ジャーナリスト伊藤詩織氏が監督したドキュメンタリー『Black Box Diaries』が、12月12日から東京・T・ジョイPRINCE品川を皮切りに日本公開された。アカデミー賞(第97回)長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたことで注目を集めた一方、元代理人弁護士らからは「映像使用」をめぐる問題点を指摘されてきた。
ついに日本で公開開始
伊藤氏は2015年4月、元TBS局員の山口敬之氏から性暴力を受けたとして、2017年9月、東京地裁に民事訴訟を提起した。2022年、双方の上告が最高裁で棄却され、同意のない性行為を認定して約332万円の賠償を命じた二審・東京高裁判決が確定した。
山口氏は当時、準強姦容疑で書類送検されたものの、東京地検は2016年に山口氏を嫌疑不十分で不起訴処分としていた。伊藤氏は翌年5月に不起訴不当を訴えたが、東京第6検察審査会も同9月、不起訴相当と議決している。
本作をめぐっては伊藤氏の民事裁判を担当していた弁護士らが2024年10月に記者会見を開き「(映画には)裁判以外で使用しないと誓約書を交わしたはずの防犯カメラ映像が使用されている」、「捜査員や取材対象者の映像や音声が無断で使われている」など、内容に問題がある旨主張していた。
海外ではすでに配信や上映が始まっており、今年1月には、第97回米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネート。日本監督史上初だとして大きな話題をさらった。
その一方、今年2月20日、伊藤氏の元代理人らが日本外国特派員協会にて会見を開き、改めて問題提起。同日に予定されていた伊藤氏の会見は、本人の体調不良によりキャンセルとなったものの、日本外国特派員協会を通じて文章を発表しており、そこには〈映像を使うことへの承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりお詫びします。最新バージョンでは、個人が特定できないように全て対処します。今後の海外上映についても、差し替えなどできる限り対応します〉と、修正を行うという趣旨の記載があった。
12月の日本公開までに、元代理人らが主張していた問題点について、両者の間でいかなる協議が交わされたのか。文書を紐解くと、双方の言い分が対立しており泥沼の様相を呈していたことがわかった。
伊藤氏「修正版を見せようと働きかけてきたが、断られた」
本作をめぐってはまず、伊藤氏の民事裁判を担当していた弁護団のうち、西廣陽子弁護士と加城千波弁護士、そして伊藤氏を中傷する投稿にTwitter(現X)上で「いいね」を押した元衆院議員・杉田水脈氏を相手取り損害賠償請求訴訟を行なった際の、伊藤氏側の代理人だった佃克彦弁護士らが内容の修正を求め2024年10月に記者会見を行なった。
先述の通り、2025年2月、伊藤氏は文書で〈個人が特定できないように全て対処します〉と明言。
ところが公開前日の12月11日、西廣弁護士が声明を発表。〈残念ながら、『対処した』という連絡は、現在まで私たち側には届いていません(以下略)〉と、協議が前向きに進展しないまま公開に至っていると訴えた。
伊藤氏は、公開日の舞台挨拶直前に自身のウェブサイトにステートメントを掲載。元代理人から問題視されていた点に関して、日本公開版ではどのように対応したかが一つひとつ記されている(https://www.shioriito.com/s-projects-side-by-side)。加えて日本公開後の12月15日に日本外国特派員協会で記者会見を開いた。
伊藤氏がその席上で述べたのは“西廣弁護士らに修正版を見せようと働きかけてきたが、断られた”という内容である。
公開までに何があったのか。今回、西廣・加城弁護士の代理人である佃克彦弁護士と、伊藤氏の代理人である神原元・師岡康子弁護士らとの間で交わされたファクスや内容証明を確認した。この書類一式は、佃弁護士から提供を受けているが、伊藤氏側の書類は全てそろっており、抜けはない。
双方合わせて60枚以上の書類を全て紹介することは文字数上、困難であるため骨子のみ記す。
両者の連絡は、伊藤氏が修正を明言して4ヶ月が経過した今年6月24日。佃弁護士から、伊藤氏の代理人らに宛てた質問のファクスから始まる。
本作が「キャセイパシフィック航空の機内で上映されている」「フランスでブルーレイディスクが発売される」との情報を得たが、それらは、これまで海外で上映されてきた“オリジナル版”と同一かどうか、と尋ねるものだ。先述の通り、伊藤氏は2月のリリース文で“差し替え”を約束している。修正されていないまま上映の機会が増えているのか、それとも“差し替え”ているのか、分からない状況にある。
6月29日、伊藤氏側は「全ての配給権を配給会社に譲渡しているため、個別の上映等にして把握していません」とファクスで返答。翌日、再び佃弁護士が“譲渡先に確認をして確認をして欲しい”と付け加え、改めて同じ質問を送信した(*1)。7月6日、伊藤氏側送信のファクスに、この質問への回答はなかったが「修正版は様々な微調整を経て準備しており、先生方にご提案を申し上げたいと考えておりますので、もう少しお時間を頂戴できれば幸いです」と記されていた(*2)。
