〈箱根駅伝への道〉早大ルーキーが日本一の駅伝名門高校に起こした“サンングラス革命”…佐久長聖の知られざる寮生活の掟
〈箱根駅伝への道〉早大ルーキーが日本一の駅伝名門高校に起こした“サンングラス革命”…佐久長聖の知られざる寮生活の掟

携帯電話禁止、消灯は21時10分、時間管理は0.1秒単位――。全国高校駅伝の常勝校・佐久長聖の強さは、知られざる寮生活の厳格なルールと日常にあった。

新刊『佐久長聖はなぜ強いのか?「人」を育てチーム力を上げる指導メソッド』より一部抜粋・再構成してお届けする。

知られざる寮生活の掟

選手たちは駅伝部専用の寮で生活しています。私がコーチとして寮監を務めていたときのルールは今よりもかなり厳しかったと思います。当時の選手によると、以下のことが禁止されていたようです。

〇携帯電話(電話をかけるときは寮の公衆電話)
テレビ(食事時に10分ほど観られる場合がある)
〇ゲーム
〇漫画
〇私服(外出時は制服かチームジャージ)
〇自転車(治療院に行くときのみ貸出あり)


毎年、子どもたちが入れ替わるので、寮内のルールは生徒たち自身が決めており、私は完全に把握しているわけではありません。私の方から提示しているルールは、「不要物を持ち込まない」くらいでしょうか。掟ではないですけど、私がよく言うのは「時間を守りなさい」と「整理整頓をしっかりしなさい」という基本的なことばかりです。

子どもたちが寮内にいるかは、ネームプレートの色で判断します。寮内にいるときは白で、外出時は赤にするのがルールになっています。しかし、時々、プレートの返し忘れがあるんです。ある年は「返し忘れが2回あったら外出禁止」でしたし、「何回やったら退部」という年もありました。選手たちがルールを作り、子どもたちの都合でやっているので、ルールを守らないわけにはいきません。

近年でいうと、スマートフォンの使用は徹底しています。

スマホは消灯前に事務室で預かり、授業と練習(部活動)が終わって、寮に戻ってきたら返却します。その後は消灯時間まで使用できます。基本、学校に持ち込まないようにさせています。ただ今は学校が生徒全員にタブレットを持たせているため、それにLINEのアプリなどをインストールして使っている選手もいるようです。

寮監は学校の職員が務めているので、私の方からは、「寮の先生に迷惑をかけるなよ」ということは常に伝えています。寮生活でこちらから課していることは少ないですし、さほど私は気にしていません。寮にはほぼ毎日顔を出していますが、ずっといるわけでもないですし、チェックはあまり入れないようにしています。

寮生活は鍛える場であり、子どもたちが練習の準備をする場である一方で、プライベートの空間です。ガチガチに固めてしまうと、ストレスがかかってしまいます。リラックスするタイミングは必要ですし、ある程度の決まりごとの範囲内で子どもたちのやりたいようにやるのがいいかなと思っています。

とにかく、私が「こうしなさい」とうよりも子どもたちが「こうありたい」というものを大事にしたいんです。そして自分たちが決めたルールであれば、自分たちで責任を持ってできるはずです。
ある意味厳しいかもしれませんが、「自分たちが決めた以上、言い訳はできないよ」という話もしています。

日々の「0.1秒」を大切にする生活

選手たちは寮生活を送りながら、陸上競技のトレーニングに励んでいます。日々、どんな生活を過ごしているのか、お話しましょう。

朝は5時10分に起床します。朝練習の準備をして、グラウンド(クロスカントリーコース)に各自で移動。朝練習自体は5時55分に集合して行います。寮からグラウンドまでは約1.5km。トラブルがあるといけないので、最も安全なルートを指定しています。時々、ズルして近道でいく子どもがいるので、そのときは厳しく指導します。やった事実を責めるよりも、なぜ、その道を指定しているのか。子どもたちにしっかり伝えるようにしています。

そこからウォーミングアップ、ラダーやドリルなどをして6kmジョグと流しをして、寮に戻ります。寮の前で補強をして、練習が終わるのが7時半前ぐらいですかね。

7時半から朝食を取れるようになっているので、各自で食べます。なお食事は業者さんに栄養バランスのとれたものを提供していただいています。

朝は8時00分~15分が掃除の時間です。自分の部屋ではなく、寮の共用部分をやります。玄関、廊下、食堂、トイレ、お風呂、洗面所などですね。各班で分担して行います。

本校の授業が始まるのは8時35分なので、8時25分までに寮を出るようなかたちです。寮から学校までは400mくらいですから、ゆっくり歩いても5分ほどで到着します。

授業が終わった後は本練習の準備で一度、寮に戻ります。それが15時35~40分ぐらいですね。学校に荷物を置いて、ポイント練習はグラウンドに16時20分集合で行います。

練習終わりの集合が19時です。
19時15分から夕食を取れるようになっているので、各自で済ませた後は、自由時間です。特に指定はしていないので、その間に入浴して、部屋でスマホをいじったりしています。

20時30~50分に夜の掃除があります。その後は寝る準備に入って、点呼・消灯が21時10分です。中学生が見学に来ると、消灯時間の早さに驚きますね(笑)。

ただ部屋の電気を消した後も、ストレッチや補強など、ひとりで静かに過ごすのはOKです。あと食堂を22時50分まで開放しているので、勉強したい子はそこでできるようになっています。

