お笑いコンビ・囲碁将棋と、プロ囲碁棋士の上野愛咲美。「囲碁」というキーワードをきっかけに、3人が顔を合わせた。
囲碁将棋「碁盤の上で麻雀していました。すいません」
––––本日は“囲碁つながり”でお招きしましたが、互いに「はじめまして」ですよね?
文田大介(以下、文田) はい。ただ、ニュースなどではもちろん拝見していました。囲碁のルールはほとんどわからないんですが……(笑)。
上野愛咲美(以下、上野) 私はもちろんおふたりを知っていましたし、「テレビの人がいる!」という感じですね。今回の対談が決まってから、何度か劇場にも足を運ばせてもらいました。
根建太一(以下、根建) えっ、そうなんですか! ありがとうございます。普段からお笑いはよく見られるんですか?
上野 いえ、そこまで熱心というわけではなかったですね。本当に、この対談が決まってから見るようになって。
––––上野さんは、「囲碁将棋」というコンビ名を初めて聞いたとき、率直にどう思いましたか?
上野 正直、「名前、どうしちゃったんだろう」とは思いましたね(笑)。それと同時に、「囲碁できるのかな?」と、かなり興味が湧きました。
––––そのコンビ名だと、やっぱり言われますよね。
根建 めちゃくちゃ言われます。それで「できねぇんかい」って、毎回ガッカリされますね。
––––囲碁将棋というコンビ名は、高校時代に囲碁将棋部に在籍していたことが由来なんですよね。なぜ、その名前に?
文田 本当にそのままで、「高校の同級生で、同じ囲碁将棋部だったから」というのが理由です。最初は仮だったんですが、いつの間にか正式なコンビ名になっていました。
根建 この名前だと、めちゃくちゃ文化系に思われるんですよ。キャッチコピーにも「文化系コンビ」みたいな文脈をつけられることが多いんですが、実際は全然違います(笑)。
文田 部活では将棋の大会にしか出たことがなくて。
上野 あはは(笑)。大人になってからも、囲碁は打たれていないんですか?
文田 このコンビ名なので、しょっちゅう聞かれるじゃないですか。だから一時期、「ちゃんと勉強しよう」と思って、対戦アプリを1人で触っていたこともあるんです。でも、やっぱり上手な人に教えてもらわないと、なかなか上達できなくて……。それで挫折しました。
対戦アプリもいいんですが、個人的には、ルールから丁寧に教えてくれる初心者向けのものがあると嬉しいなと思っていて。
上野 それが、最近出たんですよ。完全無料で、広告なしで遊べる入門用アプリがあるのでおすすめです。
4歳で囲碁の世界に。対局で磨かれた「20手先を読む力」
––––上野さんは、何歳くらいから囲碁を始めたんですか?
上野 私は4歳から始めて、小学2年生のときに院生(日本棋院や関西棋院などの棋院に所属し、プロ棋士を目指して修業している若手の囲碁修業生)になりました。
文田 すごいですね。4歳から始めていたら、「とっつきにくい」みたいな感覚もなく楽しめそうです。気づいたら、そこにあるものというか。
上野 いや、でも「よく続けられたな」という感覚はありますね。私だけでなく、いまも5歳くらいの子がこの教室に通っています。そういう子たちには、まず楽しさを味わってもらうことが大事なんです。
だからインストラクターが対局するときも、最初は指導として勝たせてあげて、徐々に楽しさを実感してもらう。そのあとに、友だちと実際に勝負するようになるんです。
文田 たしかに、最初に負けちゃうとやる気がなくなっちゃいますもんね。
上野 私の妹(プロ囲碁棋士の上野梨紗)も、インストラクター相手に100連勝してから、途中で「これじゃつまらない!」って言って、ようやく友だちと打ち始めていましたね。
––––お笑いの世界だと、高校卒業して養成所に通って……という流れが多いですよね。
文田 そうですね。
根建 僕らは大卒コンビとして当時は珍しかったんですけど、いまでは結構当たり前になっています。ただ、やっぱり高校から始めたほうが絶対にいいなと思っていました。大学の4年間、完全に無駄にしましたね。
––––(笑)。無駄ということないと思いますが、早く現場で鍛えられたほうが夢に近づく、というのはありそうです。
上野 囲碁でも、例えば世界戦などで対峙するプレイヤーは、やっぱり経験の量が全然違っていて、本当に学べる部分が多いんです。実際の対局で得た反省点をもとに、鍛えなきゃいけない部分を洗い出して、トレーニングして、次の大会に挑む。そんな積み重ねです。
お笑いのネタづくりでも、似たようなことがありそうですよね。
文田 確かにお笑いでも、現場に来てくれたお客さんと共通認識を持って、初めて成立する部分があります。例えばお笑い好きの人が集まる劇場ならウケるけど、初めて僕らを観るご高齢の団体さんには通用しない、といったことも多い。
上野 「テレビか、劇場か」でも、戦略的な部分は変わってきそうですね。そこまでお笑いに通じていない人が多い場合もあるでしょうし。
文田 おっしゃるとおりですね。ちなみに、上野さんはどのくらい先を読んで、次の一手を考えているんですか?
