自他ともに、あるいは支持派、批判派ともに「女安倍」と認める高市早苗総理。そんな高市総理に故・安倍晋三元総理が送っていたアドバイスとは――。
高市早苗氏に送られた安倍さんからの“アドバイス”
ある取材の際、安倍にこんなことをたずねたことがある。「第一次政権が挫折した後、安倍さんの周りからは蜘蛛の子を散らすように人がいなくなったと聞いた。一方で、支え続けた人もいた。それはなぜだと思いますか」と。
筆者は「信念がブレないからだ」というような回答が来ると予想していたが、安倍の発言は意外なものだった。
〈私が「足りない」からでしょうね〉〈人間というのは、私も足りないところはたくさんあるんだけれど、その足りないところを、補ってあげたい。むしろそこがあるからこそ、皆さんに「自分がそこを埋めなければならない」という気持ちを持っていただいているのかなと(笑)。そういう風に思うんですね〉(2021年9月8日、筆者取材)
実はこの時の取材は、日付を見れば明らかだが2021年9月の自民党総裁選前のものだった。安倍は高市早苗議員の支持を表明していた。
ところが総裁選について話を聞きたい編集サイドの意向に対し、なぜか安倍事務所からは「総裁選については聞かないこと」を条件に取材時間を確保すると通達されていた。
そこで、「これからの日本」「あるべきリーダー像」を聞くテイで、総裁選へのメッセージ性を持たせようと考えての取材となった。
なぜ周囲の人は安倍を熱心に支えたのか。
高市は一人で何でもできてしまう、だから仲間がいない
〈リーダーというのはもちろん、みんなを引っ張るわけですから、不動の信念と、ビジョンを示すことが必要ですよね。でも同時に、仲間にもやる気になってもらわないとダメですから、人を信頼して、任せていく。任せることができるというのは大事ですよね〉(同)
高市は書籍や答弁の原稿、法案の条文も自ら執筆するなど、一人で何でもできてしまうタイプであり、仲間がいない、人に任せられないところが欠点だとも指摘されていた。
自らを「足りない」として、リーダーこそ人に任せることの重要性を意識すべきだと述べた安倍のコメントは、やはり高市に向けられたもののように思える。
人は自分を信頼してくれない人のためには働けない
筆者は、「(以前の取材時に)第一次政権の挫折後も支え続けてくれた人、ということで(官僚の)今井(尚哉)さんや長谷川(榮一)さん、北村(滋)さんらの名前を挙げていたのが印象的でした。それほどの味方を作る、関係性を築くには何が大事なのですか」ともたずねた。すると、安倍はこう答えている。
〈それは信頼することですね。人は自分を信頼してくれない人のためには働けない、心血を注げないですよね。やっぱり、昔の武将でも、自分を信頼して、ある意味自分のために死ぬ覚悟をしてくれる人のために、命を懸けます。
だからそれぞれ、みんな、自分の役人人生の頂点を極めるというような目標を捨てて、私と一緒に国のために尽くしてくれたんですよね。
それは私も(そうですが)、総理大臣一人の力っていうのは、権限はあっても小さなものですから。
自分に足りないところはたくさんあるんだけれど、それはチームであれば、優秀な人が来れば、補ってくれるんですよ〉(同)
この時の総裁選で高市は岸田に敗れたが、2025年10月4日、三度自民党総裁選に出馬した高市は勝利をおさめ、10月21日、総理大臣に指名された。自民党総裁、日本国総理大臣、いずれも女性初の就任となった。
トランプ「彼はあなたについて褒めていた」
「安倍路線の継承」を掲げる高市総理の誕生に、早くも再び安倍時代の言論状況が復活しつつある。
総理就任間もない10月28日、高市はトランプを日本に迎えての初の日米首脳会談を行った。高市はトランプに、安倍夫人の昭恵から譲り受けた安倍が生前愛用していたゴルフクラブ(パター)を贈呈している。
日米首脳会談でトランプは〈「私たちが会うずっと以前から、彼〔安倍氏〕はあなた〔首相〕について褒めていた」と語り、「質問や疑念、要望がある時、できることがあれば力になる」〉とも述べたという(2025年10月28日付、朝日新聞デジタル)。
トランプ来日時の日程や報道、SNSでの論戦は、まさに安倍・トランプ時代の日米関係を再現するかのようだった。
迎賓館でトランプを迎えた高市は、笑顔でトランプと握手を交わし、アメリカ側からの申し出で米軍ヘリ「マリーン・ワン」にトランプと同乗、横須賀基地の空母「ジョージ・ワシントン」に降り立つと、米兵の前で両者・両国の友好をアピールした。
高市が片手を挙げてくるりと回りトランプの呼びかけと米兵の歓声に応えると、トランプは高市の肩をぐっと引き寄せた。これに対し、高市は満面の笑顔でサムズアップを決めている。
初回から安倍時代を上回る歓待を演出した高市政権
さらに高市は、トランプをノーベル平和賞受賞者に推薦すると伝えたと報じられている。安倍も推薦はしていたものの、「したとは言わない」と明言を避けていた。高市もこれに倣ってか、国会では推薦の事実について明言しなかった。
