「日本の製造業は再び活性化できる」刀・森岡毅が描く「日本人らしさ」を生かす経済のかたち
「日本の製造業は再び活性化できる」刀・森岡毅が描く「日本人らしさ」を生かす経済のかたち

マーケター集団「刀」を率いる今も、森岡毅は自分を「規格外」だと認めている。世の中の“真ん中”にいる人たちを、いつも少し離れた場所から見てきた。

ほどほどに生きることができず、徹底してしまう性格。空気を読んで言葉を飲み込むより、正直であり続けることを選んできた。それでも歩みを止めなかったのは、「人が好きだったから」だ。冷静な合理性と、熱い情緒を同時に抱えながら、森岡は今、日本人らしさを生かした理想の社会を思い描いている。書籍『森岡毅語録』から一部を抜粋、編集してお届けする。

経営者となった今も「規格外」

マーケター集団・刀を率いる今も、森岡は「規格外」を自覚している。

「世の中の隅っこから真ん中を見ている感覚は、今も昔もあまり変わっていないですね。昔と違うのは、隅っこなりの気づきがあって、世の中に貢献できる方法があるとわかっていることです」

何歳になっても「ほどほどにうまくやる」ということが、森岡には難しかった。何事も徹底する性格なので、適度なところで判断ができる「真ん中の人」がうらやましくて仕方なかった。

「逆に真ん中の人から『普通じゃないから、大きなことができるんですね』とうらやましがられることも多いです。その指摘は正しいのでしょうが、だからと言って、世の中を窮屈と思う感じが消えるわけじゃありません」

世間との齟齬を常に意識させられてきた森岡だが、人を嫌いになったことはない。「マーケティングという職能の最大の魅力は、人の本質に迫るところですから」と迷いなく言い切る。仕事で失敗をしたこともあるが、それでも歩みを止めることがなかったのは、「人が好きだったから」に尽きる。

そもそも勝つ方法を数学的に追求する合理性と、歴史が好きで日本人の伝統的な価値観に共感する情緒を併せ持っていること自体が、マーケターとして異質と言える。

「私は数学にも興味があるし、人にも興味がある。たとえて言えば、頭の中に冷たさと熱さが同居しているような感じです。それが私のちょっと変わっているところかもしれません」

経営者となった今は、USJ時代までには無縁だった緊張感も生じている。

「その緊張感が常につきまとうのです。世の中は、ある程度、私の変人ぶりを受け入れてくれたかもしれませんが、それでも人々の期待を大きく外すわけにはいきませんから」

今でも世の中の常識が間違っていると思うと、義憤に駆られ、批判の言葉が止まらなくなることがある。

「空気を読んで、厳しい発言を控えるのも、自分らしくないと思ってしまうんですね。偏屈な天邪鬼みたいなものですよ」

本人はそう笑うが、むしろ真っ正直すぎて、世間の曖昧さが許せないのかもしれない。

刀の従業員は今や100人を超えている。30人体制の頃は、森岡が組織全体に指示を出していたが、将来的にはいくつかの事業部に分けて、基本的な判断はそれぞれの責任者に任せていくつもりだ。各部署の要請があれば、いつでも森岡はプロジェクトに加わる。

「USJの時は私とともに仕事をする社員が240人くらいいて、それぞれの顔を覚えていました。

だから、人数だけの問題だったら、私が統率できるかもしれませんが、刀が進めているプロジェクトはいくつもあります。そうなると事業部を分けて、それぞれに任せたほうが効率がいいでしょう」

思い描く理想社会

刀は理念として「変化の起点になる」を掲げている。変化の先に森岡が見据えるのは、「日本人らしさを生かした理想の社会」の実現だ。この先、日本が生き残るには、その方向性しかないと確信している。

森岡が考える「日本人らしさ」とは何か。

1つは、日本人の特徴と言われる「勤勉性」や「同調性」である。

「20世紀の製造業がなぜ成功したかといえば、日本人がものづくりに妥協しなかったからでしょう。それを可能にしたのが一人ひとりの勤勉性や、目的に向かって一丸となる同調性です。

しかも、日本人は器用でもあった。こうした特徴は保守的に見えるかもしれません。しかし、消費者が本当に欲するものを、日本人の特質を生かして作り上げれば、日本の製造業は再び活性化します」

もう1つの日本人らしさは「ホスピタリティ」。2021年の東京オリンピックの頃に流行った言葉で言えば「おもてなしの精神」だ。

「茶の文化を起源として、日本人の生活には相手を思いやる気持ちが行き渡っています。

テレパシーで会話できているんじゃないかというくらいに洞察力に優れているのが日本人なのです」。

勤勉性と同調性に裏打ちされたものづくりと、相手が必要なものを見極める洞察力が組み合わさった時、日本のビジネスは最高のパフォーマンスを発揮できる。それが森岡の提言だ。

そして、日本人の特性を最大限に生かせる道筋を見つけ、日本経済に活力を与えることが、森岡が考える「マーケティングの本質」なのだ。

文/奥井 真紀子

森岡毅語録 明日は今日より強くなれる

奥井真紀子
「日本の製造業は再び活性化できる」刀・森岡毅が描く「日本人らしさ」を生かす経済のかたち
森岡毅語録 明日は今日より強くなれる
2026/1/101760円(税込)216ページISBN: 978-4296002689USJの再建に始まり、自身が立ち上げたマーケティング会社、刀では、テーマパーク、食品、金融など多彩な領域で成果を挙げ、2025年7月には悲願の「ジャングリア沖縄」開業を成し遂げた森岡毅氏。しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。 吃音を抱えた幼少期、自分の弱点に思い悩んだP&G時代、そして、開業初日から予期せぬトラブルに見舞われたジャングリア沖縄──。幾多の困難に直面しながらも、目標達成に向かって突き進んできた森岡氏は、何を支えとしてきたのか。森岡氏の取材を重ねてきた著者がインタビュー記録の中から、森岡氏の考え方の核心と言える「名言」を抽出し、1冊にまとめた。 「ナスビはナスビにしかならない」「自分のできることに世界を合わせる方法を考える」「『欲』こそがリーダーシップの根源」「動いているのは心であって数字じゃない」――森岡氏が発した66の名言を、「生き方」「逆境を力に」「リーダーシップ」「勝ち筋のつくり方」の4つの切り口で紹介。さらに、森岡氏の哲学を育んだ幼少期からのヒストリー、「ジャングリア沖縄」の現在地と未来への展望を語ったインタビューを収録。 就活生や新社会人、転職などで新しい環境に立ち向かう人。
仕事や人生の壁を乗り越えようと奮闘する人。 多くの人の挑戦に寄り添う珠玉の語録。
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