〈店舗数はピーク時の3分の1以下〉全国から急速に消えつつある「街の本屋」がそれでも必要な理由と生き残るための道
〈店舗数はピーク時の3分の1以下〉全国から急速に消えつつある「街の本屋」がそれでも必要な理由と生き残るための道

日本の街から、「本屋」が急速に消えている。2025年12月時点で、実店舗の書店数は1万471店となり、ピーク時の3分の1以下にまで減少した。

ネットで紙の本も電子書籍も手軽に買える時代において、「街の本屋」はこれからも必要とされるのか。その価値と危機の正体に迫る。

新刊『街の本屋は誰に殺されているのか?』より一部抜粋・再構成してお届けする。

ネット書店にはない、本屋だけが持つ力

地域で愛された街の本屋の閉店が決まり、告知するとお客様からこんな言葉を掛けられたそうです。

「困るわぁ。毎月買うてた雑誌とか、子どもの本とか  ー  どこで買うたらええんやろ?」

「近所の本屋がのうなるなんて、ほんま困るで。どうしたらええんや?   最近はコンビニでも雑誌、置いてへんやろ……」

これは、関西のある主婦の声ですが、同じような声が、全国各地から聞こえてくるようになりました。かつては、どこの町にも当たり前のようにあった「街の本屋」。  それが今、静かに、けれど確実に、姿を消そうとしています  —  。

インターネット書店の普及により、本はどこにいても簡単に手に入るようになりました。本屋がその存在が求められるのは、自分が探していた本だけでなく、思いがけない本との出会いが生まれる場所だからです。

「何か良い本はないか」と棚を眺め、背表紙を指でなぞる。その過程で、まったく予想していなかった一冊が目に留まり、心を動かされることがあります。

この「知的な偶然の出会い」こそが、読書の醍醐味の一つです。それこそが人が無意識のうちに本屋で発揮する「セレンディピティ」です。

たとえば、仕事に行き詰まっていた会社員が、たまたま手に取ったビジネス書に背中を押された。親の介護に疲れていた主婦が、ふと見つけたエッセイの一節に、思わず涙をこぼした。離職したばかりの男性が、旅の本の中に「もう一度、自分を見つけに行くヒント」を見つけた。

あなたにもそんな経験はありませんか?

この偶然によってもたらされる出会いによって、本は、開いたときに現れるストーリーだけに留まらず、あなたが本と出会うというストーリーも付加され、読書体験により大きな喜びを付加してくれます。そして、これこそが、本屋の持つ大いなる意義なのです。

それは自分で検索して選んだ本ではなく、たまたま立ち寄った本屋で思いがけず出会った一冊。探していなかったのに、今の自分にいちばん必要な言葉が、そこにある。こうした「偶然の幸運」は、ネット書店にはない、本屋だけが持つ力です。本屋は、ただの本の販売所ではありません。人が迷ったとき、立ち止まったとき、そっと寄り添う場所です。


しかし、日本で実際に店舗を構える本屋(外商だけの本屋を除く)は、2023年には11,000店を下回りました。ピーク時の約23,000店から三分の一以下に減ったのです。その上に街の本屋の稼ぎ頭である教科書がデジタル化されて電子教科書が本格的に導入される方針の2030年には、紙の教科書の納品は不要になる可能性さえあります。

※政府は、2025年度までにデジタル教科書の普及率を全国の小中学校で100% とする目標を掲げています。また、文部科学省の方針として、2030年度からはデジタル教科書を〝正式な教科書〟として使用するスケジュールも示されていますが、ご存じでしたか?

この急激な書店の衰退の背景には、日本独自の出版業界の構造的問題があります。「プロローグ」でもお伝えしたように本屋の急激な衰退は日本特有の現象です。

街の本屋が辿るべき未来とは

本屋の売り上げは、書籍と雑誌とコミックに大別されますが、大型書店を別にすると、街の本屋の売上は雑誌とコミックがその半分を占めていました。一方、諸外国の本屋は書籍が売上の大半です。日本ではメディアの王様であった雑誌の衰退は今後も避けられません。

コミックにも往時の勢いはなく、それが街の本屋の凋落に繋がっています。それにも関わらず、日本の出版界は雑誌・コミックを中心とする商慣習や物流網のままで、時代の変化に対応した変革がまったく進んでいません。

拙著「2028年街から書店が消える日」にて、このタイトルにあるような、ネガティブな予想をし、出版関係者からお叱りの声をいただくことになりましたが、この予想は日々現実の数字へと変わっているのが現状と言わざるを得ません。

こうした厳しい状況の中で、本屋が生き残るためには、従来のビジネスモデルを根本から見直す必要があります。

海外の書店では、書籍販売だけでなく、カフェやイベントスペースを併設し、地域コミュニティの拠点としての役割を果たすことで再生を果たしています。アメリカやドイツでは、リアル書店の価値が見直され、多くの独立系書店が復活の兆しを見せています。

日本の本屋もまた、この流れに学ぶべき時が来ていて、その動きも一部では見られます。しかしながら、最も大切なのは本屋が書籍で収益を上げるようになる事です。その為には再販制度(出版社が決めた価格でしか本を販売できない制度)や委託制度(売れ残っても返品※できる制度)の見直しに、書店の粗利益率の引き上げ、本屋と出版社との直接取引の強化など、業界全体の構造改革が求められています。

そして本屋自身が単なる本だけの販売の場ではなく、文化と知的な出会いの場としての価値を再発見し、読者に新たな体験を提供することが不可欠です。

このまま何も手を打たなければ近い将来、街の本屋は消えてしまうでしょう。しかし、本屋が自らの価値を再定義し、読者との新しい関係を築くことで、未来はまだ変えられるはずです。

文/小島俊一

『街の本屋は誰に殺されているのか?』(日本経営センター)

小島俊一
〈店舗数はピーク時の3分の1以下〉全国から急速に消えつつある「街の本屋」がそれでも必要な理由と生き残るための道
『街の本屋は誰に殺されているのか?#1』(日本経営センター)
2025年11月4日1,760円(税込)176ページISBN: 978-4910017846

本書は、日本で街の本屋が
急速に消えている理由を探る。

戦後の出版界は
再販・委託制度などに守られ発展したが、
構造を変えられず衰退。

1996年に2万5000店あった本屋は
2023年に7000店を下回った。

他国では維持・微増しているのに
日本だけが急減している。



読書離れではなく雑誌市場の崩壊と
構造的問題が要因である。

本書は歴史的背景と海外比較、
現場の成功事例を通じて、
出版界の制度疲労を明らかにし、
本屋を文化と知の拠点として再定義、
未来に残す意義を問い直す。

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