〈囲碁将棋×プロ囲碁棋士・上野愛咲美〉縄跳び777回、カツ丼、ゲーム三昧? 芸人とプロ棋士が明かす「勝負前ルーティン」
〈囲碁将棋×プロ囲碁棋士・上野愛咲美〉縄跳び777回、カツ丼、ゲーム三昧? 芸人とプロ棋士が明かす「勝負前ルーティン」

お笑いコンビ・囲碁将棋と、プロ囲碁棋士・上野愛咲美。対談の後編では、劇場や対局に立つ直前、3人がどんな状態でその時間を迎えているのかを掘り下げてみた。

調子の測り方、勝負前のルーティンやゲン担ぎ、そしてキャリアの中で一度は「辞めたい」と思った瞬間まで。長く第一線に立ち続けてきた3人の、具体的なエピソードに迫った。<前後編の後編>

対局前に縄跳び777回──調子を整えるためのルーティン

––––対局やネタをしている最中、「今日は調子がいい/悪い」と感じる瞬間はありますか?

根建太一(以下、根建) 僕はすぐ噛むので、噛まずにスムーズにしゃべれているな、と思えたら「今日はいけるな」と感じますね。僕のバロメーターはそれくらいです。

文田大介(以下、文田) 噛んだときに、すっごい「噛みました感」を出すんですよ(笑)。あっさり噛んでくれたら、こっちもそんなに気にならないのに。

上野愛咲美(以下、上野) あはは(笑)。私は「頭の回転のスピード」ですね。睡眠時間が短くて回転が遅くなっていると、「もう今日ダメだ~」ってなります。

根建 ちなみに、対局前にゲン担ぎみたいなことはされるんですか?

上野 ゲン担ぎというよりルーティンなんですが、対局前に必ず縄跳びを777回跳ぶようにしています。

文田 え、マジですか!? めちゃくちゃ疲れそうですけど。

上野 でも、縄跳びを跳ぶことで集中力を長く保てるようになるんです。跳躍運動は頭にいい、という研究もあるみたいで。

根建 なんで縄跳びなんですか? もともと好きだったとか?

上野 いえ、運動は嫌いでした。でも、プロになる前の院生研修のときに、「午前は勝つけど、午後は負ける」ということが多かったんです。なぜだろうと思って考えてみたら、私、お昼ご飯を食べると満足しちゃって、午後は気力が湧かなくなるタイプだとわかって(笑)。

––––ランチを食べて集中力が落ちて、成績にも影響が出てしまっていた、と。

上野 はい。なので、フラフープやランニングなど、いろいろ試してみたんですが、一番成績が良かったのが縄跳びでした。

そこから回数も研究して、100回、500回、1000回……多いときは1500回跳んでいたこともあります。ただ、さすがに疲れすぎることもあって、一番成績が安定して良かった中間の回数に落ち着いた、という感じですね。お二人も、縄跳びやりませんか?

根建 縄跳びですか?(笑)

上野 縄跳びじゃなくても、ジャンプするとかでもいいと思います! ネタ前は緊張すると思うんですけど、跳躍にはリラックス効果もあるみたいですよ。

目指すは『刃牙』の渋川剛気。「直前にネタ合わせしているの、ダサい」

––––囲碁将棋のお二人は、何かゲン担ぎはされますか?

文田 僕ら、あまり「勝負している」という感覚がないんですよね。もちろん賞レースはありますけど、普段の劇場は、勝ち負けとはちょっと違う感覚でやっています。

根建 あ、でも単独ライブの前日は「カツを食べる」というのを、もう10年以上続けていますね。たしか最初の単独ライブのときに「カツ食べようぜ」ってなって、それがそのまま恒例になりました。

文田 今年も食べたね。NGK(なんばグランド花月)で単独ライブをやったときも、昼にみんなで食べに行きました。作家さんとか、現場に来られない人も、それぞれ食べてLINEで「食べました」って報告するんです。

上野 かわいい! でも、重くないんですか?

根建 ……そういえば、重い可能性はありますね。

––––(一同笑)。

根建 前日ならまだしも、この時は本番直前に食べていますからね(笑)。

文田 賞レースのときは、僕はギリギリまでゲームするようにしています。Nintendo Switchとかスマホアプリで、出番直前まで遊んで、あえて余裕な雰囲気を出す、というか。「今ネタ合わせしているの、ダサい」「俺らはもう、いつでもできる」っていう。

上野 内心はどうなんですか?

文田 やっぱり1回くらいは……今やれって言われてもできるんですけど、緊張感があると、普段はミスらないところで間違えたりもするので(笑) 。

だからこそ、なるべくリラックスして、「いつでもやれる」という気持ちでいるようにしています。

というのも、漫画『グラップラー刃牙』の地下闘技場最大トーナメントで、合気柔術家の渋川剛気が、空手の達人・愚地独歩と戦うシーンがあるんですけど、控え室で何もしないんですよ。

それで、「愚地独歩はもう十分ウォームアップできていますよ」と言われたときに、「しょせんはスポーツマンじゃのう!」って返すんです。自分はスポーツマンじゃなくて武術家だから、いつでも戦う準備はできている、と。

そのシーンがすごくかっこよくて好きで。だから僕も、直前までゲームするようにしています(笑)。

「自分に期待していないから、プレッシャーも感じません」

––––普段、煮詰まったときやスランプを感じたときは、どのようにリセットしていますか?