上野 言葉にするのが難しいですね……(笑)。囲碁の場合、石が混んでくると、どんどん次の手が読めるようになるんです。そうなったときは、だいたい20手先くらいまでの流れを読んでから、どこに打つか判断している気がします。
根建 え!? 20手先ですか?
上野 そうですね。だいたい2~3秒くらいで流れを読んで、どこに打つかを判断する、という感じです。
文田 うわぁ。すごいですわ。
お笑いと囲碁に共通する、相手や観客を見る力
––––お笑いの場合、オーディエンスの反応を見て、その場でネタの細部を変える、というのは難しそうです。
文田 やっぱりコンビでやっているので、その場で意思を共有できないんですよね。
上野 でも、1公演目と2公演目でネタを変える、ということはありますよね?
根建 一応、例えば同じ劇場で3公演ある場合は、すべて違うネタをやるようにはしています。ただ、芸人さんは結構同じようにやっていますよ。上野さんも、対局ごとに戦術を変えていますよね?
上野 確かにそうですね。相手を研究したうえで、その人に対して最適な戦い方を選ぶようにしています。お二人は、その日やるネタをどうやって決めているんですか?
根建 「今日やるならこのあたりかな」という候補がいくつかあって、その日の客層――例えば修学旅行の学生が団体で来ている、とかを見て決めています。
文田 舞台裏にモニターもありますし、前説などを見れば、だいたいの雰囲気もつかめるんですよ。「今日はあんまり笑わないな」とか、「何でも笑ってくれそうだな」とか。ただ、1本目で想定していた反応が返ってこなかったとしても、2~3本目でネタを変えることはあまりないですね。
根建 上野さんは、対局直前で戦術を変えることはあるんですか?
上野 ありますね。相手の表情や雰囲気を見て、変えることがあります。例えば、相手の気合が入りすぎているようだったら、普段はあまり打たないような戦術で挑んでみたり。
根建 すごい。「あ、ちょっとコイツ鼻息荒いな」みたいな。
上野 そうです、そうです(笑)。特に世界戦だと、そういうことが多い気がしますね。
文田 ちなみに読み筋みたいなのって、どうやって鍛えているんですか?
上野 やっぱり本番の対局を積み重ねることでしょうか。真剣勝負を何度も繰り返すことで、どこで集中すればいいのかなどが自分の中でわかってくるんです。直感的なところも大きいんですけど。
––––やっぱり現場を積み重ねることは大事ですね。お笑いの場合はどうですか?
文田 それこそ、例えば5時間くらい打ち合わせしてネタを作っても、実際に舞台上でポロッと出たアドリブが一番ウケた、みたいなのはありますよね。
根建 囲碁だとあんまりないですか? 事前に研究した形ではないけどその場の思いつきでやってみる、みたいな。
上野 全然ありますよ! いまではAIが有効な打ち手を確率で出してくれるんですけど、それよりも、自分で適当に選んでみた手がうまく進む、みたいなこともあります。
お笑いと囲碁、AIとのちょうどいい付き合い方は?
––––囲碁はAI技術のブレイクスルーとして注目されるのも早かったですよね。普段から上野さんも活用されているんですか?
上野 AIと対局することはないですが、日頃から参考にしながら勉強しています。研究会でも、対局後にAIを使って「ここの手がよくなかった」といった振り返りをすることは多いですね。
それこそ、お笑いの世界ではどうなんですか? ネタづくりでも使えそうですよね。
文田 作らせたことはありますけど、まだ正式なネタとして採用できるレベルではないですね。台本っぽいものは確かに作れるんですが、だいぶ無理がありました。
ただ、この先どうなるかはわからないです。囲碁でも、コンピュータが人間に勝つなんて「まだまだ先だ」と言われていたじゃないですか。でも、一気に流れが変わったので。
根建 近い将来「AIで作ったネタでM-1チャンピオンになりました」って人が出てきても、おかしくないですよね。まだ実際に聞いたことはないですけど。
文田 囲碁や将棋と違って、笑いのツボをデータ化するのは難しいですよね。数値化できるものじゃないので、もう少し時間はかかりそうな気もします。
上野 なるほど。でも、私もAIはあくまで参考にする程度ですね。例えばAIが「90%負けます」みたいな評価値を出したとしても、それが本当に逆転不可能な90%なのか、まだ勝てる可能性が残っている90%なのかは、また別の話なんです。
だから、あくまで研究のサポートとして使っている、という感覚ですね。それに、AIの指示どおりに打てば勝率は上がるかもしれませんが、それだとやっぱり自分が面白くないですから。
<後編に続く>
インタビュー・文/毛内達大
写真/宮崎慎之輔
取材協力/藤澤一就一門後援会

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