「いかに簡単に、きれいな“うんこ”を作れるか…」なぜBANDAI SPIRITSは異色のおもちゃを商品化したのか「ウンコスルデイズ」誕生の裏側を開発者にインタビュー
「いかに簡単に、きれいな“うんこ”を作れるか…」なぜBANDAI SPIRITSは異色のおもちゃを商品化したのか「ウンコスルデイズ」誕生の裏側を開発者にインタビュー

BANDAI SPIRITSから2025年7月より発売されたクレイモデルキット『ウンコスルデイズ』シリーズ。その名の通り、“うんこ”をモチーフにしたおもちゃで、プラパーツ+紙ねんどを組み合わせて“うんこキャラ”を作ることができるこれまでにない発想の商品だ。

発売するやいなや、「なんだこのおもちゃは…?」と話題を呼び、瞬く間にネットの話題となったが、その一方で、厳しい声が飛ぶこともあった。

なぜ、この企画は生まれたのか。開発を担当したホビーディビジョン ホビークリエイション部の安部豊さんに、その発想と設計思想を聞いた。(前後編の前編)

「うんこしかない」企画が動き出した経緯

1988年生まれの安部さんは、高専から大学院まで進み、国立で機械工学を学んできた。ただ、ロボットアニメを見て「自分も作りたい」と語る同世代を横目に、次第に「自分で作ること」よりも「次の世代への種まき」への意識が強くなる。2017年にBANDAI SPIRITSの企画チームに入り、SDガンダムを中心にロボット系作品やデジモンなどさまざまな商品を担当し、「ウンコスルデイズ」を発案することになった。

――まず、「ウンコスルデイズ」は、いつ頃、どんな流れで生まれた企画だったのでしょうか。

安部豊さん(以下、安部) 今から4年前、2021年頃ですね。もともとはオリジナルの「動物変形」企画を考えていたんですが、それが途中でストップしてしまって。「もう新企画を出すのはやめようか」という空気になっていたときに、僕の大先輩が「もう一回だけ、絶対に子どもに刺さるモチーフで、オリジナルを作りたい」と、すごく真剣に言ってくれたんです。

そのとき、正直迷いました。この雰囲気で「うんこ」って言っていいのかな、と(笑)。でも考えた結果、「いや、うんこしかないな」と。

恐竜よりも、乗り物よりも、動物よりも、子どもにとっては最強のモチーフじゃないですか。そこから企画が動き出しました。

――現在は大人の反応も目立ちますが、企画段階では、どんな層を一番に想定していたのでしょうか。

安部 最初は、6~8歳の日本の男の子に完全に絞っていました。僕の主観も入っていますが、6~8歳って、親におもちゃを買ってもらう境の年齢だと思っているんです。そこを過ぎると、お小遣い制になり、カードゲームやデジタルゲームに移行したりして、おもちゃから離れやすくなる。

だから、会社としても、業界としても、一番取りにいかないといけない年齢層だと考えています。

また、海外展開を強く意識しすぎると、各国への配慮が加わりどうしても企画のトガりがなくなってしまいます。そこで今回は、あえて「日本の6~8歳の男の子」に振り切りました。途中のイベントでの反響も鑑みて「男児に限らなくてもいいのでは」という調整は入りましたが、軸は最後まで変えていません。

なぜ「うんこ」だったのか──理屈でたどり着いた最強のモチーフ

――その中で、最終的に「うんこ」をモチーフに選んだ決め手は何だったのでしょうか。

安部 理由は大きく二つあります。一つ目は、オリジナルIPを生み出すこと。

これは会社としても、事業部としても明確な使命でした。もう一つは、プラモデルの部署して「作る楽しみがあるもの」であることです。

キャラクターとして成立していても、「作る意味」がないものはやりたくなかった。ただ、オリジナルキャラクターを売ろうとすると、アニメを作るなどして認知を広げる必要があります。

でもそれをやると投資額が大きくなり、ビジネスとして成立させるには、今よりはるかに売らなければならない。そうなると、「作る楽しみ」よりも「売るための商品」になってしまうんです。

