「街の本屋」が、静かに、しかし確実に消えている。全国の約3割の自治体には、すでに本屋が1軒も存在しない。
新刊『街の本屋は誰に殺されているのか?』より一部抜粋・再構成してお届けする。
街の本屋がなくなる未来に抗うためには?
本屋の減少を「時代の流れ」として受け入れるのか、それとも「文化の危機」として正面から向き合うのか。欧米では、全国チェーン店以上に独立系書店の復活が進んでいます。ドイツでは出版流通を地域密着型に改革することで、リアル書店を守っています。
一方、日本では未だに本屋の減少が止まりません。このままでは、本を「買う場所」がなくなり、やがて本そのものが売れなくなる未来がやってきます。本屋は、単なる商業施設ではなく、文化と知識の拠点です。このまま消えてしまって良いのか?
「本を売る仕事」は、いま大きな岐路に立たされています。
日本でも、希望の灯は消えていません。北海道・留萌市では、市民と行政が力を合わせて街に本屋を取り戻しました。広島の山間部では、小さな本屋が知恵と工夫で〝灯り〟を守り続けています。
※独立系書店:大手チェーンに属さず、個人や地域の小規模経営者によって運営されている本屋のこと。品ぞろえや店の雰囲気に経営者の個性が強く反映されているのが特徴。
日本の街には本屋が数多く存在していました。特に地方では、この減少スピードが速くなっています。現在、全国の約28%の自治体には、本屋が1軒も存在しないという深刻な状況(経済産業省による2024~2025年の書店活性化計画資料)です。
では、海外ではどうでしょうか?
海外の書店数の推移(2020年時点)
・フランス:書店数は2015年から2020年まで横ばい(約2,300店を維持)
・ドイツ:書店数は2020年に4,000店を下回ったが、市場は微増傾向
・韓国: 2015年まで減少していた書店数が、その後増加傾向
・アメリカでは、大手書店と独立系書店の二極化が進み微減傾向
※ここで、注意して見ておくべきことは、日本では減ったと言ってもまだ11,000軒近い書店数が維持されているということです。日本の書店の適正数は誰にも分かりません。
このように、日本ほど急激に本屋が減っている国はありません。つまり、日本の本屋が減っているのは、単に「本を読む人が減った」や「ネット書店台頭」からではなく、日本の本屋を取り巻く経営環境に大きな問題があるからなのです。
また、日本国内では本屋の減少と並行して図書館が新たな役割を果たし始めています。特に、「金沢海みらい図書館」「札幌市図書・情報館」「武雄市図書館(佐賀県)」などの先進的な図書館は、地域社会の文化的拠点として、本屋に代わる機能を果たそうとしています。しかし、その一方で、施設の老朽化や司書不足、財政難により、図書館の存続が危うくなっている地域も多いのです。
図書館の予算削減により新刊の購入が難しくなっているという問題があります。図書購入費の減少により、貸出冊数が伸び悩み、利用者のニーズに応えることが難しくなっています。このように、本屋と図書館の両方が課題を抱えており、この点でも解決策が求められているのです。
本屋の消滅と図書館の変革。この2つの現象は、日本の出版文化の未来に大きな影響を与える要因となっています。
本屋が減る本当の理由3つとは?
私が出版界に入ったのは1980年代ですが、その頃から変わらず言われてきたのが「流通側の利益幅の低さ」と「書籍注文品の遅滞性」そして「返品率の高さ」あれから40年以上経っても、これらの課題に何らの解決策の糸口さえ見出していないのが日本の出版界の現状です。この課題の解決を妨げている「本屋を苦しめる三大要因」をここでは簡単に触れておきます。
読者には見えにくい、本屋を苦しめる「3つの鎖」
⒈ 再販制度:本屋は本の値段を自由に決められない鎖。
⒉ 委託制度:本の返品が増え出版社の収益を圧迫し、本屋に利益を渡せない鎖。
⒊ 雑誌発売日協定:地域ごとに各雑誌の発売日が厳守される協定の鎖。
これらは、まさに古い制度に固執する日本社会そのものの姿でもあります。出版界の隆盛期には、これらの制度は一定の機能を果たしていました。しかし時代が変わっても仕組みは変わらず、今では本屋を縛る「鎖」と化しています。
「再販制度」「委託制度」「雑誌発売日協定」は、まさに日本社会における「年功序列」「終身雇用」「横並び主義」の失われた30年の日本社会との相似形です。いずれも過去の成功体験に根ざし、制度疲労を起こしながらも改革されず、現場だけが疲弊していく昔からの出版界の3つのビジネスモデルです。
※制度疲労:当初の目的が時代に合わなくなり機能不全を起こしている制度のこと。
文/小島俊一
『街の本屋は誰に殺されているのか?』(日本経営センター)
小島俊一
本書は、日本で街の本屋が
急速に消えている理由を探る。
戦後の出版界は
再販・委託制度などに守られ発展したが、
構造を変えられず衰退。
1996年に2万5000店あった本屋は
2023年に7000店を下回った。
他国では維持・微増しているのに
日本だけが急減している。
読書離れではなく雑誌市場の崩壊と
構造的問題が要因である。
本書は歴史的背景と海外比較、
現場の成功事例を通じて、
出版界の制度疲労を明らかにし、
本屋を文化と知の拠点として再定義、
未来に残す意義を問い直す。

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