「日本文化に宿る美意識を世界に橋渡しする」ことを掲げる塚原龍雲氏曰く、伝統工藝品の作り手である職人たちが今、深刻な課題に直面しているという。後継者不足、変化する流通構造、そして経済的な困窮——。
書籍『なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか』より一部を抜粋・再構成し、塚原氏が工藝産業の現場で目の当たりにしてきた、この国のものづくりの未来を揺るがす構造的な問題について、率直に語る。
工藝産業の現場の課題
ここで、僕がこれまで工藝産業の現場に関わるなかで感じた、産業としての工藝の課題についていくつかふれておきたい。工藝に親しむうえで、絶対に知っておくべきかと聞かれれば、必ずしもそうではないと思う。
ただ、これらの課題は工藝の持つ魅力やそこに宿る価値観とも直結しており、何より工藝のこれから=未来を開くうえでは、避けて通れない問題だと考えている。
(1)業界構造の変化
いま伝統工藝品を作り出す現場は一つの産業として大きな課題に直面している。個々の就労者が工藝品づくり一本で食べていくには、厳しい環境といわざるを得ないだろう。
さらに、需要の低迷などの影響は、工藝産業の構造そのものにも変化をもたらしてきた。かつて工藝が産業として、より勢いを持っていたころは、各地域にあった産地問屋が企画・製造リスクを負担し、そうして生まれた工藝品を小売店が買取販売することで、在庫リスクを負担することも多かったという。
しかし時代の変化により、問屋もそうしたリスクを取り続けることが難しくなってきたのだ。作り手・買い手双方をつなぐ、工藝品の安定的な仕入・販売を担ってきた場としては、機能低下といってもいい状況が進んでいる。
結果、こうした取引相手からの受注減に対応すべく、職人さんたちの中には自らネットショップを立ち上げるなどして、直販に挑戦するところも現れてきた。「流通も含めたものづくり」といえば理想的な響きにも聞こえるが、実態はその多くが、余力のないなかで新たに不慣れな「売るための作業」を抱え、困難を感じつつ暗中模索している。
つまり、これまでは製造者と販売者が各々に役割を持って水平分業を保っていた業界構造の変化の影響が、職人さんたちの背中にダイレクトにのしかかっているのだ。日々ものづくりのことだけを突き詰めていくわけにもいかなくなり、多くの職人さんは経済的な事業継続性に頭を悩ませている。
(2)職人さんたちが不得意なことをやっている
工藝界における新参者の僕らではあるが、こうした現場の変化は、全国各地の工房を訪ねて回るなかでも実感するところが多々あった。業界構造の変化を感じ、自社でブランドを立ち上げて商品開発・販路開拓をし、ネットショップを始める職人さんは非常に多い。ただ、彼らとお話していて感じるのは、必要に迫られた結果とはいえ、とにかく不得意なことを、それでもやむにやまれず試行錯誤している、という姿だった。
これまで、売ることも含めて分業制だったのは、当然その利点もあったからだろう。例えば作り手と使い手をつなぐというのは、単にできあがった作品をお客さんに販売するということだけではない。時代に合わせ、お客さんの嗜好や時代の潮流をある程度反映したチューニングのようなことは、必要があればこれまでも問屋や百貨店からの提案なども受けながら行われてきたのだろう。
しかし、ものづくり一筋に精進してきた職人さんが、突然に「自社ブランドを作ろう」「ネットショップを開設して直販しよう」と考えても、ことはそう簡単ではない。
率直にいえば、経験もなく、得意ではないことを抱え込んで苦境に陥っていると感じることも多かった。なかにはベテラン職人さんのお子さんたちが東京など大都市の企業でビジネスマンとして働いた後に地元へ戻り、後継者としてブランディングやマーケティングに意欲を見せることもある。
ただしこれも、ものづくりの現場と嚙み合う形で結果を出せているケースは残念ながら多くはないのが現状だ。
(3)健康的ではない取引条件の蔓延
お客さんと工藝品の出合う場として大きな役割を果たしてきた百貨店をはじめとする小売店も、もちろん工藝から撤退してしまったわけではない。
リアルショップとして工藝品を愛好家に届ける現場として、長年の実績と経験が活かされうる場だろう。しかし僕はここにも、非常に大きな課題があると考えている。
いま職人さんたちと仕入担当者の商談では、「後継者不足を乗り越えるために」「職人さんのために」ぜひ一緒にやりましょう、という前向きな話がよく語られる。担当者の方々の中には、実際に心からそう思っている人もいるかもしれない。
ただ、現実の取引条件を聞いてみると、その内容で前述のような目標を職人さんたちと「一緒に」実現するのは難しいと感じる。その条件とは、例えばこんな感じである。
「仕入値は定価の六割台後半」
「商品を百貨店へ百~数百個規模で預ける」
「売れ残った場合は全返品」
「欠品が生じた際は数日内に補充」……。