高市の前に首相を務めた石破茂もトランプとの会談を行う際には、実に30時間にわたって外務省のレクを受け、安倍との交渉記録を読み込んだという。安倍とトランプの外交が、日本の対トランプ外交の基準となることは誰が首相であっても避けられない。
むしろ、高市政権は、「安倍外交がスタートラインの基準線となる」とばかりに、初回から安倍時代を上回る歓待を演出したのではないかと思えるほどだ。
だが、こうした光景が、安倍・トランプ時代と同様、いやそれ以上に、我々日本国民の心を大いに揺さぶることとなった。
「女安倍」高市の対トランプ外交と日本の分断の行方
「安倍の遺産を生かした、高市外交の成功」「日米黄金時代の再来だ」と高く評価する高市支持派がいる一方、「あまりにもアメリカに媚びている」「なぜ保守派は怒らないのか」「主権はどうなった」との批判派の嘆きや怒りも飛び交った。
高市が女性であることで、安倍・トランプ時代にはなかったジェンダー要素も加わったため、リベラル派の女性識者たちの葛藤は目に見えて高まった。
朝日新聞の高橋純子編集委員はコラムに〈消音にしているはずのテレビから、キャピッ、キャピキャピッと音がする。画面の中で高市早苗首相が、トランプ米大統領の隣ではしゃいでいた〉〈首相たるもの、外交の場でへつらうな。毅然としてくれ。これらは首相の性別とはまったく関係のない一般的な要望だ〉と書いた(2025年11月8日付朝日新聞デジタル)。
また、後に撤回したが、高市の振る舞いを「『現地妻』という悲しい言葉を思い出す」と評した元国会議員の女性もいた。女性初の総理誕生は「ガラスの天井を破った」と表現されてもいいはずだが、上智大学法学部教授の三浦まりは〈小さな穴が開いた、というのが実際のところ〉と評している(「右傾化する政党政治――野党の存在意義とは」、今井貴子との対談、『世界』2025年12月号)。
もちろん日米同盟、日米関係は重要である。
皮肉ではない、高市・トランプの関係性に「対米屈従感」を感じるのは、ナショナリズムあればこそだからである。
軍事や憲法九条を見ないふりして、外交力のみを持ち出すリベラル女性識者
だが、残念なのは彼ら・彼女らが「自身の感じている不満を、ナショナリズムに由来するものだとは認めないこと」であり、「では日本がアメリカから自立するために何が必要か」と聞かれた際に、軍事や憲法九条を見ないふりして、外交力のみを持ち出す点である。
一方、高市支持派は「高市の反応は、関西のおばちゃんのリアクションとしては普通レベル」「(保険商品をセールスする)生保レディだと思えば、かなりやり手」などと評価している。だが、事は一国の総理の振る舞いである。
さらには靖国参拝を早速取り下げた高市を批判するでもなく、「行きたい気持ちはあるが、今は戦略的に我慢しているんだ」と、やはり安倍政権期によく聞いた擁護を再現している。
臨時国会中の台湾有事を想定した存立危機事態についての答弁では、仮定の話を「うっかり」披露して大ごとになった。米軍来援時の集団的自衛権行使の問題についてだが、何の戦略も下準備もなく踏み込んだ発言をし、批判を受けて「もう具体的な想定は口にしない」と述べた。
高市支持派は発言も支持しているが、安倍が「台湾有事は日本有事、日米同盟の問題でもある」と述べたのは、あくまでも総理退任後である。
日米関係のあるべき姿
各国にとっての第二次トランプ政権は、第一次よりも外交を行うのが困難な状態にあるのは確かである。
経済であれ安全保障であれ、国益がかかる中にあって、アメリカと自国の関係がトランプの一存で左右されるとなれば、安倍の〈「あなたは立派だ」と口頭で褒めることですべてがうまくいくならばそれに越したことはありません〉(『安倍晋三回顧録』)との言葉はより重く響く。
であれば、トランプをこれでもかともてなすことこそが、やはり日本外交の正解なのかもしれない。だが――。
筆者が折に触れてかみしめている言葉を引いて、本稿を終えたい。
〈国家が追求すべき価値の問題を考慮しないならば、現実主義は現実追従主義に陥るか、もしくはシニシズムに堕する危険がある〉(高坂正堯「現実主義者の平和論」、『中央公論』1963年1月号)
このままいけば、トランプの任期は少なくとも2029年1月20日まで続く。高市政権が何年続くかは現時点では不明だが、あと何回か、日米首脳会談は行われるだろう。自他ともに、あるいは支持派、批判派ともに「女安倍」と認める高市が、トランプとどのような外交を展開するのか、今後の日米関係を見届けたい。
文/梶原麻衣子 写真/shutterstock
安倍晋三 ドナルド・トランプ交友録 How to DEAL with Trump (星海社新書 366)
梶原 麻衣子

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