2023年に「不同意性行等罪」が新設され、同意のない性行為が処罰されるようになった。それでもこの世から性犯罪、性加害はなくならない。
加害者の告白を『お金持ちはなぜ不幸になるのか』より一部抜粋、再構成してお届けする。
※本書で紹介する事例は個人が特定されないよう修正を加え、登場人物はすべて仮名とする。
女性を強姦しても怒らない親──柏崎圭吾(50代)
「十分金があるんだから、店にでも行ったらいいのに……」
事件を担当した刑事、検事、弁護士、皆が口を揃えて私にそう言いました。しかし、単純な性欲処理の問題ではないのです。
私がなぜ女性を強姦し続けたのか、残酷な事実から目を背けず、私の心の闇と向き合ってくれる人は今までひとりもいませんでした。
私が性犯罪者になった理由は、私が生まれ育った環境にあることは間違いありません。
私は地方の出身です。大きな都市から遠く離れた小さな町で育ちました。私の父親は会社を経営しており、この町で「柏崎」と名乗れば、「ああ、あそこの坊ちゃん」とすぐにわかるほどの名士です。私は町中から監視されているような気がして、子どもの頃、苗字で呼ばれることが苦痛でたまりませんでした。
私の親族の中では、女性に人権がありません。母は市議会議員の娘だったので、父親は義父に気を遣って妻に手を上げるようなことはしませんでしたが、女性を殴ったり犯したりしている姿は何度も見たことがあります。
自宅で宴会をする時は、必ず女性を呼んでいました。最初はお酒を注がせるだけなのですが、酔いが進むにつれ男たちは野獣と化します。女性の悲鳴が聞こえたので宴会場を覗くと、男たちは集団で女性を暴行していたのです。
母がすぐに私を連れ戻しに来て、
「誰にも言っちゃだめよ」
と口止めされました。母もすべてを知っていたのです。
私は次男で、会社は長男が継いでいます。父も兄も、アジアの「売春ツアー」に出かけ、旅費を経費で落としているような会社です。
私が最初に女性を強姦したのは中学生の頃です。近所の子どもに、お小遣いをやるから言うことを聞いて欲しいと言ったのですが、抵抗され、強姦してしまいました。たとえ親に言いつけられたとしても、怖くはありませんでした。女を犯したぐらいで父が怒ることはないからです。
もし、私が万引きでもしようものなら、たとえガム一個であっても、
「他人様の物を盗むなんて、柏崎家の恥だ」
と何回殴られるかわかりません。
柏崎家は躾に厳しい家庭です。それでも、女性への暴力だけは例外とされていたのです。
私たち兄弟は、成績が一番でなければ父から殴られました。
「おまえ、それでも男か?」
父はそう言って、子どもたちをよく殴りました。
男である限り、父の拷問から逃げられないのです。私は密かに女に生まれればよかったと女性を妬みました。
家でも外でも緊張を強いられる生活に、私は神経をすり減らしていました。その捌け口が、女性への暴力だったのでしょう。
高校生の時も、同じことをしました。高校三年時は受験のストレスが酷く、貧しい家の子ばかりを選んで金を与え、口封じしていたのです。
なんとしても息苦しいこの町を出たいと、私は東京の大学を受験しました。
男としてのプレッシャーをレイプで解消
私は人生で一度も恋愛をしたことがありません。女性に対する性欲はありますが、この子が可愛いとか自分のものにしたいといった感情を抱いたことがないのです。もちろん、男性が好きということもありません。
ただ、学生時代は駅で泥酔している女性を見かけては強姦しました。
私は女性より仕事に興味があり、第一志望の大企業に就職することができました。入社してからも勉強と努力を惜しみませんでしたが、女遊びばかりしている上司や同僚が、一流企業にもいるという事実に、内心失望していました。
入社した年の暮れ、実家に帰省すると、早速見合い話を持ち掛けられました。相手は、父の友人の娘で東京に住んでいるといいます。私はいつか実家に戻ってこいと言われることを怖れていましたが、東京の女性と結婚すれば実家とも距離を置けるだろうと、見合い話を受けることに決めました。その女性と一年間交際した後、結婚したのです。
子どももふたり生まれ、穏やかな日々が続いていました。私は親になったことで、歪んだ欲望が消えたものだと思い込んでいました。
ところがしばらくすると、夫婦関係がぎくしゃくし始めました。原因は子育てです。
長男は成績が良く中学受験も難なくこなす一方、長女の成績は芳しくありませんでした。女の子だし、私は全く気にしていなかったのですが、妻は長女の教育に干渉するようになっていました。それでも中学受験は失敗。落ち込んだのは娘より妻の方です。
「もう恥ずかしくて外に出られない」
「そんなこと言うなよ。娘が可哀想だろ」
「あなたは家にいないから気持ちがわからないのよ!」
昔は穏やかだった妻が、ヒステリックになることが増えていきました。私は夫の社会的地位や子どもの学歴で競う女たちに対し、どうしても嫌悪感を抱いてしまいます。
親バカだとは思いますが、娘はとても愛らしい顔立ちをしていました。学校でも人気があったと思います。そんな娘が、ある日、街でスカウトされたというのです。
高校に入学するなり、娘は歌やダンスのレッスンを増やし、オーディションを受けるようになりました。私は十代で化粧する娘の顔を見ることが苦痛でした。