利益率のとらえ方は状況にもよるが、中小規模の工房が、このボリュームで、かつ買取ではなく委託契約で取引していくのはかなりのハイリスクだろう。だが、小売店の立場からすれば、前述のような取引条件でなければ、いまの状況ではビジネスとして成り立たないのだ。
自分たち自身も小売業を経験してきたからこそ、痛いほどその現実を知っている。しかしその一方で、作り手にとっての仕入条件は、ますます厳しさを増している。
例えばある工藝品を百貨店に200個預けて、結果として50個しか売れなかったとする。この場合、残り150個はそのまま返却されてくる。加えて、欠品時の即時補充に備えた余剰在庫を百個用意していたとすれば、この職人さんは250個もの在庫を抱えることになる。
ただでさえ余裕はない状況で、このような取引条件ではなおさら疲弊することになるだろう。そして、それでも何とかこの状況に適応しようとするなかで、負のスパイラルが生まれていく。
(4)本来の「輝き」と「やりがい」の喪失
自前でのネットショップ開設・運営は難しい職人さんや、直販ルートだけでは食べていけない職人さんたちは、生き残るために、こうした厳しい取引条件に応えられる品を作らざるを得なくなる。それはひとことでいってしまえば「流通事情に乗る量産品」だ。つまり「売れ筋のデザイン」で「短期間に多数納品できる」商品である。
「美しいモノ」を作ることと、「売れるモノ」を作ることはつながっていそうで(また実際につながることもあるかもしれないが)、本来的には全く違う。そしていま、「売れるモノ」ばかりを過度に追求した結果、「伝統工藝的ブランディングをまぶしただけの『工藝品っぽい』商品」、長年の積み重ねによる文化を雑に濾したような、絞りかすのような商品が少なからず市場に出回っている。
自然の素材を、不自然な流通システムに乗せてものづくりをしても、不健康なモノができるに決まっている。そこでは工藝において大切な、職人さんのこだわりや情熱、ものづくりにおける喜びが失われてしまっている。
さらに、こうして世に出た品々が工藝品のうち多数を占めていくほど、使う側が本当に美しいモノにふれる機会も減ってしまう。結果、工藝を愛でる「眼」は育まれず、負のスパイラルに突き進んでいくだろう。
こうした悪循環は、本来なら素晴らしい才能や可能性を宿した多くの作り手を「ゾンビ職人」(失礼を承知であえてこう呼ばせていただく)ともいうべき、哀しい姿に追い込んでしまう。
さらに、ものづくりが好きで職人の扉をたたいた若手も定着せず、後進の育成が一層困難になっていくだろう。
しかしいまは、お金も稼げず、好きなこともできない(ものづくりの喜びも味わえない)のだという。業界構造の変化に対応するために不得意なことを始めるか、割り切って売れるモノづくりの道を歩むか─。ものづくりのことだけを考え、その探究に邁進できる環境が失われていくなかで、職人さんたちはそんな選択肢を迫られている。
また、最近は「地方創生」のかけ声に疲弊させられている職人さんが多いとも感じている。
こうした動きを推進する人々の多くは、伝統工藝に従事する職人さんたちを「助けたい」「救いたい」といって現場へ視察にやってくる。しかし、助ける・助けられるという一方向的な関係になると(実際にはそうした支援の要素があるにしても)、職人さんのしごとや彼らがつくるものの価値に正面から向き合わずに自分たちの施策や提案を進めてしまい、最後は「支援している自分たち」に矢印が向いたような動きになりかねない。もちろんそうでない誠実な方々もいるのは承知の上だが、「地方創生」の仮面を被ったマネー至上主義に振り回された職人さんも実際に見てきた。
現代の社会において日本の工藝の真の魅力を届けるためには、その良さをいかに伝えていけるかと同時に、こうした構造的な課題をいかに改善していけるかが大切だと思っている。
そして、僕自身の目指すことでいえば、それは「社会にインパクトを与えるしごとをしたい」という目標と、「お世話になった職人さんたちに恩返しをしたい」という思い、それぞれともリンクしている。
なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想
塚原 龍雲
隈研吾氏(建築家)推薦!
「職人の手が紡ぐ時間と若い起業家のまなざしが交差する。
伝統と革新が響き合う、手しごと再生の書」
◆内容紹介◆
柳宗悦が民藝運動を提唱して百年。いま、その精神にZ世代の起業家が共鳴し、新たな光を当てる。
「経年美化」──時の流れが育む美しさに惹かれ、日本各地の工房を旅し、職人と火や木や土の声を聴くうちに、その意味は生きた実感となった。
伝統工藝は過去の遺産ではなく、持続可能な社会を築く知恵。モノを愛する心が人を結び、手しごとは世界を変える。そのメッセージは海外でも静かな共感を呼んでいる。工藝から未来を紡ぐ挑戦の書。
◆目次◆
第一章 Z世代、工藝に出合う
第二章 工藝から学んだ、これからの生き方・働き方
第三章 知られざる工藝の世界
第四章 これからの日本の工藝をつくる職人たち
第五章 日本の手しごとの「いま・これから」

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