ベネズエラ攻撃のトランプ、台湾有事は「習氏次第だ」…「高市総理は次の選挙で力を見せるしかない」東半球への責任放棄と台湾への「ディール」
ベネズエラ攻撃のトランプ、台湾有事は「習氏次第だ」…「高市総理は次の選挙で力を見せるしかない」東半球への責任放棄と台湾への「ディール」

国際秩序は、音を立てずに崩れた。「国際法は必要ない」というトランプ大統領の言葉は、ベネズエラへの電撃作戦によって“現実”になった。

法ではなく力が支配する世界で、国家は何を守り、何を失うのか。そして日本はどう対峙するべきか。ジャーナリストの長島重治氏が防衛省・自衛隊の幹部らに取材を重ねて徹底検証した。

「国際法は必要ない」電光石火の衝撃

「私に国際法は必要ない」

米紙ニューヨーク・タイムズが1月8日に公開(取材は7日に実施)したインタビューの中で、トランプ大統領はそう言い切ってみせた。

ベネズエラへの攻撃、マドゥロ大統領の拘束と連行、石油資源の獲得――。あたかもアメリカがベネズエラを占領するような言いぶりだ。だとしたら、どう考えてみても国際法違反の疑いしかないが、トランプ氏は「私には関係ない」と意に介さない。

襲撃はまさに電光石火だった。

米東部時間1月2日夜、フロリダ州の別荘「マー・ア・ラゴ」からトランプ大統領が作戦開始を命じた。3日未明にはベネズエラの首都カラカスで爆音が響いた。

米国が誇る最新鋭ステルス戦闘機が精密爆撃を実施。防空システムや軍事拠点、そして送電設備を破壊し、市内は一時的な停電状態に陥った。

さらに、150機以上の航空機が20の米軍基地から集結。

停電と防空システムへの打撃で丸裸となった大統領宮殿(軍事要塞化されていた)に、米陸軍最強とうたわれる対テロ特殊部隊「デルタ・フォース」が、精鋭輸送部隊である第160特殊作戦航空連隊、通称「ナイト・ストーカーズ」の手によって送り届けられた。

拘束にかかった時間は5分程度

襲撃からマドゥロ大統領と妻の拘束にかかった時間は5分程度と言われている。米軍発表によれば、大統領公邸の部屋の詳細な見取り図、食事、果てはペットの種類まですべて把握していたといい、その極めて高い諜報能力の一端を見せつけた。

これには世界が震え上がった。これまでもトランプ大統領は対立する外国の指導者に対し、「お前がどこにいるか分かっているぞ」などとSNSで脅すことがあった。それが単なるブラフではなく事実であり、かつ米軍の力をもってすれば拘束や殺害も容易であるという現実を突きつけたからだ。

マドゥロ大統領も油断していたわけではないだろう。この独裁者は、野党指導者たちを次々と政治犯として拘束してきたと言われる。

常に命を狙われる恐怖から、軍事施設のように強固な要塞に住み、多くの即応部隊を護衛につけていた。デルタ・フォースが乗り込んだとき、彼は自身の寝室に備え付けていた「セーフルーム(鋼鉄製の避難室)」に逃げ込もうとした手前で拘束されたのだ。

世界を震え上がらせた「実力」

「いくら米軍の特殊部隊が手練れでも、重警護下の外国大統領をこれほど簡単に拘束はできない。政権内部に相当な上位レベルの内通者がいたはずだ」

自衛隊のレンジャー部隊を指揮した経験のある陸上自衛隊の現役幹部はそう分析する。

トランプ大統領は、拘束され護送されるマドゥロ氏の写真をSNSに公開。3日午前中には勝利宣言の記者会見を開き、「平和は力によってもたらされた」と勝ち誇った。

トランプ氏は当初、ベネズエラへの介入理由として「米国への麻薬流入阻止」を挙げていた。しかし、拘束後は「ベネズエラの石油は私が管理する」と言い放った。

露骨な資源管理と近隣諸国への挑発

さらに、キューバに対しては「ベネズエラの石油に頼っていたが、もうそれは手に入らない。放っておいても崩壊するだろう」と敵意をむき出しにした。

コロンビアのペトロ大統領を念頭に「彼はコカインを作ってアメリカに売るのが好きな病気の人だ」と挑発し、記者団から「攻撃するのか?」と問われると「それは良い考えだ」とまで言ってのけた。