だったら、アニメがなくても売り場で目に留まって、「何これ?」と言われるものを作ろう。インパクトと笑いで勝負しよう、と考えました。

当時は(恐竜のプラモデルの)「プラノサウルス」の企画が先行していましたし、「ガンプラ」という大きな主軸もあります。では、ロボットも恐竜も刺さらない人たちに向けて、全然違うコンセプトの商品があってもいいんじゃないか。理屈抜きで楽しくて、作りながらゲラゲラ笑えるものがあってもいい。そうやって考え、理詰めでたどり着いたのが「うんこ」でした。

――この企画を最初に出したとき、社内の反応は正直どうでしたか。

安部 体感でいうと、賛成が3割、戸惑いが7割くらいでした。明確に「ダメ」と否定されることは意外となかったんですが、「本当にやるの?」という空気感は、オンライン会議でも伝わってくるほどでした。

一方で若手は賛成派が多かった印象です。そんな中で、上層部も「チャレンジとして面白い」と評価してくれました。ただ、懸念はたくさん出たので、そこを一つずつ潰していく形でした。

――そのときに挙がった「懸念」というのは、具体的にどんな点だったのでしょうか。

安部 まずは「うんこって本当に商品として成立するの?」という、倫理面やコンプライアンス面ですね。もう一つは、ねんど(素材)の安全性。ここが一番現実的で重要な論点でした。

「うんこ部分を何にするか」プロフェッショナルの現場

――プラモデルをつくる「ホビーディビジョン」として、ねんどを“メイン”に据えるのは、かなり珍しいことだったのでは?

安部 事業部としては初めてだったと思います。紙ねんどに関しては、他事業部でのジオラマ用の大人向け素材としてはあったかもしれませんが、少なくとも社内で確認できる範囲では前例が見当たりませんでした。

――材質選びでは、特にどのあたりに一番こだわりましたか。

安部 最初から、「柔らかいものにプラモデルのパーツを刺す」という構造自体は決まっていました。ただ、「うんこ部分を何にするか」は決まっていなかったんです。ねり消しやスライムなど、いろいろ試しましたが、その中で軽量紙ねんどが一番しっくりきました。

手に取りやすい価格、触り心地、汚れにくさ、安全基準(STマーク)が取れるかどうか。条件はいくつもありました。さらに、軽さも重要でした。重いと自重で崩れたり、足にめり込んで立たなくなったりしてしまうので。

自分も子どもが2人いるので実感があるのですが、今の子どもたちは100円ショップなどで今回のような軽量紙ねんどに触れる機会が多い。素材としてのハードルが低いんです。乾いた後の質感も良くて、遊びやすさ、手触り、安全性、質感。その全部を意識しました。

――開発を進める中で、「ここが一番の頑張りどころだ」と感じたのはどのあたりでしたか。

安部 設計の視点でいうと、いかに簡単に、きれいな“うんこ”を作れるか。そこにみんなが真剣に向き合ってくれました。

――商品化までの過程で、社内で一番悩んだポイントはどこでしたか。

安部 「商品化そのものがNG」という壁はあまりなく、一番議論になったのは、「うんこ」と呼ぶか「うんち」と呼ぶかでした(笑)。結局、両方になったんですけどね。

もともと、「チャレンジ案件」だという認識をみんな持っていたのも大きいと思います。ほかの商品でももっと揉めることはあるので、会社としてはそこまで大きく突っかからなかった印象です。

――社内を見渡してみて、これまでにも「これは攻めていたな」と思うオリジナル企画はありましたか。

安部 自分が生まれた1988年頃に、「ゲゲボ魔獣」というシリーズがありました。異素材を組み合わせたオリジナルIPで、ウンコスルデイズの話をすると、社内外で「ゲゲボ魔獣を思い出す」と言ってくださる方が結構います。

それだけ、記憶に残るインパクトが強かったんだと思います。

エンタメである以上、無風よりは、どんな形でも記憶に残るほうが面白いなと。

迷いと理屈、そして覚悟の末にたどり着いた“うんこ”は、約37年ぶりに社内でも語り継がれるだろう、異色のオリジナル企画となった。後編では、「ウンコスルデイズ」が世に出たあと、どんな賛否が渦巻いたのか。その手応えと戸惑いを語ってもらう。

取材・文・撮影/ライター神山

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