自分の顔に穴が空く。しかも、その穴は日に日に大きく……。
顔に穴が空く病と闘うもりひさん
もりひさんに最初の異変が訪れたのは、小学2年生のとき。
「右上の歯がとにかく痛くて。歯医者さんでは(良性の)“エナメル上皮腫”と診断されたんですが、痛みは増すばかりでした。市民病院、大学病院とどんどん病院が大きくなっていく中で、子ども心にも『よろしくない病気なんだろうな』と感じるように。
なにより、両親の顔色がどんどん悪くなっていくのを見るのはつらかったですね。大好きな両親を悲しませている。自分が悪いことをしているような気になっていきました」
結果は「明細胞性歯原性悪性腫瘍」。世界的にも報告例が少ない希少がんだった。
もりひさんが6年生になったころには、右の頬骨を全摘出という大手術を乗り越えた。しかし、日々の強烈な痛みから解放されたのもつかの間、中学3年生のときに左頬への転移が見つかる。
「『もう外科的手術はできない』と医師からは言われました。
高校へ進学し、鍼灸専門学校へ入学したもりひさん。その5年間は比較的穏やかな時間が流れたという。『もう大丈夫やろ』と信じて疑わなかった2023年の9月、またも激痛に襲われる。
「痛すぎて、1時間も眠れなかったですね。医師からは『歯茎や顎骨の壊死が進んでいる』と。重粒子線をあてた後遺症なんですが、念のため行なった生検でがん細胞が見つかってしまいました。再発です。終わったと思いました。もう僕には治療として打てる手がなかったので」
「毎日『どうやって死のうか』と考えてましたね」
絶望の中、かすかな希望として提案されたのは治験薬。ただし、効くとも効かないともわからない。でも生き続けるためには、その賭けに乗るよりほかなかった。
2025年4月から治験薬の抗がん剤を飲み始めると、ほどなく左頬にポツンと黒い米粒のようなものが現れた。
「『あれ?』と思っているうちに、それが穴となり、だんだん広がっていって。僕の22年の人生のうち、15年は闘病してるんですね。思い出すほどに生き地獄でしたが、この『顔に穴が空く過程』が本当に尋常じゃなかったですね。医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)を飲まないと無理でした。
何のやる気も起きない、という本当に初めての感覚に襲われました。言葉は悪いですけど、毎日『どうやって死のうか』と考えてましたね、そのときは」
切り傷でも擦り傷でも、肉がわずかでも露出すれば痛くてたまらない……そんな経験は誰しもあるだろう。その痛みが日に日にひどくなっていく。しかも、場所は人間のアイデンティティでもある顔。若者が心に負う傷の深さは想像を絶する。
そんな地獄のような日々の中で、もりひさんはYouTubeとTikTokのアカウントで2025年6月から配信や投稿を始める。
「どうしても、やっぱりこのまま終わるわけにはいかない。
そして、どうしても家族を明るくさせてあげたかった。今まで支えてくれた結果が自死で終わったら、僕の周りの人たちは悔やんでも悔やみきれないはずだから。『もうこれ、1回成功させな』『このままで終わってられへん』と思って。ここであきらめてしまったら、今まで何年も頑張ってきた自分に失礼になる。
穴が空いた当初は鏡を見るのも辛かったんですが、どんな姿でも自分は自分。否定してあげたくない。どん底なりに考えた結果、やっぱり自分の弱点を武器にしてさらけ出すしかないと思ったんです」
僕の人生は僕だけが
現在、もりひさんは『世界一明るいがん患者』を名乗り、進行する病状をポップ&ポジティブに発信している。YouTubeのチャンネル登録者は、開設からわずか半年で9万人を超えた。ライブ配信を観ていることを伝えると彼は明るい声色でこう話した。
「配信、観てくれてるんですか? すごくうれしいです! 予想以上のフォロワー数に本当にびっくりしていて。
配信を始める前の自分はただの『顔に穴の空いた病人』でしたが、今はちょっと自分を褒めてあげることができるようになったかもしれないです」
もりひさんのもとに届く声は応援が圧倒的だが、心ない言葉を投げかけられることも少なくないと笑う。
「まあ、そういうアンチコメントよりも、僕はがんのほうが憎いので。だからアンチしてくる人を相手にもしてないですね」
配信を観ていると、もりひさんの頬の穴を覆うガーゼは日を追うごとに大きくなっている。現在の穴の大きさについて聞くと、
「ペットボトルの底の大きさぐらいです。『いずれ顔なくなるんちゃう、これ?』っていうのはありますよ(笑)。もうね、ひとつの物語だと思って、みなさんにも見てほしいです。本当に」
この返答だけでも、もりひさんの人柄とサービス精神、そして気遣い屋であることが伝わるのではないだろうか。とはいえ、いつでも上機嫌でいられるわけではない。気持ちが落ちるときも、もちろんある。なぜ、自分だけがこんな思いをしなくてはいけないのか? そう思ったことも少なくないのではないだろうか。
「もう、今まで何年もそう思い続けてきました。
『下を向いてもいいけど、後ろは向かないでおきましょう』
過去を振り返ってしまうと、どうしても嫌なことしかない。前を向く過程で落ち込むことがあったときに、下を向くのはいいけど、後ろは振り返らんでおこうと。そのスタンスは大事にしています」
心が折れてしまうような過酷で壮絶な22年。その人生を、もりひさんはどう捉えているのだろう?
「悪くない人生やとは思いますけどね。本当にてんやわんやして、暇がない人生。もちろん、嫌なことばっかりですけどね。考えれば考えるほど嫌なことだらけですけど。
でも、今を見つめ直したときに、自分はやっぱり強く生きれているなと思うときもある。あんまり調子に乗ったことは言いたくないんですけど、たぶん、僕の人生、他の人は絶対できないと思うんですよね。
僕の人生は僕だけが送っているものなので。
『世界一明るいがん患者』は、『世界一強いがん患者』でもあった――。
後編ではもりひさんが恋人へと作った歌について話を聞く。
取材・文/池谷百合子

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