「横を向いて酒を飲む」「年長者が箸をつけるまで待つ」…脱北者が語る韓国ではもはや薄れた古い風習「同じハングルでも通じないこともある」
「横を向いて酒を飲む」「年長者が箸をつけるまで待つ」…脱北者が語る韓国ではもはや薄れた古い風習「同じハングルでも通じないこともある」

「韓国と北朝鮮は同じハングルを使う」そう聞くと、何の問題もなくコミュニケーションが取れそうに思える。だが脱北者と実際に話してみると、外来語を避けた北朝鮮特有の言い回しや会話スピード、口調やイントネーションの違いに戸惑う場面は少なくないという。



南北のカルチャーギャップを実際の脱北者から聞いて分析した『韓国人から見た、ふしぎでやさしいニッポン 僕たちは“ありがとうの国”に、また行きたくなる』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち2回目〉

現実にある南北のカルチャーギャップ

韓国と北朝鮮では、単語だけではなく、話し言葉や表現においても異なる部分があります。外国の方からすると、同じハングル文字を使っているのだから、何の問題もなくコミュニケーションがとれるだろうと思うかもしれません。

もちろん、同じ単語を使っていたりもしますが、先ほどお話ししたように、北朝鮮は外来語を使わずに表現する言葉も多いので、そういう単語が突然会話のなかに出てくると、何を言っているのかまったく理解できなくなります。

また、これもお話ししましたが、脱北者の方と出会ったばかりの頃は、脱北者同士で話す会話のスピードがあまりにも早くて、内容をよく理解することができませんでした。例えば、アンニさんとオモニが二人で話していても、話の流れから推測し、内容をなんとなく理解していました。

韓国で数年間暮らしているアンニさんとアンニさんのオモニの会話ですらそのような感じなので、もし今でも北朝鮮で暮らす方々と話をする機会があったら、もしかするとその方とはコミュニケーションが取れないのではないかと思います。

日本でも流行した韓国ドラマ『愛の不時着』のように、韓国には北朝鮮の方が登場するドラマや映画がたくさんあります。その際、メインで演じている方たちは韓国の俳優さんですが、ドラマの中で使っている北朝鮮の言葉というのは、かなりリアルな言葉遣いで表現されているそうです。

私の知り合いに『愛の不時着』に出演した脱北者の方がいて、撮影の裏話をいくつか聞いたのですが、ドラマを制作する際には、実際に北朝鮮ではどういう単語や言い回しをするのかを脱北者の方々にリサーチしたうえで台本を作っているそうなのです。

もちろん、演じるのは韓国の俳優さんなので、北朝鮮の方々が観たら自然ではない部分もあるかもしれませんが、意外とリアルな言葉遣いで作られているようです。そのため、ドラマによっては、韓国人が理解できない言葉で話していることもあり、ドラマの中で、「この単語は○○という意味です」というような補足が入ることもあります。

「え、北朝鮮ってそんなにしっかりとした姿勢で接客するの?」

話は変わりますが、海外を旅していると、韓国人や中国人に間違われることはありませんか? 同じ東アジアということで、日本人、韓国人、中国人というのは見分けがつきにくく、私も時々、間違われることがあります。

以前、ある日本の方がシリアに旅行に出かけたときに、シリアの空港で何かを盗まれてしまった中国人に出会ったそうです。

その方が突然、空港の警備員に呼ばれ、「こいつは英語もできないようだから、お前が話せ」と言われ、完全に中国人に間違われていたようなのです。

そこで「俺は日本人で、この人は中国人だ」と説明をしたのですが、結局漢字を使って中国人の言っていることを解釈し、通訳をしてあげたといいます。日本人と中国人は漢字という共通の文字があるので、韓国人よりもコミュニケーションがとりやすいのかもしれません。

それでいうと、私たち韓国人と北朝鮮人は同じ言語を使っているので、ほかの国の方たちよりはお互いにコミュニケーションがとりやすいと思います。厳密には、北朝鮮と韓国では単語が異なっていたりもしますが、それでもほかの外国に比べたら格段にコミュニケーションが取りやすいのではないでしょうか。

脱北者の方々とすぐに会話ができるのも、私が韓国人だからこそ。彼らに、韓国に来て一番驚いたことは何かを尋ねたところ、「韓国がここまで発展した国だということも知らなかったから、そこに一番衝撃を受けた」と言っていました。

平壌出身のソアさんは、外国にある北朝鮮レストランで働いていた経験があるので、飲食店での違いを尋ねたところ、「韓国では飲食店の店員さんがみんな自由な服装をしていることに驚いた」と言っていました。

北朝鮮のレストランでは、お揃いのユニフォームを着用して接客を行っているそうなのです。それに対し韓国では、ユニフォームもなく、みんなカジュアルな格好だったことに衝撃を受けたと語っていました。

それを聞いた私は、韓国は北朝鮮よりもカジュアルで適当なのだと知って衝撃を受けました。いけないことですが、私は心のどこかで北朝鮮のことを下に見ていたところがあったので、意外と言ってはいけないのかもしれませんが、「え、北朝鮮ってそんなにしっかりとした姿勢で接客するの?」と驚いてしまいました。

