高市早苗政権を揺るがすもうひとつの爆弾が炸裂した。政権で安全保障政策を担当する「官邸筋」が、「私は核を持つべきだと思っている」と官邸で発言したことが国内外で物議をかもしているのだ。
「党内でも『政権のガバナンスはどうなっているんだ』という苛立ちの声が挙がっている」
「軽々に思いを話すべきではない」
政権中枢から飛び出した、日本の核兵器保有を巡る発言について、こう苦言を呈したのは自民党の中谷元・前防衛相だ。発言が報じられた翌日の19日午前、記者団の取材に「しかるべき対応をしなければいけない」と発言者の責任論にまで言及し、危機感を示した。
中谷氏は防衛大学校から陸自に進み、政界に転身した経歴の持ち主。小泉純一郎政権で防衛庁長官を、安倍晋三政権と石破茂政権で防衛相を二度務めたバリバリの「防衛族」である。安保政策を知り尽くした党内の族議員からも異論が出た背景には、安保政策に関して軽はずみな言動が目立つ政権への危機感がある。
「言うまでもなく、日本は戦後、世界で唯一の被爆国として『持たず』『作らず』『持ち込ませず』の『非核三原則』を堅持してきました。政権内からその国是の根幹を揺るがす発言が出たことに看過しがたいという思いがあったのでしょう。
今回の発言は、発言者の名前を公にしない『オフレコ』が前提の官邸での非公式取材でのものでしたが、多くの記者がその場には居合わせていた。一部には『オフレコ破り』との批判もありますが、高市政権では『台湾有事』の発言で日中関係の悪化が深刻化したばかり。
複数のメディアによると、18日に核保有について触れた「官邸筋」は、核兵器不拡散条約(NPT)との兼ね合いを課題に挙げ、「実現は難しい」などとも指摘しているという。また、「政権内で核保有の議論をしているわけではない」とも前置きしていたというが、軽率な言動だったことには間違いはない。
小泉進次郎防衛相の見解は…
発言の余波は防衛省にも飛び火し、19日に行われた閣議後会見では、小泉進次郎防衛相が記者から「非核三原則」に対する政権の方針を何度も問われる場面があった。
かねてから核兵器を「持ち込ませず」とした原則の見直しを訴えている高市首相は、国会答弁でも三原則の堅持を明言していない。会見に出席した記者からは、この高市首相の政治姿勢とも関連させて核を巡る政権のスタンスを問う質問があがった。
記者から「高市総理は三原則のうち、持ち込ませずの部分について変更を主張してきましたが、大臣は非核三原則三つについて全て堅持すべきで、今後も一切変更すべきでないとお考えでしょうか」と問われた小泉防衛相は、「この持ち込ませずということについては、2010年当時の岡田克也外務大臣による答弁を引き継いでいく考えであります」と述べるにとどめた。
民主党政権時の対応を引き合いに出したのは、高市首相の党首討論での答弁を踏まえているとみられ、政権内で足並みをそろえた格好だ。
その後も、記者から「非核三原則は日本の、平和国家日本としての国是だから、未来永劫変更すべきでないと考えますか、それとも変更してもいいと考えますか」などと再三にわたって問われたが、「防衛大臣としてお答えさせていただければ、日本の国民の皆さんの命と平和な暮らしを守るために、あらゆる選択肢を排除せずに検討を進める、議論をする、これは当然のことだと思ってます」と慎重な発言に終始している。
発言者の正体は総理の飲み友達
政権に少なくない波紋を投げかけた「官邸筋」のオフレコ発言だが、気になるのはその発言者の正体である。一部には「高市首相に安保政策を助言する立場」にあるともされるその人物とは一体誰なのか。
「発言したのは安全保障政策を担当する官邸側近の一人であるX氏だとみられています」と声を潜めて話すのは、前出の全国紙政治部記者である。
名前が挙がったX氏は高市政権の発足に伴い、10月に現職に就任したばかりだ。関係者によると、安全保障に関連する省庁に席を置いていた経験もあり、米国への留学経験もある。
高市首相がインターネット上に公開しているコラムでも「飲み友達」などと親密さをアピールした上で、安保政策についてのアドバイスを得ていたことを明かしている。
コラムでは、X氏の助言を受けた上で、政権発足直後に「前倒し改定」を発表した安全保障関連三文書(安保三文書)にも「敵基地攻撃能力」として明記されたミサイル防衛戦略について自民党の政権公約に盛り込んだことも示唆しており、高市首相にとって、自身の思い描く防衛政策を形作る上での指針となる存在であることがうかがえる。
X氏は、いわば高市首相にとっては、「身内中の身内」に当たる人物というわけだ。高市政権下の安保政策については、高市首相自身が、国会で「台湾有事」が起きた際の「存立危機事態」についての認識で踏み込んだ答弁をしてしまい、外交問題に発展する事態を招いた経緯がある。
そもそも波紋を呼んだ高市首相の国会答弁が、官僚作成のものではなく自身のアドリブ発言だったことも明らかになっている。側近から飛び出した今回の発言は、政権の不安定さをさらに強く印象づけるものとなってしまった形だ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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