伊藤氏側から回答がないことから、同月8日、佃弁護士は伊藤氏側にファクスで、6月30日送信分と同様の質問を改めて行ったほか「修正版の提案の見込み時期」を尋ね、7月11日の回答を求めた。
7月11日、伊藤氏側は佃弁護士の質問には答えず「修正版の調整は他の権利者の意向もあり、極めてデリケートかつ複雑な問題が絡むので現時点での確約はできませんが、いったん、一月程度のお時間を頂けませんか。その段階でご提案ができるかどうかも含めてご報告ができるかと思います。
佃弁護士は同日、ファクスで改めて、これまで続けてきた質問と同一の質問を送信。7月18日、伊藤氏側がファクス送信。質問への回答はなく「お問い合わせの件は、他の権利者の意向もあり、デリケートで複雑な問題を含みますので、今直ちにお答えすることが困難ですが、その件もふくめて、伊藤氏自身の口から、ご説明をする準備を鋭意進めておりますので、今少しお時間を頂けませんか(中略)大変恐縮ですが、今しばらくお時間を頂戴できれば幸いです」と記されていた。
あらわになった両者のズレ
佃弁護士は、1ヶ月が経過した8月18日と同月26日にファクスを送信し、質問への回答を求めた。
8月19日、伊藤氏側がファクス送信。7月18日に送信した内容とまったく同様の文言が記されていた。9月1日、佃弁護士がファクス送信。「貴職らが本年7月18日付の文書とまったく同じ内容を送信してきたこと、貴職らの誠意の著しい欠如があらわれており、甚だ遺憾に存じます」等記されている(*3)。
1週間後の9月8日、伊藤氏側からファクス送信。「お問い合わせの件も含めて、伊藤氏本人の口から、直接ご説明申し上げるのが最も誠意ある態度であると思料しております。伊藤氏もその覚悟ですので、お会いする日程を調整させてください」と、“対面での伊藤氏本人からの説明”を提案した。加えて、当時の民事裁判の弁護団のひとりである加城弁護士について「如何なるお立場でしょうか」と“差し替え”との関係が不明な質問をしている(*4)。
佃弁護士側が事実関係を質問しているのに対し、回答のないまま“伊藤氏本人が説明するので会って欲しい”と求める伊藤氏側。両者の意向は折り合わないまま、3ヶ月を迎えようとする9月23日、伊藤氏側がファクス送信。これまで繰り返し佃弁護士から送られてきた質問事項への回答はなく「加城先生は如何なるお立場でしょうか」と逆質問が繰り返された(*5)。
10月3日、佃弁護士が質問への回答を10月6日までに求めるファクスを送信。すると10月6日、伊藤氏側からは回答ではなく、“話し合いを拒否していると理解して良いのか”という趣旨のファクスが届く。
「これらの疑問に対し、先日、伊藤氏が直接お会いし、映画の修正に関する具体的なご提案、ご説明を行いたいとの面談を申し入れた次第です。ところが、今回、貴職はこの提案を拒否されているように受け取れますが、そのように理解してよいのでしょうか(以下略)」
10月6日、佃弁護士はファクスで以下のように伝えた。
「伊藤氏の直接のご説明は不要であり、貴職ら(編集部注:代理人弁護士を指す)が文書で回答することが適切かつ確実であるため、それを求めているのです」
「これまで当方は貴職らに対し、表記の映画が公開されている状況につき、本年6月24日以降、再三に亘り伺っていますが、本日現在貴職らは、甚だ理解しかねる応答をしてくるのみであり、全く回答をしてきておりません」
として、これまで質問に答えていないのは“海外公開のオリジナル版をそのまま各国で上映しているからではないか”と尋ね、10月10日までの回答を求めた。
伊藤氏側は10月10日、ファクス送信する。そこには、10月6日の佃弁護士からの質問への回答はなく、こう記されている。
「(前段略)当方は、あくまで誠実な話し合いによる解決を求めており、そのために、紛議調停申立てを取り下げ、懲戒手続きもとらず、話し合いの日程調整をお願いしている次第です(中略)まずは、話し合いのテーブルに就かれることをお約束ください」
やり取りは平行線のまま、日本公開へ…
佃弁護士が質問の回答を書面で求め、伊藤氏側は 直接の対面を繰り返し求めるという、すれ違いのファクス応酬は以降も続き、11月になり、佃弁護士は伊藤氏側に「質問と要求」を記した内容証明を送付した。
弁護士ドットコムニュースにおいて10月29日に公開された記事(*6)に伊藤氏代理人の神原弁護士のコメントが掲載されていることを問題視した内容だ。記事中に神原弁護士は下記のようなコメントを寄せている。
「西廣弁護士側には本年2月以来くり返し、修正したバージョンを見てほしい、面談して経緯など説明したいなどの話し合いを求めていますが、残念ながら拒絶されています。弁護士が元依頼者との話し合いを拒絶している状態です」
佃弁護士は内容証明にて「『本年2月以来くり返し、修正したバージョンを見てほしい』と言ったというのは、一体いつのいかなる事実を指しているのですか」と問う。
