〈将棋〉「後手後手の対策で…」女流棋士が震えながら訴えてきた時代遅れの“妊娠不戦敗規定”がやっと削除、その舞台ウラと連盟が悩む次の一手
〈将棋〉「後手後手の対策で…」女流棋士が震えながら訴えてきた時代遅れの“妊娠不戦敗規定”がやっと削除、その舞台ウラと連盟が悩む次の一手

「妊娠したら将棋を指せない」――女流棋士の福間香奈・女流六冠(33)は12月10日、「対局日程が産前6週間、産後8週間と重複時は対局者の変更を行う」という規定の変更を求めて会見を開いた。トップ女流棋士が弁護士同席のもとで公然と日本将棋連盟に主張をぶつける異例の事態は大きなニュースになり、「産む権利」を侵害する可能性があったとして連盟は即座に「投了」。

謝罪するとともに規定を削除、さらに検討会を立ち上げ、2026年4月までに新ルールを策定する事を明らかにした。

「こういう結末しかなかったのかなぁ」

タイトル戦に登場する女流棋士が妊娠した場合、そのまま指すのか、対局日程を延期するのか、あるいは不戦敗にするのか――。母子の安全はもちろん、対局相手との兼ね合いも絡む難題だ。

そこに大きな一石を投じた福間だが、この件に関して、連盟内部では清水市代会長の一年以上前からの対応を疑問視する声が多い。福間と親しい中堅女流棋士が言う。

「福間さんが妊娠を公表したのは2024年8月29日ですが、当時女流棋士担当の理事だった清水さんに、妊娠した際の規定について何度も相談していたんです。でも清水さんは福間さんからの電話を無視するなど、誠意を欠いた対応だったと聞いています」

2025年6月に史上初の女性会長となった清水だが、内部からの人望はあまりない。なぜ会長に選ばれたのか。

「総会ではまず理事を決めて、その後理事会が会長を選ぶ手順です。6月の選挙では理事の立候補者が定数と同じだったので落選者がいない信任投票だったんですが、清水さんの票数は最下位だった。なぜ彼女が会長に収まったかと言えば、前任者の羽生さん(善治・九段)が他の理事候補者たちに“強い口添え”をしたからだとも言われています」(観戦記者)

現場の混乱は深刻だった。福間の妊娠発表の二日後には女流最高峰タイトルの白玲戦七番勝負が開幕。福間は西山朋佳・女流二冠に挑戦したが、この現場でも異常事態が起きていた。

主催のヒューリック関係者が明かす。

「我々は当初、福間さんは体調に不安があるので挑戦者が変更になると聞いていました。実際、対局場には代打挑戦者として伊藤沙恵・女流四段が来ていたんです。ところが最終的に福間さんが指す事になった。梯子を外された伊藤さんも気の毒ですし、西山さんも『私は誰と指せばいいんでしょうか』と戸惑っていました」

その後、福間は三カ月間産休を取ることを発表し、連盟は福間が保持していた三つのタイトル戦の日程を休場明けに延期した。一方で福間が挑戦権を得ていた白玲戦と女流王将戦は延期せず進行。福間は体調不良の為、このうち四局で不戦敗となりタイトルを奪えなかった。9月11日には朝日杯将棋オープン戦で片上大輔七段に不戦敗。

夫で元奨励会員の福間健太氏はSNSで「こういう結末しかなかったのかなぁ」と連盟の対応を批判したとも取れる書き込みをしている。

「後手後手の対策の責任は執行部にあるのでは」と声を震わせ……

さらに批判に拍車をかけたのが、室谷由紀・女流三段のケースだ。室谷は8月14日に福間が持つ女流王座の「挑戦者決定戦」まで進出したが、産休を発表して不戦敗となった。福間と同じ時期に妊娠したが、大勝負の舞台に上がれなかったのだ。

しかし女流王座の日程は福間の妊娠によって延期された為、挑戦者決定戦の日程も延期していれば室谷はタイトル戦を指せていた可能性がある。

「今回の件で、改めて室谷さんにも同情が集まっています」(前述の観戦記者)

一連のドタバタに対し、女流棋士たちの不信や疑問は膨れ上がっていく。25年1月23日には女流棋士を集めて羽生や清水らが説明会を行った。

「後手後手の対策の責任は執行部にあるのでは」と声を震わせながら追及する若い女流たちに対し、執行部は押し黙ったままだったと言う。

そして執行部は25年4月、今回問題になった「妊娠したらタイトル戦を指せない」という規定を設ける事で「福間案件」の幕引きを図った訳だが、事態は解決するどころか逆に未曽有のトラブルになってしまった。

この規定は、妊娠したら事実上の不戦敗を意味することから、大きな反発を生んだ。そして12月10日の福間の会見を受けて、この規定は解除されることになった訳である。

福間は独身時代、2023年におこなった「集英社オンライン」の対談で「結婚しても将棋はずっと続けていきたい」「(子育てや家事は)夫婦で助け合いながらって大事ですよね」と語っており、時代に合った女流棋士の“働きかた”を訴えていた。

彼女の思いや行動は正当なものだが、同時にこの問題は、運営側に突き付けられた難題の深さも浮き彫りにした。

自身も三児の母であるタイトル通算十九期獲得の中井広恵・女流六段はこう語る。

「妊娠によって対局機会を失いたくない福間さんの気持ちは痛いほど分かります。一方で運営サイドからすると、このままでは女流タイトル戦の日程調整が非常に大変になる。

他の女流との公平性を保つルールを作るのは簡単ではないと感じています」

内外から厳しい目を向けられている連盟執行部は妙手をひねり出せるだろうか。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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