北朝鮮に残る“古い韓国”の風習

韓国と北朝鮮の文化の違いで驚くことといえばお酒の席でのマナー。韓国では目上の方とお酒の席で一緒になった場合、目上の方のほうを向いてはお酒を飲まずに、体を横に向け、左手で口元を隠して飲むというのがマナーです。

しかし、アンニさんとアンニさんのオモニは私よりも年上にもかかわらず、私が男というだけで「男性の前では横を向いて飲まなければならない」と言って、必ず横を向いて飲むのです。

「そんなふうに飲まなくても大丈夫ですよ」と言っても、「JUJUさんが大丈夫かどうかが問題なんじゃなくて、これまでずっとそうして生きてきたから、男性の前ではそうやって飲むんです」と言っていました。

韓国でも昔はそのような風習があったかもしれませんが、今は韓国では男女が平等になってきていて、お酒の席はとくにそのような気がしていたので、北朝鮮はまだ男性を立てる風習が残っているのだと驚きました。

ほかにも、韓国では昔のこととなった古い風習が、北朝鮮では今でも残っているものがあります。例えば、これは韓国でも家庭によってはまだ残っている風習ですが、食事の席では、年長者が食べものを口にするまでは、年下の人たちはお箸も触ってはいけないということ。韓国では、その習慣が根づいている人は今でもしっかり守って実践していますが、だんだんと薄れてきている風習の一つです。

しかし、北朝鮮では今でもその風習が根づいているそうで、家族においては父親の権力が絶対という感覚が残っているそうです。実際に、脱北者の方々に話を聞いてみると、「お父さんは恐い存在」と口々に言っていました。

韓国では、父親の立場はどんどん弱くなっているように感じます。とくに今の若い世代においては、父親は家族の中で絶対的な権力があるわけではなく、何か言おうものなら、すぐに奥さんに怒られてしまうというのが一般的。そのため、脱北者の方々の話を聞くと、私の親の世代の話を聞いているような感覚になります。



また、同じような言葉を話していても、北朝鮮の言葉は、言い方や口調の強さが韓国語とは異なるのも面白いです。日本の方からすると、韓国語も北朝鮮語も同じように怒っているような口調に聞こえるかもしれませんが、韓国人の私にしてみると、北朝鮮の言葉は韓国語よりも怒り口調に聞こえるのです。

興奮したときなどは、とくに「あれ? 怒っているのかな?」と思ってしまったほど。しかし、平壌の方の話し方は少し異なっていて、ほかの地域の出身の方よりも少し落ち着いている口調に聞こえます。

ただ、使う単語やイントネーションが、昔の韓国のニュース番組のキャスターのような言い方をするため、すごく堅苦しくも聞こえるのです。ニュース番組のキャスターの話し方といえば、韓国と北朝鮮とのそれを聴き比べると、口調の違いに気づくと思います。北朝鮮のキャスターのほうが、抑揚がかなり強いのです。

面白いことに、同じ北朝鮮の人たちでも、平壌出身者には地方出身の言葉が怒っているように聞こえるといいます。実際、平壌出身のソアさんは、地方出身の脱北者の方の話す言葉を「恐い」と言っていました。私にとっては、どちらも怒っているように聞こえるのですが、それは日本の方が、韓国語も北朝鮮の言葉もどっちも怒っているようだと思うのと同じですね。

#3に続く

文/ジュジュワールド 写真/Shutterstock

韓国人から見た、ふしぎでやさしいニッポン 僕たちは“ありがとうの国”に、また行きたくなる

ジュジュワールド
「横を向いて酒を飲む」「年長者が箸をつけるまで待つ」…脱北者が語る韓国ではもはや薄れた古い風習「同じハングルでも通じないこともある」
韓国人から見た、ふしぎでやさしいニッポン 僕たちは“ありがとうの国”に、また行きたくなる
2025/11/131,870円(税込)216ページISBN: 978-4046078544

日本の「ふつう」に、心が震えた。この国、ちょっと変だけど、すごく好き。



韓国出身の人気YouTuber、ジュジュワールド(JUJUWORLD)が、北朝鮮出身の友人たちとともに日本各地を旅し、その体験を綴った紀行エッセイ。韓国・北朝鮮出身という背景を持つ彼らが見た日本、私たちが当たり前と思っている風景や習慣が、著者には驚きや感動に満ちた発見の連続だった。コンビニのおでんに興奮し、静かな電車に驚き、居酒屋の文化に心を打たれる。そんな一瞬一瞬に垣間見える、日本という国の「やさしさ」や「安心」。ときに笑えて、ときにホロリとする彼らの目線は、ふだん見落としがちな日本の魅力を照らし出す。

彼らの語るリアルな驚きや本音は、まさにここでしか読めない貴重な体験談となっている。文化・教育・公共マナーといった日常の断片を、異なる価値観と背景を持つ人々がどう受け止め、どう感動するのか。

YouTube登録者63万人超のジュジュワールド(JUJUWORLD)が見つけた、日本の「ふつう」の中にある宝物。異文化の視点から見えてくる、ちょっと不思議で、とてもやさしいニッポンの姿。
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