〈定年5年前の罠〉「周囲から頼られてバリバリ仕事をしている」より「役職も仕事もなく悶々と過ごす」人のほうが定年後の未来が明るい理由
〈定年5年前の罠〉「周囲から頼られてバリバリ仕事をしている」より「役職も仕事もなく悶々と過ごす」人のほうが定年後の未来が明るい理由

「定年後、何をしたいかわからない」「自分に何ができるのか、うまく言葉にできない」。50代も半ばになると、こんな戸惑いを抱える人も少なくない。

その原因は能力や意欲の問題ではなく、長年身についた「会社人間」「組織人間」的思考にあるという。

定年5年前から必要なのは“自分探し”ではなく、会社依存の思考を手放すこと。その正体とは何か。新刊『定年5年前からの「やってはいけない」』より一部抜粋・再構成してお届けする。

定年5年前という「運命の分かれ道」

いきなりですが、質問です。

いよいよ定年まであと5年を迎えたあなた。今の状況はどちらに近いでしょうか?

①役職もなくなり、たいした仕事も任されず悶々と日々を過ごしている
②多くの仕事があり、まわりの人から頼られて仕事をしている


①の方には「おめでとうございます」と申し上げたいと思います。
一方、②の方には「それで本当に大丈夫ですか?」とお尋ねしたいです。

「逆じゃないか?」。そう思われるでしょう。

でも、逆ではありません。

実は、これこそまさに多くの人が陥る「定年5年前の罠」なのです。

大手総合電機メーカーで管理職を務めたAさん。

55歳で役職定年を迎えたあと、子会社の部長になりました。長年培ってきた海外営業のスキルやネットワークをそこでも発揮し、業績をサポートするだけでなく、積極的に後進指導にあたっていました。「面倒見がよく、気軽に相談できる上司」と部下や若手社員からも慕われていました。

本人もそこにやりがいを感じ、与えられた仕事にしっかり取り組み、部下や後輩にノウハウや人脈を惜しみなく分け与えていたそうです。

そして迎えた定年の日。一抹の寂しさを覚えつつ、やりきった満足感を抱えて職場を去りました。しばらくのんびりしたあと、「さすがにそろそろ何かしないと」と働き口を探し始めたAさんは、愕然としました。

「40年近くやってきた海外営業の仕事が、ひとつもない」

警備員、マンションの管理人、清掃員などの仕事はいくらでもあります。しかし、自分の専門知識を生かした仕事となると、どこを探してもまったく見つかりません。

定年から数ヶ月後にやっと紹介されたのは、地方企業の海外営業の仕事でした。ただ待遇が定年時の半額に満たないため、即座にお断りしました。

実はAさんの企業グループでは5年ほど前に早期退職制度の募集があり、同い歳の同僚が応募しました。
その人は海外営業畑だったにもかかわらず、キャリアコンサルタントの資格を取り、退職直後に70歳まで働ける職場に転職しました。

そのことを知っていたAさんは、「自分にも何かしら仕事はあるだろう」と考えていたのです。

では、運命の分かれ道はどこにあったのか?

それが「定年5年前」だったのです。

あなたは会社にとって「都合のいい人」になっていませんか?

先ほど私は、「役職はなくても仕事があり、まわりの人から頼られて仕事をしている」人に対して、「大丈夫ですか?」と疑問を投げかけました。

その理由は、いわゆる「いい人の罠」に陥っている可能性があるからです。

定年間近になっても、会社から必要とされるのはうれしいものです。後輩から頼りにされれば、自分もまだこの会社に貢献できると誇らしくもなるでしょう。現役の頃は部下に厳しい「鬼上司」と呼ばれていたのに、役職定年後に面倒見のよい「いい人」になったというケースもよく聞きます。

でも、少し立ち止まってみてください。今のあなたは、会社にとって「都合のいい人」になっていませんか?

