対中外交の管理に腐心した前外相の岩屋毅衆議院議員は、外交や多文化共生の重要性と、これをおとしめるネット空間の誹謗中傷の問題点について怒りを込めて語った。石破茂内閣については80点と採点した。
「外交は喧嘩するためにあるわけじゃない」
――ネットでの虚偽情報も使った攻撃は、外相の時に強調されていた「外国との対話と協調を深めようとする行動」に対し特に激しいようです。
岩屋毅(以下、同) 一種の排外主義であり、日本の立ち位置に対する理解不足だと思います。中国、韓国については国民の皆さんも非常に複雑な思いを持っておられると思いますが、それは先方もそうだと思うんですよね。お互いの間の不幸な歴史もありましたからね。
しかし、だからこそ近隣との外交は重要なんです。「嫌韓」とか「嫌中」とか言っていて、じゃあ日本外交って成り立つんですか、っていうことです。
むろん日米同盟がわが国外交の基軸ですが、これから先は日米同盟一本足でも日本の外交は成り立たない。いろんな同志国と多層的、重層的な関係を網の目のように構築しなきゃいけない。その上で、近隣諸国とは安定的な関係を築いていなければいけない。そういう考え方に基づいて対中外交、対韓外交を私はやってきたわけです。
――なるほど。
それがけしからんという人たちの理由がよくわからないですね。
過去の歴史問題などを理由に、今でも韓国や中国から日本に対して厳しい声が出ることはあります。それに対する反発の気持ちがおありなんだろうなとはよく分かりますが、相手側の国民の思いもおもんぱかりが必要だと思いますね。
外交は喧嘩するためにあるわけじゃなく、関係を管理しできるだけ良好に維持するためにあるわけですから、これからも対中外交、対韓外交は日本の外交の中でも大きな柱の1つにならなければいけない課題だと思います。
「人間にファーストもセカンドもないでしょう」
――土葬の問題もそうですが、ネットの攻撃でもう一つ目につくのは、日本で暮らす外国人を標的にするものです。今年の参議院選挙でさらに激しくなりました。
一部に法を犯す外国人がいることは事実であり、それには厳格な対応が必要ですが、それは日本人にもたくさんいるわけで、最近では東南アジアでしょっちゅう日本人が詐欺で摘発されたりしているでしょう。
「ナントカ人」とか「外国人」とかとくくって考えるのがおかしなことだと思います。個々人なわけですからね。そして大半の外国人は日本のあらゆるところであらゆる業種にいま従事をしてもらっています。私の地元でも建設業、水産業、農業、水産加工業、最近では福祉の分野でも外国の方がいなければ回らないようになってきていますし、他の地域でもそうでしょう。
これだけ円が安くなった日本を選んでくれて、日本に来て真面目に一生懸命働いてくれている、あるいは学んでくれている。
――「日本人ファースト」という言葉をどう思いますか。
人間にファーストもセカンドもないでしょう。人間ファーストと考えるべきだと思います。
――夏の参議院選挙は「日本人ファースト」という言葉が飛び交いました。自民党の言葉ではないですが、この言葉が広がる前に政府が「不法滞在者ゼロプラン」を言い始め、自民党は「違法外国人ゼロ」を選挙公約にしました。それがあのような選挙になる口火を切ったのではないですか。
私も、ちょっとあのタイミングってのはどうだったのかなと思います。というのは、政府に「外国人との秩序ある共生社会推進室」を立ち上げたのは参議院選挙の最中だったんですよね。
だから正直に言うと排外的な主張が高まる中で「政府自民党もちゃんとそういう声は受け止めてますよ」と示さんがための本部設立だったような気がしてならなかったですね。言ってみれば選挙対策ですよね。でもそういう動機で扱ってはいけない問題なんだと思います。
政府、自民党に立ち上げた本部は、まさに外国の方々との秩序ある共生社会を作るためにどうすべきか議論をしたり制度を作ったりしていかなければいけないと思いますね。
「外国人取締本部」みたいに思われたのではいけない。これだけ日本に来て頑張ってくれている人たちと秩序ある共生をするためにはどうしたらいいかを冷静に丁寧に議論し、その環境を整えていくべきだと思っています。
石破政権は「80点かな」
――この1年を振り返るとどうでしたか。
外交的にはものすごく濃密な1年間でした。第二次トランプ政権が誕生して関税交渉もあり、ウクライナ、ガザ(の戦闘)はずっと続きました。大阪・関西万博が開催されたので日本に来る外国の要人もすごく多かった。横浜ではアフリカ53か国を集めた第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)もやり、私は計359回の会談と55回の電話会談を行ないました。自分的には全力を尽くすことができたと思っています。
就任の時に掲げた『対話と協調の外交』。対欧米はもとより、グローバルサウス、そして中国、韓国も含めてしっかり対話を行うことができたのではないかと思います。
――石破政権を採点するとしたら何点でしょうか。
80点かな。石破政権に与えられた宿命は“熟議”ということだったと思うんですよね。少数与党政権なので与党だけではものを決められない。野党にも国政運営に責任を持ってもらわなきゃいけない、その話し合いをしっかりやらなきゃいけない。それを使命とする政権でした。
諸外国とも同じことです。だから外交課題が非常に多い中国や韓国とも丁寧に話し合いを続けていく。関税を一方的にかけてくるアメリカの政権とも粘り強く交渉を行なっていく。赤澤さん(赤澤亮正・経済再生担当相、現経済産業相)なんか10回もワシントンに行って、その度に総理を中心にみんなで作戦会議をやってなんとか合意に至ったわけですけども。
いずれにしても丁寧に話し合うっていうのがまさしく石破政権に与えられた使命であって、その意味で80点はしっかり取れていると思います。
20点のマイナスは石破さんも言ってますけど、「石破らしさ」が出なかったというところですね。本来の石破さんの考えはどうしても控えざるを得なかった。
やっぱり1年ちょっとで政権の座を降りなければならなかったことは極めて残念だったなと。支えていたわれわれの力も足らなくて申し訳なかったなと思います。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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