上野 私は、あえて普段やらない勉強法をやるようにしています。例えば、棋譜並べ(対局の記録を見ながら、手順通りに石を並べて再現する練習)は、正直そんなに好きじゃなくて、普段はあまりやらないんです。でも、スランプのときに棋譜並べをやると、不思議と状況が改善されることが多いですね。

あとは、単純に勉強量をいつもより増やして、自信を取り戻していく、という感じです。

根建 上野さんは、どういうときにスランプを感じますか?

上野 例えば、すごく気合を入れて臨んだ棋戦で連続して負けてしまったときなどは「調子悪いな」と感じます。そういうときは、「しょうがないな~」と思いながら、棋譜並べをやるんです。

それこそ、お二人にもスランプってありそうですよね? 「ネタのアイデアが全然出てこない!」みたいな。

文田 そういうときは、外を歩いて気分転換しながら、アイデアを探しています。例えば今日の対談みたいに、普段とは違う場所でずっとしゃべっていると、「これ、ネタにできるかも」と思う瞬間があったりするんですよ。

とはいえ、本当にそれくらいで、あまり「スランプだな」と強く感じることはないかもしれないです。

根建 スランプって、やっぱり上の人たちが感じるものだと思うんですよ。例えば、野球でいつも3割打っている人が、2割しか打てなくなったら、それはスランプですよね。でも、僕らはずっと2割くらいなので(笑)。

文田 もう自分に過度な期待をしていないですし、「勝ち負け」でお笑いを捉えていないから、スランプを感じる瞬間もあまりないんですよね。

根建 「今日はたくさん噛んじゃったな」みたいなのはありますけど、それはもう歳のせいなので。

根建が辞めたいと思った理由「住み込みで働きたいから」

––––これまでのキャリアで「やめよう」と思った瞬間はありますか?

上野 ありますね。私はプロ試験に7回目で合格しているので、6回は落ちているんですよ。途中で「もう無理かもな」と思ったことは何度もありました。でも、じゃあ囲碁以外にできることがあるかと考えたら、何もなくて。

やっぱり囲碁しかないな、と思って踏みとどまりました。

文田 プロに合格したのは、何歳のときですか?

上野 中学2年生のときですね。

文田 その年齢で、その決断ができるのはすごいですよね。

根建 僕は過去に1回、文田に「辞める」って言ったことがありますね。5年前くらいかな。

文田 新型コロナのパンデミックが起こる直前ですね。ちょうど僕に2人目の子どもが生まれて、「じゃあ1年くらい休もうか」という話になったんです。でもその直後にコロナ禍になって、僕たち以外の芸人も全員休むことになった。

根建 だから、あんまり「休んだ感」が出ていないというか。実際には休んでいたんですけど、周りもみんな休んでいたから、気づかれなかったんです(笑)。

上野 ちなみに、なんで辞めようと思ったんですか?

根建 2019年でM-1の出場資格が終わって、「他にもやりたい仕事があるかもな」くらいの気持ちだったんです。お笑いも文田に誘われて始めたので、もしかしたら自分に合う別の仕事があるかもしれない、と。

文田 辞めるって聞いて「何するの?」って聞いたら、「住み込みで働きたい」って言うんですよ。いや、俺が聞いているのは職種なんだけど、形態はどうでもいいよ、って。

上野 まず「住み込みで働きたい」が出てくるのが面白いですね(笑)。

根建 はい。リゾートバイトみたいなイメージでした。

文田 それで、ラジオのレギュラーも何本かあったので、「1年後くらいに辞める感じで」と言われたんですけど、僕は「今日辞めようぜ」って言いました。1年とか緩いこと言わずに今日辞めよう、と。

根建は「ラジオの皆さんに迷惑がかかるから」とか言っていましたけど、いや、それは自分の人生とは関係ないでしょ、と。ラジオだって、別の芸人がやればいいだけですし。

そしたら「いや、今日辞めるのは……」って言い始めたので、じゃあしょうがないから1年休もう、という話になりました。

––––では最後に、上野さんは囲碁の普及にも力を入れていらっしゃいますが、もし囲碁将棋のお二人が今後アンバサダーになるとしたら、どんな形で囲碁界に貢献しますか?

根建 なれるわけないじゃないですか(笑)。囲碁できないのに……。でも、もしお声がかかったら、もちろん勉強はさせていただきます。

文田 囲碁の芸人といえば、アンガールズの田中(卓志)さんですよね?

上野 そうですね。私もお会いしたことがあります。

文田 僕らより一回り下の世代は、将棋より囲碁だったんですよ。漫画『ヒカルの碁』があったので。ああいう存在があると、やっぱり強いですよね。

将棋界でも、藤井聡太さんが出てきて一気に人気が出たじゃないですか。だから、上野さんのような存在が囲碁界にいらっしゃるのは、大きなトピックだと思います。

上野 ありがとうございます。でも、さっき見ていた感じだと、お二人も全然囲碁できそうなので、ぜひ始めてみてほしいですね。ゆくゆくは、囲碁大使になっていただきたいです!

インタビュー・文/毛内達大
写真/宮崎慎之輔
取材協力/藤澤一就一門後援会

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