トランプ氏はグリーンランドについても「(資源と国防上)必要だ」として、軍事的なオプションを排除しない姿勢を見せつけている。

「私たちは、力(強さ)によって統治され、暴力によって統治され、権力によって統治される世界に住んでいるのだ」

これは1月5日、トランプ大統領の最側近、スティーブン・ミラー大統領補佐官がCNNのインタビューで放った言葉だ。日本や欧米諸国が守ってきた「法の支配」という戦後の国際秩序を完全に否定する宣言だった。

「国際法による支配」から「力による支配」へのパラダイム転換。その最大のターニングポイントは、昨年末に米政府が発表した「国家安全保障戦略(NSS)」だ。

一言で言えば、アメリカによる世界中への関与を整理し、アメリカの「お膝元」である西半球(南北アメリカ大陸とその周辺。グリーンランドを含む)を最優先するという宣言である。

米国内では現代版の「モンロー主義」とも称される。

革命的文書「NSS」とドンロー主義

モンロー主義とは、第5代モンロー大統領が提唱した相互不干渉主義だが、トランプ氏はこのモンロー主義をもじって、自らの名をとった「ドンロー主義」と呼び、誇示している。ここでいう不干渉の対象はずばり、中国とロシアだ。

ベネズエラは1999年のチャベス政権誕生以来、反米左派路線を突き進み、自国の石油利権から米系企業を追い出してきた。同時に中国との関係を深め、中国による投資額は累計10兆円を超えたと言われる。

トランプ氏は、この中国の影響力を米国の「裏庭」から完全に排除しようとしている。また、ベネズエラはロシア製の防空システムや武器を多数輸入していたが、米軍の電撃作戦により、それらが米軍には通じないことを世界に可視化させた。

「ドンロー主義」は他国の惨状や人権には興味を示さない。石油利権の確保を優先し、ノーベル平和賞候補にもなった野党指導者よりも、マドゥロ氏の側近だった副大統領を脅して服従させる道を選んだ。

東半球への責任放棄と台湾への「ディール」

さらに手強いのは、ドンロー主義が西半球以外の地域、すなわち欧州やアジア(東半球)については「自分たちで責任を持って軍事費を払い、態勢を整えろ」というスタンスを鮮明にしたことだ。NSSには、日本と韓国に対し「軍事費をもっと増やせ」と名指しで書き込まれた。他国の国防予算にまで言及する安保文書は史上初と言える。

さらに、歴代政権が掲げてきた「朝鮮半島の非核化」という文言までもがNSSから削られた。トランプ氏にとって北朝鮮はもはや核保有国として「取引」すべき対象なのだろう。

中国による台湾侵攻の懸念についても、前述のインタビューでトランプ氏はこう答えている。

「それは習氏(習近平国家主席)次第だ(It's up to him)」
「もし実行すれば、私は非常に不快(Very unhappy)に思うだろう」
「私の任期中は起きない」

極めて「ディール(取引)」を匂わせる表現だ。一方で、台湾に対しては1兆7000億円分もの米国製武器を売りつけている。

地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」や高機動ロケット砲「HIMARS(ハイマース)」、対戦車ミサイル「ジャベリン」など、中国の侵攻にリアルに備えるためのラインナップだ。

「力による支配」に日本はどう立ち向かうか」

「力による支配」と「アメリカ・ファースト」のディール。これがトランプ2.0の世界だ。日本はどう立ち向かうべきか。

高市総理の「台湾有事は存立危機事態になりうる」との発言は、中国によるレアアースの輸出規制という報復を招いた。「もうアメリカは(無条件には)助けてくれない」という前提で韓国、フィリピン、オーストラリアなどと多角的に連携し、対峙するしかない。

同時に、相手は独裁国家だ。1月23日召集の国会冒頭では衆院解散も取りざたされている。安倍政権で外交安全保障の中枢にいた元幹部は、自らに言い聞かせるようにこう語った。

「世界は弱肉強食の帝国主義時代に戻りつつある。

日本にも強い政権が必要だ。高市氏は、かつての安倍氏のように選挙で大勝することで、まず自らの『力』を見せつけるしかない。中国寄りの姿勢を見せる野党を次の選挙で徹底的に打ち負かすほどの覚悟を示して戦うべき時だ」

文/長島重治

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