我々はタイムを争う競技をやっているので、「時間」に関しては、子どもたちに厳しく言っています。だからといって、何かペナルティを与えるようなことはしていません。遅刻に対しては、正当な理由や事情があれば、こちらも受け入れますが、何か言い訳する場合は、遅れた事実よりもそういうことに対して厳しく指導しています。

2007年の全国高校駅伝で本校は0秒差で仙台育英高校に敗れました。過去の全国高校駅伝を振り返っても同タイムで負けたチームは我々しかありません。
一般的には「1分、1秒を大切にしなさい」と言われることが多いですけど、佐久長聖は「0.1秒、0.01秒を大切にしなさい」と言っています。それくらい時間の大切さを子どもたちに伝えています。

長髪にサングラスでもOK

佐久長聖は「丸刈り」のイメージが強いかもしれませんが、髪の毛については私の方からは特に指示は出していません。選手たちに任せています。でも試合前にいきなり「五厘刈り」にしてくる選手もいるんです。気合を入れる意味を込めて、というのはわかるんですが、個人的にはやめてほしいんですよ。私が強制しているように思われてしまうので……。

選手たちが髪を伸ばすようになったのは吉岡大翔が3年、永原颯磨が2年だった2022年のインターハイからです。それまでも髪型を強制していたわけではありませんが、自覚と責任を持ってやりなさい、と〝長髪〟を許可しました。過去に髪の毛の長い選手はいなかったので、永原のサラサラヘアを見て、佐久長聖は丸刈りじゃないんだ、と驚いた方がいたかもしれません。

全国高校駅伝で連覇した昨年と一昨年は髪を伸ばしている選手が多かったと思いますが、今年はなぜか丸刈りが多いですね。

去年のインターハイは佐々木哲がサングラスをつけて出場しました。自分の思い込みかもしれないですけど、今年のインターハイはサングラスをかけている子がたくさんいたんです。

それまでは本当にいなかったので、〝佐々木哲効果〟かもしれません。

サングラスの機能と効果については数年前にメーカーの方から講習会をしていただいたことがあります。でも、子どもたちはサングラスに抵抗感があったみたいで、つけることはありませんでした。

サングラスは紫外線から目を保護するだけでなく、疲労軽減に役立ち、集中力を増す効果も期待できます。以前から私は選手たちに勧めていたんですけど、エースの濵口大和と佐々木がつけるようになって、他の子たちもつけるようになりました。

時代の流れと言ったら大袈裟かもしれませんが、良いものは取り入れた方が絶対にいい。逆に新たなものを採用していかないと時代に置いていかれると思っています。

寮には酸素カプセルもあります。2017年の全国高校駅伝で優勝して、学校に購入してもらいました。高校で酸素カプセルを持っているチームはほとんどないと思います。基本的には空いていれば使っていいかたちにしているので、希望者が多いときは、子どもたちで相談して使う順番を決めているみたいです。治療日には結構活用していますね。

文/高見澤勝 サムネイル写真/佐久長聖高校駅伝部

『佐久長聖はなぜ強いのか?「人」を育てチーム力を上げる指導メソッド』(竹書房)

高見澤勝
〈箱根駅伝への道〉早大ルーキーが日本一の駅伝名門高校に起こした“サンングラス革命”…佐久長聖の知られざる寮生活の掟
『佐久長聖はなぜ強いのか?「人」を育てチーム力を上げる指導メソッド』(竹書房)
2025年12月10日1,870円(税込)200ページISBN: 978-4801947481

“日本一厳しい”環境で育まれた“人間力”を武器に
2023年&2024年 全国高校駅伝2連覇を成し遂げた
佐久長聖の“駅伝力”の神髄に迫る!?

「佐久長聖はなぜ強いのか?」とよく聞かれます。
全国から有望な選手が集まってくるわけでもなく、
ハイレベルな練習をしているわけでもありません。
ただ「強い」のは決して偶然ではなく、明確な理由があると思っています。

箱根駅伝に出場したOB選手が59人。全国トップクラスの実績を誇り、これまで村澤明伸、大迫傑、鈴木芽吹、關颯人、上田瑠偉、名取燎太、中谷雄飛、吉岡大翔、永原颯磨、山口竣平…多くの名ランナーを輩出してきた佐久長聖の秘密に迫る1冊。

第1章    競技人生のスタート
両角先生との出会い
佐久長聖の礎となったクロカンコース
全国高校駅伝の優勝を意識して

第2章 大学・実業団時代の苦しみ
箱根駅伝に潜んでいた魔物
高見澤、お前はマラソンだ!
4年目にしてマラソンに到達

第3章 指導者としての喜びと苦悩
母校で指導者のキャリアがスタート
全国高校駅伝で悲願の初優勝
ワースト記録からの出発

第4章 全国高校駅伝で勝てるようになった理由
9年ぶりの〝日本一〟直前に両角先生から電話
日本高校最高記録の奪回に成功
ライバル校をアンカー勝負で下して連覇を達成

第5章 高校卒業後も活躍する選手たちのエピソード
村澤明伸ら初優勝メンバーたちの素顔
「1番」のこだわりが強烈だった大迫傑
花の1区を制したエースたち

第6章 佐久長聖の強化プログラム
3年間の育成プログラム
夏の「合同合宿」がチームを強くする
全国高校駅伝の〝勝利のセオリー〟

第7章 最強チームのマネジメント術
知られざる寮生活のおきて
日々の生活が選手を強くする

高校時代は選手たちにとって「土台作り」の場。
その先の大学、社会人を見据え、
世界を舞台に活躍できる選手を育てたい。

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