tofubeats「サントラは自分のテイストをゼロにする仕事」 アニメ『正反対な君と僕』で考えた、依頼仕事とアルバム制作の決定的な違い
tofubeats「サントラは自分のテイストをゼロにする仕事」 アニメ『正反対な君と僕』で考えた、依頼仕事とアルバム制作の決定的な違い

アニメ『正反対な君と僕』の音楽を手がけたtofubeats。原作を偶然読んでいたという縁から始まった今回の仕事だが、本人が制作で最も意識したのは「自分を出さないこと」だったという。

アーティストとしての個性と、作品を支えるサウンドトラック。その間でどのようにバランスを取っているのか。

 

制作手法、タスク管理、発注側としてのスタンスまで、tofubeatsのアニメ音楽づくりに迫る。〈前後編の前編〉

作品を支えるサントラならではの苦労

──音楽の仕事が来る以前から原作を読んでいたそうですね。

tofubeats(以下同) そうなんですよ。インフルエンザで寝込んでいたとき、たまたま目にして、面白くて全部読んだんです。ほっこりした世界観が、病気で弱ってる身にはありがたかったですね(笑)。で、その半年後くらいにオファーが来たので、驚きました。なかなかそういうことってないので、ありがたいめぐり合わせだなと思いました。

──普段からマンガは読んでいますか?

いや、そんなにいっぱい読んでるわけでもないですね。「トーチweb」の作品とかは読んでますけど、あとは『解体屋ゲン』とか(笑)。『正反対な君と僕』みたいなジャンプ系の作品を読んだのは本当に久しぶりだったし、たまたまですね。

──完成したアニメ本編はもう観ましたか? 実際に、どんな感じで曲が使われているのか気になります。



2話までですが、観させていただきました。すごくオーダーのままというか、事前にいただいたリスト通りの使われ方で、イメージ通りでした。それでも、オープニングがありエンディングがあり、声優さんの声が入ると、また印象が変わりますね。

DJもそうですけど、時系列の「流れ」があることで、同じ曲の聴こえ方が変わるっていうのは、面白いなと毎回感じます。だから曲を作る人とは別に、音響さんや監督さんといった仕事があるわけですよね。

──音作りの手段は、具体的にどのように?

基本的にはシンセサイザーを中心とした打ち込みの、いつもの自分のやり方ですね。それと、自分のアルバムにも以前参加していただいたヴァイオリニストの町田匡さんに参加していただきました。8人編成のダブル・カルテットで、ゴージャスな音になっています。

──ある程度「tofubeatsらしさ」が求められる一方で、サントラとしては音楽が前に出すぎてもいけない。そういったバランス感覚はどう考えていますか。

基本的にこういうサントラの仕事をするときは、自分のテイストは「ゼロ」にしようと思ってるんですよ。その作品を見てるときに、自分が作ってるって情報は、視聴者からすれば別にいらないと思うんですよ。
それでもどうしても、絶対に「自分っぽさ」は出てしまうんですが……。技術的な原因で、手癖というか、逃れられない部分は残りますね。

仕事柄、ドラマなんか見てても「うわ、この撮影しんどいやろな」とか、制作の裏側をつい考えちゃったりするんですけど、それって「作品を見る」という点からすれば、本当はいらない見方だと思うんです。そういうことを考えずに、素直に見れている状態が一番いいんじゃないかと思うので、自分がサントラを作るときもそういう考え方で臨んでますね。

クライアントからの修正問題

──自分起点で作る音楽と、今回のサントラのように、依頼があって作る音楽とでは、意識はどのように違いますか。

テーマ設定を自分がするか否か、という点ですね。依頼があって作る音楽は、「こういう曲を作る」っていうゴールを、クライアントの方が決めるわけです。自分がレコード会社から出すアルバムの曲などは、歌やラップのゲストがいる曲であれ、自分がゴールを決める。そこはかなり違うポイントですね。

──同時に複数の楽曲、複数の案件を進めるにあたって、タスク管理はどのように行なっていますか。

基本的に、自分は「大タスク帳」「小タスク帳」という風に2つに分けていて、「大」は週間ペースで更新されていく、進行中のプロジェクトを書いていて、それとは別に「小」では「今、直近でやらなければいけないこと」が書いてるという感じです。タスク帳って言ってますけど、実際はObsidianっていうノートアプリを使ってやっています。

例えば「大タスク」には“『正反対な君と僕』サントラ”と書いていて「小タスク」には“M-8 ミックスダウン 明日まで”というようなタスクが書いてある、みたいな。

大タスクは週に1回、会社の定例のときに書き足して、小タスクはその日できなかったものは翌日にも繰り越されて、達成したら消す、という感じですね。

タスク帳とは別に『正反対な君と僕』専用のGoogleスプレッドシートもあって、そこでは各楽曲が今どれくらい進んでるかわかるようになっていて、進捗の管理表になっています。

──クライアントから修正や追加のオーダーを受けた際には、どのような心構えで対応していますか。

『正反対な君と僕』に関しては、そこで悩む場面はあまりなかったですね。こちらが提案したものがそのまま通ることが多く、非常にありがたかったです。なので、それ以外の仕事の話になりますが、まあ、やっぱりさっき言ったゴール設定の話にも通じますが、基本的にはそこで自分のエゴを通してもしょうがないので、できる限り対応していきますね。

──粛々と受け入れて対応する、と。デビュー当初から、そういう心構えで仕事に臨んでいましたか?

いやー、昔はまったくそうじゃなかったですね。修正が来すぎてキレたりしてました(笑)。でも、当時所属していたレコード会社の担当社員さんに「そんなことじゃ仕事にならないよ」と普通に説教されて、まあ、それもそうだなと反省しました。

結局、音楽を作る人間は孫請けみたいな立場ですから。そこで「自分はこうしたい」というのは、甘かったと思います。

今はもう、修正がいっぱい来たからといって「やりません!」とゴネるようなことはないですね。ムカつくときはありますけど(笑)。その点『正反対な君と僕』は、安心して進められる環境でしたね。

「管理しすぎると創造性を損なう」

──では逆に、発注する立場で気をつけることはありますか。

発注する場合、最初に提示した以上のことは求めないようにしていますね。自分が発注するからには、その成果物が予想に反するものであっても、それは発注した自分の責任だと思います。

そういう意識で発注すれば、相手も自由にアイデアを出してくれると思うんですよ。そこを管理しすぎると、結局「言われたことだけやってりゃいいや」ってことになっちゃって、その人の創造性を損なうことになるので。

特に音楽の発注とかの場合は、そういう「自由さ」が必要なんじゃないかと思いますね。

人にものを頼むって、自分ができないから頼んでるわけじゃないですか。なので、直しを要求するにしても、最低限そのリスペクトは持つべきだと思います。

──ところで『正反対な君と僕』のエンディングはPAS TASTAですよね。

来春放映の『左ききのエレン』の音楽担当もパソコン音楽クラブです。どちらもトーフさんと親しいミュージシャンですよね。

PAS TASTAがエンディングということを本当に知らなくて、びっくりしました。結果、ある種のコラボみたいになって、ありがたいですね。パ音にしてもそうで、昔から知っているみんなが、こういう仕事をやれてるのは本当にうれしいですね。

やっぱり原作者の阿賀沢先生が音楽好きな部分や、作品の持つテイストで、近しいミュージシャンが集まってる感じも、アニメ制作チームの皆さんの意図というか意気込みが感じられますよね。そこに自分も混じれたという点では、非常にうれしいなと思います。

#2に続く

取材・文/Shoichiro Kotetsu 撮影/濱田紘輔

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