「冬ボーナス100万円時代」の裏で4人に1人は減額・ゼロ、庶民は平均42万円の現実…円安で格差拡大、さらには地域差も
「冬ボーナス100万円時代」の裏で4人に1人は減額・ゼロ、庶民は平均42万円の現実…円安で格差拡大、さらには地域差も

2025年の冬のボーナスは上場企業を中心に平均額が100万円を超えたいっぽう、中小企業を含めた民間企業の平均は40万円ほどだ。そのうち1割は支給すらされていない。

ボーナスの有無や支給額の増減は多くの場合、業績に連動しており、円安を背景とした原材料費の高騰に苦しむ中小企業が十分な資金を捻出するのは難しい。

 

ボーナスの支給額もさることながら、その使い道からも深刻な格差が進んでいる様子がわかる。

一般大衆の冬のボーナスの平均は42万円ほど

12月15日に日本経済新聞が報じた「冬ボーナス初の100万円台」は景気のいい記事だった。2025年の冬のボーナス1人あたりの支給額は前年比6.4%増の102万円だったという。3年連続で過去最高を更新し、1975年の調査開始以降で初めて100万円を突破した。

しかし、この調査対象は上場企業と日本経済新聞社が選んだ一部の非上場企業だ。上場企業の2025年3月期の純利益は前期比でおよそ6%増加しており、4年連続で最高益を更新している。

2025年度はトランプ関税の影響で自動車産業を中心に利益は冴えなかったものの、建設業ではマンションや住宅の開発需要が旺盛。資材費や人件費の高騰分を価格に転嫁できたゼネコンを中心に利益が膨らんでいる。

その他、インバウンド需要に沸くホテル業界や、強気な値上げを続けた飲食業界など、サービス業も堅調に利益を出している。

業績が好調な会社は、優秀な人材の確保や定着のためにボーナスなど賃金改善を進めている。

しかし、多くの中小企業にその余裕はなさそうだ。帝国データバンクの「2025年冬季賞与の動向調査」によると、「賞与はない」との回答は12%。

「去年より減少する」との回答は13%だった。実に4分の1が支給されないか、減額になっていることになる。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「2025年冬のボーナス見通し」では、民間企業の平均支給額は42万円ほどだ。前年比で2.3%伸びているが、100万円とは程遠い数字である。庶民としての実感は、この数字のほうなのではないか。

ただし、同じ調査で支給額が一気に伸びたカテゴリーがある。国家公務員だ。前年比でおよそ2割増加し、約78万円だった。国家公務員のボーナスは民間企業の水準との乖離がないように調整されており、当然、大企業の動向に左右されやすい。

つまり、エリートと庶民の差が開くばかりというわけだ。

円安は日米の金利差という常識が崩壊

ならば中小企業も稼げる状態になればいいわけだが、現実は厳しい。主要因となっているのが、過度な円安だ。

帝国データバンクの「円安による企業業績への影響調査」では、円安が業績にマイナスの影響を与えるという企業は全体の6割に達している。

プラスとの回答はわずか5%ほどだ。

円安は原材料高を引き起こすが、多くの中小企業はコストの負担増を価格に転嫁することができない。この調査では1割の企業が価格転嫁によって売上・受注が減ったと回答している。

そして足元の円安が恒常的なものであることを示す決定的な出来事が起こった。日本銀行が12月19日に金利の引き上げを決めたにもかかわらず、円安が是正されなかったのだ。

アメリカは12月に3会合連続で利下げを決定している。かつて、円安はアメリカと日本の金利差によるものだと説明されてきた。そのセオリーが崩れてしまったのだ。高市内閣が積極財政路線を進んでいるうえ、日銀の利上げペースが遅いことを市場に見透かされている可能性が高い。

これは円安が中長期的なものになることを暗示しており、中小企業にとっては大打撃だ。

会計システムを提供する株式会社フリーウェイジャパンが中小企業の代表取締役を中心に実施した「2025年 冬のボーナスに関するアンケート」では、「来年度の夏のボーナスの支給の見込みが立っていますか?」との質問に、「立っていない」と回答した割合は50%を超えている。

今の日本の経済状態を鑑みると、中小企業経営者は自信を持って来年のボーナスを払えると言える状況ではないというわけだ。



円安を背景にインバウンドは活況だが、結局のところ円の価値が他の通貨に比べて相対的に下がり、日本が貧しくなっているに過ぎない。中小企業で働く日本人の多くは円安の恩恵など受けてはいないのだ。

金融リテラシーに地域差が生じるという現実

格差が広がる背景には、経済だけでなく日本人の金融リテラシーも関係していそうだ。それがボーナスの使い道によく出ている。

共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」を運営するロイヤリティ マーケティングは、冬のボーナスの使い道が12年連続で「貯金」だったことを明らかにしている(「冬のボーナスの使い道ランキング」)。

日本人の貯金への信頼は根強いものがあるが、円安が進行したインフレ下でもそれが揺るがないのは過剰な信仰に近いものにさえ感じられる。多額の日本円を銀行に預けるということは、相対的に価値が下がっている円に投資をするのと同義であり、決して合理的なものとは言えないからだ。

そして、「貯蓄から投資へ」という流れに差が生じているのだ。

投資益が非課税になるNISAの口座開設数は2025年6月末時点で2696万口座で、普及率は2~3割と言われている。政府が掲げる3400万口座の目標に届かないというのも問題だが、野村総合研究所は地域差が生じている実態を明らかにしている(「初めて明らかになったNISA普及の地域別実態」)。

東京都の口座開設率は30%を超えるが、青森県、岩手県、北海道は15~16%ほど。12道県で20%を下回っていることが明らかになったのだ。



大手転職情報サイト「doda(デューダ)」は「ボーナス平均支給額の実態調査」で地域別の冬のボーナス支給額を割り出しており、関東は63万円だが、東北と北海道は46万円ほどだった。全エリアの中でこの2つがとりわけ低い。

つまり、都市部と地方では賃金格差だけでなく、金融情報へのアクセス機会にも差があることが示されたわけだ。

当然、株式投資は元本割れなどのリスクを伴う。しかし、少なくとも、貯金という名の円への一本投資よりも株式やリート(不動産)、債券などに分散したほうが資産を守るという観点でもメリットは大きい。

貧富の差が大きくなっていることを示す材料はあまりにも多い。今後の日本では、これまで以上にキャリア形成や資産運用を意識する必要があるのかもしれない。

取材・文/不破聡 サムネイル写真/photoAC

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