲願の初優勝
ワースト記録からの出発

第4章 全国高校駅伝で勝てるようになった理由
9年ぶりの〝日本一〟直前に両角先生から電話
日本高校最高記録の奪回に成功
ライバル校をアンカー勝負で下して連覇を達成

第5章 高校卒業後も活躍する選手たちのエピソード
村澤明伸ら初優勝メンバーたちの素顔
「1番」のこだわりが強烈だった大迫傑
花の1区を制したエースたち

第6章 佐久長聖の強化プログラム
3年間の育成プログラム
夏の「合同合宿」がチームを強くする
全国高校駅伝の〝勝利のセオリー〟

第7章 最強チームのマネジメント術
知られざる寮生活のおきて
日々の生活が選手を強くする

高校時代は選手たちにとって「土台作り」の場。
その先の大学、社会人を見据え、
世界を舞台に活躍できる選手を育てたい。

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