仕事に必要なスキルはこれまでと変わらないのに、役職定年で手当ては減り、60歳以降のいわゆる「定年後再雇用」の場合は、給与そのものが大きく減額されているはずです。

給与体系は企業によりますが、ざっくり50代半ばの役職定年で3割が削減され、60歳定年以上の再雇用では、そこからまた5割減となるのが普通です。平均すると年収は300万円台でしょう。

「定年後は新入社員並みの年収」と揶揄される所以はそこにあります。

再雇用時の条件が年収400万円台なら、かなりよいほうと言えます。

さて、この状況に一番満足しているのは誰でしょう。他でもない会社です。

少ない給与でしっかり働き、後進の指導まで買って出る「いい人」のあなたは、会社にとってまさに「都合のいい人」なのです。

でも、会社があなたの面倒を見るのは、せいぜい65歳まで。あと20年、ひょっとしたら30年以上、自分の面倒を自分で見なくてはなりません。

人事部、経営側の本音

人事部や経営側としては、シニア社員にはとっととお引き取り願い、若い社員を増やして、会社の平均年齢を下げたいのが本音でしょう。

かつての部下を直属の上司にするのは、「早く退職してください」という会社からの肩叩きの場合もあります。

しかし、役職定年で年収が7掛けになり、それがさらに半減する再雇用の定年延長者は経営者から見ると、ありがたい存在でもあるのです。

例えば、システム開発のプロジェクトを考えてみましょう。

顧客との価格交渉で、人件費をひとりあたり月150万円を切る攻防をしているとします。そこでサービスの品質を保ち、顧客の予算内に収め、基準以上の利益を出すには、こうしたシニア社員(エルダー社員)を組み入れることが不可欠です。

バリバリの戦力を新入社員並みの年収で使えることが、経営的にどれだけメリットがあるかは想像に難くないでしょう。



プロ野球のピッチャーにたとえると、かつて年間10勝し、年俸1億2000万円だった選手が40歳を過ぎ、年間5勝しかできなくなったけれど、年俸3600万円なら契約を勝ち取れるような話です。

定年5年前からは「仕事をしない」

つまり、10勝できるバリバリ現役の投手ひとりより、5勝で3600万円の投手ふたりのほうが、合計7200万円で10勝という計算になりますから、かなりの経済合理性があります。差額を若手の強化に回すこともできます。

営業職が60歳になったからといって、それまでの営業スキルや人脈がいきなり通用しなくなることはありません。体力の衰えは多少あるとしても、昔の人脈が育ち、各所で出世しているはずなので、キーパーソンに会いやすく、むしろ若手より圧倒的に有利です。

技術職も同じです。昔の技術やスキルは使い物になりませんが、それをアップデートして50代までやってきたのですから、「いきなり」はないでしょう。

シニア社員からすると、「仕事内容は変わらないのに、なぜ年収だけが新入社員並みになるのか」と不満が募るのも当然です。

では、どうすればいいのか。

私のメッセージをひと言でまとめると、こうなります。

定年直前の5年間は仕事をせず、次の人生の準備をしましょう。次の人生の準備をするのが、最優先の仕事です。

「仕事をしない」というのは、文字通り「サボる」のではなく、「会社に与えられるがままに仕事するのをやめる」という意味だと解釈してください。

ただ、多くの人は長年「会社に求められる仕事」をしてきたので、これが実に難しい。

だからこそ、「たいした仕事を任されていない人」に、私は「おめでとうございます」と言いたいのです。誰からも非難されず、大手を振って第二の人生の準備ができますから。

一方で、「5年くらいじゃ何も変わらない」と思う方も多いでしょう。

でも、それは間違いです。5年あれば準備期間としては十分です。

実際、Aさんの同僚のように「資格を取得し、そのため70歳まで働ける職場に転職できた人」がいます。その他にも「定年後に趣味のように楽しみながら稼ぐ人」「仲間と一緒に会社を立ち上げた人」「転職して給与が上がった人」など、さまざまな実例があります。

文/大塚寿

『定年5年前からの「やってはいけない」』(PHP研究所)

大塚 寿
〈定年5年前の罠〉「周囲から頼られてバリバリ仕事をしている」より「役職も仕事もなく悶々と過ごす」人のほうが定年後の未来が明るい理由
『定年5年前からの「やってはいけない」』(PHP研究所)
2026年2月2日1,210円(税込)256ページISBN: 978-4569860459会社に与えられるまま将来に繋がらない仕事は避けよ!  定年後は月50万円を目指せ!  50代の悩みを吹き飛ばす一発逆転の働き方。
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