50歳にして、かつて諦めかけた漫画家の道に再挑戦し、商業漫画家としてデビューを果たした深謝(ミシャ)さん。その経験を通じて、年齢や環境の変化と向き合いながら“人生の壁”をのりこえるためのヒントを探っていく。
決定打は新型コロナと実父・義母の介護
深謝さんの父親は定年退職後に被害額6000万円の投資詐欺に遭い、それが決定打となり、両親は離婚。父親は自分の故郷である岡山へ帰り、母親は大阪のマンションに残った。
41歳の時にケースワーカーの仕事を退職した夫は、44歳でNPOで働き始めていたが、労働時間が長い割に給料が少なかったため、二世帯住宅のローンを夫と深謝さんで半分ずつ支払っていた。
そして2019年、85歳の義母に認知症の症状が出始める。最初は、何度も同じことを聞かれる程度だったが、やがて、ほんの1分でも目を離すと迷子になるなど症状はどんどん進行し、家事すべてを87歳の義父が担わないと生活できない状態にまでいたっていた。
そこに2020年、新型コロナが流行。緊急対策のため相談窓口となった社会福祉法人に勤める深謝さんは、業務量が激増した。さらに追い打ちをかけるように、岡山で一人暮らしをしていた79歳の父親が、心臓発作を起こして救急搬送された。父親は一命を取り留めたものの、父の実家を訪れた深謝さんは愕然とする。
「父の家はゴミ屋敷状態になっていました。部屋にはお酒の瓶や缶が散乱していて、まさに父はセルフネグレクトに陥っていたんです」(深謝さん、以下同)
離婚後、帰郷した父親には、昔からの人間関係や居場所があった。しかし体力が落ち外出しなくなると、若い頃から毎晩晩酌していたため、アルコール依存に拍車がかかる。心臓発作も、アルコールの過剰摂取によるものと推定された。
遠方で暮らしているため、退院時の支援が出来ない深謝さんと妹は、ゴミ屋敷の片づけを終えると、父親を介護サービスに繋げて帰宅した。
そんなところへ、職場で早期退職制度が始まり、深謝さんは悩んだ。
「住宅ローンの支払いを理由に仕事を辞められないと思っていました。でも、あんなに丈夫だった父が倒れ、先の見えないブラック労働にコロナ禍が重なり『自分だっていつ死ぬかわからない』ということを痛感しました。何より、母に対して『子どもを言い訳に使うな、卑怯だ』と感じていた自分が、住宅ローンや介護を理由に、本当にやりたいことを放棄したら『母と同じじゃないか』と思ったのです」
この時49歳だった深謝さんは、早期退職して、漫画一本で勝負していく人生を選択。最短ルートで世間に通用する技術を身に着けるため、デビュー実績の高い2年制の専門学校に行くことを決意したのだ。
夫と義両親への決意表明「3年限定デスマッチ」
「仕事を辞めて漫画家になりたい。専門学校に行きたいから住宅ローンも払えません。どうしてもダメだったら、離婚してください」
意を決して打ち明けたところ、夫はこれまでの頑張りに感謝し、追い詰めてしまっていたことを謝罪。専門学校に行くことを賛成してくれた。また義父母もその道を快く応援してくれた。
その後、深謝さんは、専門学校のAO入試を受けてみごと合格。50歳で28年間勤めた職場を離れると、4月からは学費を21万円ほど免除される特待生として、専門学校に通い始めた。
「期間は3年間。53歳までに結果を出す」
そうした覚悟のもと、朝9時から17時までデジタル技術と漫画の基礎をみっちり叩き込んだ。在学中、母の緊急手術などの苦難があったものの、10月にはテレビドラマの劇中マンガ・ポスターの作画担当としてメディアデビュー。2022年にはkindleのお片付け本の挿絵を担当した。
しかし、その後は鳴かず飛ばずの日々…。深謝さんは、出版社への持ち込みやWEB投稿など、40回以上、自分の作品を編集者などに見てもらったが、一向に採用されなかった。
そして、その後の目途が立たぬまま、2023年3月に専門学校を卒業し、無職となった。
卒業後も採用されなかった作品を同人誌にまとめてコミティア(同人誌の見本市)に出したものの、思うような結果にはつながらなかった。
「商業漫画家は諦めるしかないのかな……」
3年の期限まで、あと1カ月。追い詰められた深謝さんだったが、「これが最後の機会」と実録のコミックエッセイ介護漫画『53歳からクアッド(4人)介護、始まっちゃいました』を描き上げ、コミティアで編集部に持ち込んだところ、初担当が決定。念願の商業デビューにこぎつけることができた。
その介護漫画がデビュー初連載になり、2024年10月から12月まで、主婦の友社のWEBマガジン「ゆうゆうtime」にて配信。
「人生に無駄なことはない」
深謝さんは、28年間勤続した社会福祉法人で得た知見や、48歳の時に始まった義母の認知症、実父の心臓発作やアルコール依存、実母の大動脈乖離、そして53歳のときに91歳の義父がパーキンソン病という4人介護の経験を漫画として昇華することで、人生の壁をぶち破った。
「これまで身につけて来たすべてを注ぎ込み、“役に立つエンタメ”として価値を届けることができました。『諦めなければ道は拓ける』ということを身をもって実感しました」
深謝さんは現在、大好きな漫画を描きながら、妹と共に父と母を遠距離で介護し、二世帯同居する義父母を介護している。子どものころは妹と関係が良くなかったが、両親の介護を通じて「同志になった」と感じることができるようになった。
「『人生には、何ひとつ無駄なことはない』と18歳のアオくさいあの日の自分に言ってやりたいです。どんな黒歴史も、己を偽って過ごした30年も、全部、意味があったのだと思います。頭でっかちで通用しなかったり、ままならなさを思い知らされた社会人経験があったからこそ、何十回ボツになってもトライし続けられた。50歳からの挑戦で良かったと思ってます」
家庭でも学校でも居場所がなかった深謝さんだったが、現在は志を同じくする仲間に囲まれている。
「助けられることばかりです。仲間がいなければ、ここまで頑張れませんでした。
夢を叶えることに年齢制限はない。結婚していても、親の介護をしていても、夢は叶えられる。
#前編はこちら
取材・文/旦木瑞穂

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