痴漢被害、男性15%が経験「まさか自分が」満員電車で声を失い…「男性の性暴力被害」はなぜ“表に出ない”のか?
痴漢被害、男性15%が経験「まさか自分が」満員電車で声を失い…「男性の性暴力被害」はなぜ“表に出ない”のか?

受験シーズンが到来した。この時期に増えると言われるのが「痴漢被害」だ。

東京都は昨年12月に「令和7年度痴漢被害実態把握調査結果」を公表した。都は痴漢被害のない社会の実現を目指し、令和5年度より大規模な調査を実施している。それによると、この1年以内に痴漢被害に遭った人は、女性で約2割、男性でも1割弱にのぼることが明らかになった。

「まさか自分がこういった被害に遭うとは思わず、声が出ませんでした」

痴漢撲滅に向け、東京都が庁内横断のプロジェクトチームによる「痴漢撲滅プロジェクト」を進めている。その一環として昨年12月に公表した実態調査によると、電車内・駅構内での痴漢被害に遭った人の割合は37.2%(女性54.3%、男性15.1%)で、男性でも一定数が被害に遭っている現状が明らかになった。

都内に住む30代の男性は、夜の満員電車の中で痴漢被害に遭った経験があるという。

「つり革につかまって立っていたところ、酔っぱらった男性が乗車してきました。右手には手提げカバンを持ち、人混みをかき分けて隣の車両へ移動すると思ったものの、僕の後ろで立ち止まったんです。距離が近いと思った直後、僕の体に手が当たりました。最初は『間違って触れてきただけ』だと思ったものの、その後も触られ、痴漢だと気づきました。

満員電車だったので、周りからは特段何も言われません。まさか自分がこういった被害に遭うとは思わず、声が出ませんでした。次の駅で途中下車し、駅員に事情を話すものの、現行犯でない限り逮捕は難しいと言われました」

知られざる男性の痴漢被害。

その実態について、臨床心理士の西岡真由美氏に話を聞いた。

「都や内閣府の調査によれば、痴漢被害を受けた際に『何もできなかった』『我慢した』という男性は女性よりも多い結果となっています。

さらに、『逃げた』『移動した』と回答した割合が、男性よりも女性のほうが多くなっています。被害を受けた際に、男性は女性以上に『逃げた』『移動した』という行動を取りにくいということがデータでもはっきり出ています」

その背景として、加害者の性別も関係している可能性があるという。

「内閣府の調査では加害者の性別を聞いています。女性が被害者の場合、加害者は『異性』が89%、『同性』が1%(「よくわからない」10.1%)です。これに対して男性被害者の場合は『異性』の加害者が42.5%、『同性』が44.1%(「よくわからない」13.4%)とほぼ半々です。つまり男性が被害に遭う場合は、女性が加害者のケースも少なくありません。

社会には『男性=加害者』『女性=被害者』といった固定観念があります。それゆえ、男性自身が被害に遭った場合にすぐには状況を把握できず固まってしまう、という傾向があるのかもしれません」

男性の痴漢被害は「表に出ていない数は女性以上に多いのではないか」

痴漢被害について「周囲に相談しなかった」と回答した人の割合は、内閣府の調査で約3割、都の調査では約4割程度にのぼる。

「相談しなかった理由として、男性では『誰にも知られたくなかったから』『心配させたくなかったから』という回答が、女性は『おおごとにしたくなかったから』という回答が一番多い結果となりました。

また、都の調査では、被害を受けた時の気持ちとして『怖かった』と回答している男性は38.6%(女性は49.9%)でした。『男性は被害を受けてもそれほど強くショックを受けない』といった思い込みがあるかもしれませんが、男性も痴漢に遭えば恐怖を感じるということを理解してほしいと思います」

さらに、男性が痴漢被害に遭ったあとに取る行動の特徴について、西岡氏は次のように指摘する。

「被害を受けた男性が、友だちとの間で笑い話のネタにするといったことはよく聞きます。本当はすごく不快な出来事だったんだけど、『被害』と捉えると笑われるし、そもそも周りの人も戸惑ってしまう。あるいは相談しても信じてもらえなかったり、まともに受け付けてもらえないこともあると思います。

男性が被害を訴えた場合に『なんでその時に何もしなかったのか』などと周囲から言われる可能性もあるため、男性としても言いにくいし、被害者男性自身が自分の傷口に塩を塗られるような辛い気持ちになることも想定されます。いわば二次被害につながるような恐れがあることから、『最初から援助などを求めず誰にも言わないほうがいい』と考えてしまうのではないでしょうか」

男性の痴漢被害の実態に関して「表に出ていない数は女性以上に多いのではないか」と話す西岡氏。背景として、男性社会特有の文化があるのではないかと指摘する。

「たとえば会社の宴会などで、罰ゲームとしてズボンを脱がされたりするようなことも立派な性暴力です。ですが、周囲との関係性や、『本当はすごく嫌だけど、自分も笑って流さなかったら“ノリの悪いやつ”と言われてさらに排除されてしまう』といった恐れから、受け入れざるを得ない――そういう“空気”が、男性の性暴力被害が社会で取り上げられにくい背景にあるのではないかと思います」

「男性も性暴力被害によって深刻な影響を受けるということを理解することが大切です」

では、男性が被害を訴えやすくなるために、社会には何が求められるのだろうか。

「性暴力被害は、一生にわたって心身にさまざまな影響を及ぼします。例えば、小学校の頃に学校で被害に遭ったような場合に、学校のトイレ行けなくなり、それが高校までずっと続いたり、時には命に関わるケースもあります。男性も性暴力被害によって深刻な影響を受けるということを社会が否定せずに受け止めて、理解することがまず大切です。

加えて、被害を打ち明けたら否定せずにしっかり耳を傾けることも大事です。

それは学校や病院、警察などで被害者が相談したときにも言えることです」

さらに、啓発のあり方にも課題があると指摘する。

「性暴力をなくすための啓発ポスターなどを見ると、今でも『痴漢の被害者=女性』と印象づけるものが多いと感じます。あらゆる性別の人が被害に遭う可能性があるということを意識していただくことも必要ではないでしょうか。

また、『痴漢に注意』といったキャッチコピーのように、『被害者の側が自分を守れなかったのが悪い』というニュアンスではなくて、『加害者が悪い』という考え方を徹底することも必要です」

また、相談窓口の場で男女差は根強いという。西岡氏は自身の体験を次のように話した。

「『性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター』という相談窓口が全都道府県に設けられており、それとは別に行政が『女性相談』という窓口も設けています。そこでは性暴力には限らず、パートナーからのDVの被害や離婚相談など、さまざまな相談があるのですが、『男性相談』という枠ってあまりないんです。

一部で設けられているところもありますが、あったとしても女性よりも開設日が少なかったり、時間が短かったりして、そうした面でも大きな男女格差があります。

私自身も関西の一都市で女性相談の業務を行なっていましたが、男性からの相談も一定程度のニーズがありました。でもニーズに対して受け皿が追いついていないといった状況があります。そういう男性の困りごとにも社会が対応していけるようになることが望まれていると思います」

一向に収束する気配のない痴漢被害。しかし調査では、防犯アプリを通じて周囲に助けを求められたり、実際に助けてくれたりしたというケースがあることも確認されており、西岡氏は「希望を感じた」と話す。

調査を通じて浮かび上がった痴漢被害の実態。性別にかかわらず、誰もが声をあげやすい社会を築くためには、まず事実を知ることが欠かせない。その先に、被害を見過ごさない社会への一歩があるのではないだろうか。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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