それでも、本人がやりたいというので止めることもできず……。長男は放っておいても勉強ができるので、母親は娘に時間を費やすようになっていました。
私は芸能界などには興味がないし、そんな話は聞きたくもないので、夫婦の会話も徐々になくなっていきました。子どもたちが小さい頃は家族旅行にも出かけましたが、成長するにつれて家族の行事を嫌がるようになり、私はどこか孤独で、またストレスを感じるようになっていたのです。
そして、再び犯罪を起こすようになりました。私は夜道で女性を強姦しようとして抵抗され、逮捕されたのです。しかし運よく、実名は報道されませんでした。
当時は勝手に一流企業の社員だから警察が伏せてくれたと思い込んでいたのですが、むしろ社会的影響が大きいゆえに報道される可能性が高いと聞き、実名報道されずに本当にラッキーだったと思いました。
私は強姦する意思などなかったと噓を吐き、被害女性に謝罪文を送り、五百万円程度の示談金を払い、家族にも会社にもバレることなく不起訴処分となったのです。
この経験は、犯行意欲に弾みをつけてしまいました。強姦には失敗していますから、綿密な犯行の計画を立てました。
この頃になると、夜出かけても、妻は反応すらしなくなっていました。私は車で出かけ、夜道を歩いている女性を見つけては犯行に及んでいました。
強姦に及ぶと身体中に溜まった怒りが発散され、スッキリするのです。しかし、すぐに罪悪感や後悔の念、捕まる不安などが襲ってきて、その恐怖から逃れるために、また犯行を繰り返す……、そんな日々が続いていました。誰か止めてくれ、心の中ではそう叫んでいたのです。
逮捕された瞬間、ようやく「解放される」と感じました。今度は起訴される覚悟はしていましたが、私は示談さえすれば刑務所に行くことはないと考えていました。刑務所は、貧乏人の行くところだと思っていたのです。
ところが、くだされた判決は十年──。私は愕然としました。
生き地獄の始まり
しかし本当の罰は、刑務所生活ではありませんでした。
事件後、私は弁護士を通じて、妻に財産のほとんどすべてを渡して離婚しました。妻の実家も裕福なので、子どもを連れて実家に戻れば、それで済むと思っていました。一生生活に困らないだけの金額は支払っており、子どもたちの将来が閉ざされるなどとは考えてもみませんでした。
弁護人の話によれば、偶然にも世の中を騒がせるニュースが続いていた時期だったこともあり、私が起こした事件はそれほど世間の耳目を集めたわけではありませんでした。やっぱり私はラッキーだ。留置場の中で、私はそんなことを考えていたのです。
しばらくして、妻が面会に訪れました。今では申し訳ないと思っていますが、当時は妻に対しての贖罪の気持ちなど微塵もありませんでした。妻にとって、私などお金をもたらしてくれるATMでしかないと思っていたからです。
面会室に訪れた妻は、短い間に驚くほどやつれた表情をしていました。
「必要なことは弁護士に頼んでくれ。わざわざこんなところに来なくていいから」
めんどくさそうに私が話しかけると、妻は急に泣き出しました。
「息子は死にました」
私は一瞬、耳を疑いました。長男は、都内の有名大学に進学していました。
「自殺したんです」
「まさか……」
「娘は部屋から一歩も出ようとしないし、どうしてくれるの……」
妻はそう言って、泣き崩れました。
私は事態が十分に吞みこめず、アクリル板の向こうで泣いている妻を見ていることしかできませんでした。
面会時間終了を告げられても、泣き崩れてその場を動けなくなっている妻を、女性警察官が抱えながら運んでいったのです。
自宅は売却し、妻と娘は妻の実家で生活していますが、あれだけ活発だった娘は精神のバランスを崩し、事件から五年以上経った現在も、社会復帰はできていないそうです。
もし息子の命が戻ってくるのなら、娘が元気になるのなら、私の命を喜んで捧げますし、どんな拷問でも受けるつもりです。しかし、遅すぎたのです。これ以上の罰はありません。いっそ死ねたら楽ですが、ここではそれができないよう監視されています。私は一生、生き地獄を味わうのです。
性犯罪は「魂の殺人」と呼ばれ、長期的に被害者を苦しめます。本人だけでなく、家族もそうでしょう。そして当然に、加害者家族も一生苦しみ続けなければならないのです。
金さえ払えばなんとかなる、金がすべて。それは私だけでなく、世界の価値観だと信じて疑いませんでした。なぜなら、私の人生がお金で支配されていたからです。
もしかしたら、私はお金に復讐したかったのかもしれません。
文/阿部恭子
『お金持ちはなぜ不幸になるのか』 (幻冬舎新書)
阿部恭子
〈お金が〉“足りない”よりも“ありすぎる”方が人は壊れる!
裕福で幸せそうに見える家族ほど、闇が深い。
お金があれば幸せになれる――そう信じる人は多い。
だが、本当にそうだろうか。
加害者家族支援の第一人者である著者が見てきたのは、むしろ「お金によって壊れていく家族」だった。
家族間の支配、きょうだいの断絶、配偶者の性犯罪、子どもの引きこもり等々、「お金は魔物」という言葉は決して比喩ではない。
社会的地位も財産もあるのに、なぜ人は不幸になるのか?
お金が人を駄目にし、家族の歯車を狂わせる瞬間を描きながら「幸福とは何か」を根底から問い直す衝撃の一冊。

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