「うるさい」「酔っ払いばかり」除夜の鐘を中止する寺が増加する中、苦情ゼロで復活した“午前10時の鐘”
「うるさい」「酔っ払いばかり」除夜の鐘を中止する寺が増加する中、苦情ゼロで復活した“午前10時の鐘”

年越しの恒例行事、除夜の鐘。大晦日の夜にお寺で梵鐘(ぼんしょう)を108回撞くこの習わしは、古くは中国から日本に伝わったとされる。

108あるとされる人間の煩悩を、鐘を撞(つ)くことで消し、新年の幸せを願う――。当たり前に行なわれていたこの行事に、一部で“異変”が起きているという。

近隣からの苦情で除夜の鐘を中止…

「除夜の鐘 中止のお知らせ」

寺院のホームページに掲載された、どこかさみしさの漂う「お知らせ」。年越しの風物詩ともいえる「除夜の鐘」を中止するケースが出てきている。

静岡県牧之原市にある真宗大谷派の寺院大澤寺では、近隣からの苦情を受けて除夜の鐘を中止した過去がある。

「父の代は深夜0時前から除夜の鐘を撞いていました。拙寺は住宅地にあることと、参拝者がいつでも鐘を撞けることから、夜中の2時過ぎまでその音が響くこともありました。ところが2004年頃、深夜に『うるさい』という匿名の電話が入り、取りやめたのです」(大澤寺住職)

その後、数年にわたり『除夜の鐘』のない大晦日が続く。しかし2015年に世話人からある提案を受けた。

「世話人会で、以前は時鐘(時刻を知らせるための鐘)の役目もあった梵鐘がただぶら下がっているだけというのはもったいないから、『除夜の鐘』を復活できないかという話が出ました。以前中止にした経緯と、『世話人会の協力なしには再開できない』ということを私が伝えると、『時間を早められないか』との意見がありました。実は世話人の皆さんは、深夜の寒風吹きすさぶ暗い境内で除夜の鐘を運営するのが辛いとおっしゃったのです」

世話人からの提案でクレームが一切なしに

世話人からの思わぬ提案を受け、寺はある決断を下した。

「試しに大晦日のお昼過ぎ14時から『除夜の鐘』を開始することで了承を得ました。すると好評で、檀家さんはもちろん、それ以外の皆さん、それも老若男女の多くの方が集まってくださいました。

すると世話人の中から『主婦は帰宅してからいろいろと忙しいので、もっと早く始めてほしい』という意見があり、その翌々年から昼12時、3年前からは午前10時に鐘を撞きはじめています」

一度中止するも、世話人からの提案をきっかけに時間を早め、今は午前10時から「除夕(せき)の鐘」を行なう大澤寺。

足元が明るい時間帯に行なうことから安全面のリスクが減り、年配者や子どもたちが気軽に撞けるようになった。また15時にはすべてが終了するため、深夜に鐘が響くことはなくなり、クレームが一切なくなったという。

「深夜の鐘撞きはほとんどが酔っぱらいと言っても過言ではないくらいで、立ち寄る人は限定的でした。今は家族連れが中心で、若い人たちが撞きに来てくれます。皆さん好意的に捉えておられるようで、それは笑顔の並ぶ様子からも推察できます。すべての事がうまくいったと歓んでいる次第です」と住職は話した。

都内23区の住宅街に建つある寺院「お酒が入っている方はマスク着用の協力が得られない」

除夜の鐘が中止となる理由は近隣からの苦情だけではない。

鐘撞き堂の老朽化や、感染症拡大防止など、参拝者への配慮から中止にするケースも見られる。

都内23区の住宅街に建つある寺院は、「お酒が入っている方はマスク着用の協力が得られないので」と中止の事情を説明した。

「今年は『除夜の鐘』は中止の予定でございます。インフルエンザなどの感染症がまだ結構流行っていますし、大晦日は皆さんお酒が入った状態で来られます。

マスク着用のご協力をいただくのがなかなか難しい状況の中で、100歳を超える方もお越しになりますので」

住宅街の中に建つこの寺では、「近隣から苦情は一切ない」という。「毎日6時に鐘を撞いていますが、いまだかつてどなたからも苦情を言われたことはありません。ただ、感染症の拡大防止と、酔っ払いの方がなかなか言うことを聞いてくださらないので…」と住職はため息をついた。

12月に入り、SNSでは「除夜の鐘」の中止をめぐって「やめてほしくない」「クレームは気にせずに思いっきり鳴らしてほしい」などの声が相次いでいる。

長く親しんできた風習が変わっていくことに戸惑う声があるいっぽうで、時間を早めたり、ネットでのライブ配信を取り入れたりするケースや、事前予約制・有料化を図る寺もある。除夜の鐘はいま、静かに多様化の途上にあるのかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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