〈岩屋毅前外相インタビュー〉「排外的な主張が増えてきているのでは?」行き詰まったイスラム土葬墓地問題で橋渡し…「自治体任せにできない」と訴える理由
〈岩屋毅前外相インタビュー〉「排外的な主張が増えてきているのでは?」行き詰まったイスラム土葬墓地問題で橋渡し…「自治体任せにできない」と訴える理由

「日本人ファースト」という言葉が飛び交った2025年、多文化共生や近隣諸国との友好の重要性を訴える声にはSNSで誹謗中傷が浴びせられた。石破茂前政権で外相を務めた岩屋毅衆議院議員はそうした攻撃が向けられた一人だが、ひるむ気配はない。

異文化を持つ人と共に暮らす社会や中国との関係、さらにはネットで浴びせられる攻撃について考えを聞いた。

「たまたま私の地元で起きましたが、全国どこでも起こりうる事案です」

――まずイスラム教徒の土葬を巡る問題でおたずねします。岩屋さんの地元大分の日出町(ひじまち)では土葬墓地建設の話があります。しかし今は反対運動で止まっており、これに絡んで11月に近隣の杵築(きつき)市の自民党市議団らが⼩林鷹之⾃⺠党政調会⻑と厚⽣労働省、内閣府に「国の対応を求める要望書」を提出し、岩屋さんはその場に同席されました。この問題の経過をどうみていますか。

岩屋毅(以下、同) 私の地元には立命館アジア太平洋大学という、教員も学生も半分が外国人で世界170の国・地域から留学生が来る多文化共生の学園があります。大分にはイスラム教徒を含む多くの外国人もおられ、地元の別府ムスリム教会が日出町の民有地を買って土葬墓地を作ろうと考えたのですね。

しかし、衛生面の問題や農産物の風評被害が起きるという反対の声が出ました。それで町が町有地を斡旋して、そこに作ろうという話になったのですが、今度は隣町の杵築市でも反対運動が起き、日出町では昨年、土葬墓地反対の新町長が選挙で当選しました。

――要望はどのようなものですか。

埋葬法(墓地、埋葬等に関する法律)では⼟葬は禁じられておらず、その是⾮は市町村が決めるとされています。地元市町は所管の厚労省にどうすればいいか何度も相談しましたが、『権限は市町村にお渡ししているので、自治体で判断してください』の一点張りで埒があかず今日まできています。

今回はたまたま私の地元で起きましたが、全国どこでも起こりうる事案です。

私が橋渡しをした申入れは『こういう問題を自治体任せにせず、国がもう少し関与をしてもらいたい』というものです。もっともな要望だと思います。外国人問題というより多文化共生のための課題の1つとして捉えるべきだというのが私の考えです。

「日本社会全体として課題の1つとして対応すべきではないか」

――国の主導で多様な埋葬方法を認めるべきとの機運を作ってほしいということですか。

というより、埋葬法ができた昭和23年(1948年)には今の問題は想定できなかったんですね。

日本人も含めイスラム教徒は(日本に)今少なくとも40万人ぐらいおられ、今後も増えることが予想されます。イスラム教の教義では火葬は禁じられています。だからその方々にとっては死生観に関わる深刻な問題なのですね。

全国には10か所ぐらい土葬可能な墓地があると承知していますが、九州にはありません。そこでイスラム教会の人達が墓地の開設権限がある自治体に認めてほしいと考えた。ところが住民の心配や反対が起こってなかなかうまくいかないという問題なんですね。

国による関与としては、これからの議論になりますが、私が思うのは例えば基本方針を示すということ。衛生面での対応や環境に与える影響への配慮が必要でしょう。

最後は自治体の判断だとしても、そのための地域住民との合意形成はこういう形が望ましいと示すガイドラインですね。

例えば土葬墓地を作る時に防水シールドなど一定の対策が必要なら、その基準を示すとか、場合によっては一部支援をすることも含め、自治体が判断する材料を国が示すことが必要ではないかと考えています。

――ご自身は土葬を推進すべきという考えですか。

そういう質問の仕方がおかしいと思いますよ。土葬を推進する、しないという次元の話ではなくて、実際に日本に住んでおられる外国人の中にはそういうニーズがある。外国人をこれだけ受け入れてきてるわけですから、日本社会全体として共生のための課題の1つとして対応すべきではないかと言っているのです。

――日本でも昔は珍しくなく、埋葬法も禁じていない土葬に強い反対が起きるのはなぜでしょう。

(衛生面で)科学的に問題がない、対処ができるということはおそらく皆さん理解をしていると思うんですけど、やっぱり感情的にどうしても違和感があるからでしょう。あるいは、最近はちょっと排外的な主張が増えてきていることにも影響されていると思います。

「日本は基本的には世界に開かれた国としてこれからも発展をしていかなければいけない」

――宮城県でも同様に土葬墓地の問題がクローズアップされ、県知事選挙では「あの候補者は土葬を推進している」という言葉で、対立候補を攻撃する動きもありました。死生観に関わると指摘されたこの問題で感情を刺激するこうした現象が起きていることをどうみますか。

いたずらに差別的で偏見に基づいた情報を発信することで、地域の対立や分断がもたらされる。

地域にとどまらず国全体でもそういうことが増えていく、ということは本当に好ましくないことだと思います。

やはり日本は基本的には世界に開かれた国としてこれからも発展をしていかなければいけないと思っています。政府が言う“外国人との秩序ある共生社会”をいかにして作っていくかという観点から問題を考えていくことが必要です。

――岩屋さんは、政治家としての視点とともに「死んだら火葬しなければダメだ」という声がイスラムの人に向けられていることに感じるものがあって、この問題に取り組んでいるのではないですか。

私の地元で発生した問題ですから、地域の皆さんの要望を受けて政府与党に伝えているということですね。私じゃなくても地元選出の国会議員であれば当然、同じことをしたと思います。

英仏や韓国、台湾などはイスラムの方々の埋葬にはかなり適切に対応しており、諸外国の事例も参考にどういう基本方針を作るのが望ましいのかを国も考えていくべきではないかと思います。アメリカも映画でよく埋葬のシーンが出てきますけど土葬はまだ多いじゃないですか。

今の日本人の感覚としては火葬が当たり前ですけど、“郷に入っては郷に従え”と言うだけで済む問題かというと、それほど簡単ではないですね。仏教でいうと「成仏できない」という話ですからね。

それを小さな自治体に『あなたたちだけで判断しなさい』と言うのはやっぱり無理があると感じています。

#2では石破内閣での外交や日中の緊張激化について聞いた。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