「プラモとねんどでキミだけの“うんこキャラ”を作り出そう!」2025年にBANDAI SPIRITSから発売された「ウンコスルデイズ」は、想定を超える反響と賛否を巻き起こした。前編では、その企画が生まれるまでの背景を追ったが、後編では、発売後に寄せられた声と開発者・安部豊さんの受け止め方に迫る。
「クソキット」と言われることは想定内
――発売後の反響についてですが、SNSなどでは賛否両論さまざまな声が今もあがっています。そうした意見を、どのように受け止めていますか?
安部 正直、反響が大きくなること自体は想定していました。ただ、少し予想と違ったのは、「プラモデル」として受け取られる割合が、思っていた以上に高かったことです。
こちらとしては、子ども向けで、ねんど遊びの延長線にあるクラフトキット、という温度感で展開したつもりでした。
言い方は少し乱暴ですが、「クソが!」とか「クソキット」と言われること自体は、ある程度想定していましたし、SNSで話題にしてもらえるならありがたい、くらいの気持ちでもありました。ただ、「プラモデルとしてここがダメだ」という評価が出てきたのは、良くも悪くも、既存のプラモデルという枠組みの中で見られている、ということなんだと実感しました。
――正直、私も最初は「プラモデル」だと思っていました。そのあたりの認識は、どう整理していましたか。
安部 そうですね。「クレイモデルキット」という名称で、説明文の中には「プラモデル」という言葉も入ってはいるんですが、純粋なプラモデルです、と言い切れるものではありません。あくまで、ねんどとプラモデルを組み合わせたクラフトキット、という位置づけで考えていました。
「ねんどの耐久性」SNSで流布した“間違った”認識
――ねんどの乾燥については、SNSでも騒がれていた部分ですね。
安部 社内や口頭では説明していたのですが、実証データが十分にそろうまでに時間がかかってしまいました。開発ブログで「最低15か月はもちます」と書いたのも、15か月以上の検証データがまだ取れていなかったからです。
世の中には、確かにすぐ使えなくなるねんどもあります。でも、ウンコスルデイズで使っているねんどは、未開封であれば15か月以上は問題なくもちます。それが「すぐ乾燥する」「家に置いておくとダメになる」と、一人歩きしてしまった。そこは、そうさせてしまったな、という反省があります。
――未開封の状態であれば、基本的には問題ない、という理解で大丈夫でしょうか。
安部 はい。未開封であれば、現在の検証では最低17か月、購入時と同じ状態で保持できています。今後も検証を続けていく中で、この数字は伸びていくと思います。
――振り返ってみて、想定よりうまくいった点と、逆に課題だと感じた点を挙げると?
安部 やはり、プラモデルという枠組みの強さを、我々も自分自身も見誤っていた、という点です。情報発信や売り場づくりで、「これは子ども向けですよ」「プラモデルへの入口ですよ」という説明を、もっと丁寧にすべきでした。
興味を持って触ってくださった方が多かった分、ネガティブに拡散してしまった部分は、課題だと思っています。
また、本来のターゲットである6~8歳に、十分リーチしきれなかったとも感じています。SNSやYouTube、イベントなど、どうしても親のフィルターがかかってしまう。そこは結果論ですが、難しさを痛感しました。
――開発チームとして、「これは嬉しかったな」と特に心に残っている反応はありますか。
安部 イベントで遊んでくれている方の反応ですね。友人・知人の子どもや、保育園の子たちが触ってくれている姿を見ると、明らかに他のキットとは違う顔をしています。
組み立て体験会でも、ほかのプラモデルはみんな黙々と真剣に作るのですが、この「うんこ」の体験会だけは、ゲラゲラ笑って、ワイワイしながら遊ぶんです。それを見て、「それでいいんだよな」と思いました。模型店の方からも、「キット自体はいいんです」と言っていただけたことも、本当に嬉しかったですね。
名実ともに「クソキット」ですね。
――社内の反応で、「これは想像していなかったな」と感じたことはありましたか。
安部 普段は企画に関わらない部門の人や、話したことのなかった派遣さん、パートさんが話しかけてくれるようになったことです。
この企画をきっかけに、社内でのコミュニケーションが増えた、笑顔が増えた、という実感はあります。本当に、他にはない企画だったと思っています。
――もし続編をやるとしたら、「次はここをやりたい」と思っていることはありますか。
安部 アプローチの部分ですね。漫画でもアニメでもいいのですが、キャラクター性は、もう少し訴求したかった。この子たち(ウンコたち)が動いて、しゃべっているところを、十分に見せられなかったな、という思いはあります。
それができていれば、「2個、3個並べたい」と思ってもらえたかもしれない。その点は、反省として残っています。
――発売後の反応を踏まえて、「ウンコスルデイズ」を、改めてどんな商品だと捉えていますか。
安部 プラモデル好きの方から「これを子どもに渡しても、結局ガンダムを欲しがりました。」って言われることが、結構あるんですよ。でも、それでいいと思っています。
例えば親子で一緒に模型売り場に行ったときに、お父さんがこれを見つけて、子どもに「あ、うんこあるじゃん。これ買ってやるよ」って言う。そこで「いや、僕ガンダムがいい」って子どもが言ったら、結果的にガンダムファンが1人増えるわけじゃないですか。それって、すごく大事なことだと思っているんです。
人って選択肢を出されると、何かしら1つは選ぶ、みたいな話があると思うんですけど、恐竜と、ガンダムと、うんこが並んでいて、「どれにする?」って聞いたときに、この商品じゃなくて、恐竜でもガンダムでも選んでもらえたら、それでいいと思っています。
結果的に選択肢が増えて、会話のきっかけになっているっていう意味では、意味のある商品だったんじゃないかなと。そこをプラモデルファンの方にも、そう受け取ってもらえたら嬉しいな、と思っています。
――では、最後に改めて、「ウンコスルデイズ」を一言で表すとしたら?
安部 名実ともに「クソキット」ですね。半分冗談、半分本気ですが、笑いながら話せる。誰かが叩いても、ギスギスしない。「あんなのあったよね」と言えるキットって、他にないと思います。
〈前編はこちら【「いかに簡単に、きれいな“うんこ”を作れるか…」なぜBANDAI SPIRITSは異色のおもちゃを商品化したのか】〉
取材・文・撮影/ライター神山

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