内容証明は「貴職らは西廣に対し、『本年2月』はおろか、『修正したバージョンを見てほしい』などとはおよそ言ってきておりません」と続き、弁護士ドットコムニュースに対しコメントの撤回をする旨の連絡をするよう求めた。
すると11月6日、伊藤氏側から次のようなファクスが届く。
「(前段略)このうち①『くり返し』は『話し合いを求めています』を修飾する語であり、②『修正したバージョンを見てほしい』を修飾する語ではありません」
そして再び、直接の話し合いを求めた。
「可能な限り第三者を巻き込まず、当事者間で率直な意見交換により問題を解決することが相当であると考えています。お話し合いの際には、経過説明とともに、当然、修正したバージョンをお見せします」
しかし、問題提起を行なった側の佃弁護士は、ファクスの回答で十分であると求め続ける。11月のファクスでは、弁護士ドットコムニュースにコメントした神原弁護士の「繰り返し」という言葉が、何を修飾するのか……というやりとりが以下のようになされた。
「弁護士ドットコムの記事は到底そのように読めません(以下略)」(11月6日 佃弁護士のファクス)
「(冒頭略)そのような誤解をする人物の存在は確認しました。上の点はさておき、繰り返し申し上げている通り、私としては、本件紛争は当事者間の感情のもつれの部分もあり、また、西廣先生のお気持ちにも思いを致すところであるから、可能な限り、第三者を巻き込まず、当事者間で率直な意見交換により問題を解決することが相当であると考えています(以下略)」(11月6日 伊藤氏側のファクス)
「『上の点はさておき』とは何ですか。当方は、“弁護士ドットコムの記事は貴殿の言うようには読めない。弁護士ドットコムに対して訂正をして欲しい。
「(冒頭略)ドットコムの記述は真実です(以下略)」(11月7日 伊藤氏側の内容証明)
以降もやりとりは続いたが、佃弁護士からの質問への回答はないまま、12月の日本公開に至った。
“断られた”は何を指すのか?
伊藤氏は12月15日、日本外国特派員協会で開いた会見の席上において「今年に入ってから、映画の修正版を弁護団に見せようと働きかけたが、4回断られた」と発言している。
本記事で示したように、元代理人らが求めているのは“書面での回答”であり、伊藤氏らとの直接の対面は求めていなかった。回答を求められ続けたことをもって伊藤氏側は“断られた”と述べているのだろうか。
伊藤氏の代理人の一人である師岡康子弁護士に「西廣弁護士に拒絶されていることは事実か」尋ねるメールを12月16日に送信した。配給会社のスターサンズにも同様のメールを12月23日に送信している。12月25日時点でいずれからも返信はない。
映画は、東京・品川での上映に引き続き、大阪、福岡、横浜、仙台、広島、新潟での拡大公開が決定している。
そして12月25日、伊藤氏側の代理人である神原元弁護士、師岡康子弁護士がファクスを送信。ふたりが伊藤氏の代理人を辞任する旨、佃弁護士に伝えた。
取材・文/高橋ユキ
(*1)上映権を譲渡した作品は、これまで海外で上映されてきた“オリジナル版”か、“オリジナル版”以外のものか、あるいはその両方か、と提示し、この3つのうちどれか、と尋ねている。加えて、最初に送信したファクスと同様、海外の航空機内で上映されていることやフランスでブルーレイディスクが発売されることは事実かと改めて質問していた。
(*2)同日のファクスでは「海外向け配給権を配信代理会社に譲渡(付与)したのは、2024年1月になります」とも記されている。
(*3)同日のファクスでは「当方は、伊藤氏が、本年2月に所要の修正を宣言しておきながら現在においてあらたな権利侵害を発生させている虞があるためにその点についての事実関係を問うているのです。このような状況において、貴職らの今般の対応は、あまりにも誠意がなく、そればかりかむしろ当方を侮辱しているとさえ感じます。貴職らにわずかでも誠意があるのであれば、現状の説明は可能である筈です」とも記されている。
(*4) その後も、9月16日、佃弁護士がファクス送信。「当方は現在、事実関係の把握を必要としており、よってまずは貴職らにおいて、当方の質問にご回答ください」と、あくまでもファクスでの回答を求めた。なお、ファクスを最初に送信した6月からこの時点までに、海外で作品が視聴できる機会が増えていたことから、その事実確認としての質問も加わっている。
(*5)9月25日、佃弁護士はこの質問にファクスで回答し「以上の通り当方は、貴職らのお尋ねの件につき回答致しました。つきましては貴職らも、別紙の質問にお答えください」と、回答を求めた。ところが以後も伊藤氏側は、加城弁護士の立場についての質問を行うなどして、質問への回答はないまま9月が終わった。
(*6)「伊藤詩織さん、運転手に謝罪 それでも残る「映像無断使用」の問題…元代理人「一歩前進だが、説明はないまま」」(https://www.bengo4.com/c_18/n_19553/)

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