東京都は11日、新年度から不妊治療費の助成を25年度の12億円から56億円に拡大すると発表。今までの助成費用から4.6倍にものぼる数字に対し、不妊治療経験者や都民からはさまざまな声があがっている。
「メンタルが不安定になりやすい。その治療費も助成の対象になると嬉しい」
日本で不妊の検査や治療を経験したことのある夫婦は22.7%、4.4組に1組にものぼる。厚労省によれば2022年に国内で出生した10人に1人は、体外受精などの生殖補助医療によるものだという。(厚労省調べ)
その割合は年々高まっている。現在、不妊治療中の東京都在住のユイさん(36)はいう。
「34歳で結婚し、すぐに子どもを望みましたがなかなか妊娠しませんでした。1年ほどして検査をすると卵がうまく育たない排卵障害であることがわかり、現在も治療中です。『まさか自分が…』という気持ちですが、夫も協力的で自己注射の痛みに耐えている時には優しい言葉をかけてくれるのでなんとか頑張れています。
都内は不妊治療の病院が複数あり、助成金も豊富なのはありがたいです。ただ、不妊治療は痛みを伴ううえ、薬の副作用や終わりが見えない苦しさからメンタルが不安定になりやすいんです。
都内在住の不妊治療中の男女からは当然、今回の予算案について好意的に受け止める声が多かった。東京都在住のタクミさん(38)はこう話す。
「私たちは夫婦で不妊治療をしており、診療代は多い月には30万円を超えます。助成金が増え、先進医療に対し1回上限15万円を6回(40~42歳は3回)までいただけるのは助かります。
しかし、これは無事に“出産”したら(助成の回数が)リセットされるもので、妻が以前経験した流産はリセットの対象外なのは残念です。今後見直されることを期待します」
不妊症の定義に当てはまらないカップルも増加
一方で、治療を行なわない都民からは「今いる子どもが活き活きと生活できる環境を整えてほしい」「不妊治療が必要になる前に、子どもを産み育てやすくする社会制度に予算を割いてほしい」という声もあった。
専門家はどのように捉えているのか。
国内10以上の生殖医療施設の立ち上げに携わり、現在は生殖医療クリニック錦糸町駅前院で培養室室長としても勤務する胚培養士(不妊治療現場で受精卵の育成を行う専門家)の川口優太郎氏が疑問を呈する。
「不妊症の定義は、“健康な男女が避妊せずに1年以上性交渉をしても妊娠しない状態”を指します。2022年に不妊治療の一部が保険適用になりましたが、それ以降『子どもほしいね』と考えてすぐに通院する、不妊症の定義にあてはまらないカップルが増えました。不妊治療の成績は向上しているのですが、治療による効果なのか疑問が残ります。
助成金が妊娠を望む多くの人に幅広く使われるべきなのは当然ですが、本当に治療が必要な方々にこそ幸せがもたらされる使われ方になればいいなと感じています」
当事者からも不満が…
東京都在住のルリさん(37歳)は、2020年から3年間不妊治療を経験。保険適用になった22年に、ある変化を感じたという。
「私は2023年に妊娠するまで、保険適用外の時代、保険適用時代と両方を経験しました。
これに前出・川口氏はこう指摘する。
「たとえば、風邪に罹患すると、全国どの医療機関でも治療内容や処方してよい薬は国の規定で決められており、選択肢も限られています。それと同じように、不妊治療も保険適用時に、“この病名にはこの治療方法とする”と定められてしまったんです。
前述した“不妊治療の定義に当てはまらない方”には充分ですが、何か大きな原因があって子どもができない“不妊症”の方には正直効果が乏しい治療もあります。
患者の既往歴や、体質などで『本当は自費診療時代に使用していた保険適用外の薬の方が適しているな』と医師が感じても、保険診療の患者にはやむを得ず決められた薬を処方しているケースもあります。これでは、“必要な不妊治療”が必要な方に届けられていないと感じることもあります」
専門家が語る「効率的な不妊治療」の考え方
どうすれば、不妊治療を効率的に行なうことができるのか。川口氏は言う。
「なかなか成果が出ない方は、積極的に他のクリニックやセカンドオピニオンを求めるのもよいでしょう。子宮内膜症着床能検査(ERA/ERpeak)や子宮内細菌叢検査(EMMA/ALICE)などは、基本的には先進医療の認可を受けた医療機関でしか受けられず、これらの検査を受けて初めて不妊原因がわかる方も少なくありません。
不妊症の原因は一人ひとり異なります。ですから、本来オーダーメイドで行なう必要があり、限られた種類の薬の中からどれかを選んで投与すればうまくいくものではないんです。
クリニックも得意分野が異なります。よく調べ、合うクリニックを見つけ、助成金を有効に使って不妊治療を成功させてほしいです」
4.6倍は膨らみすぎ?
4.6倍に膨らんだ、東京都の不妊治療助成の予算案については「金額が一気に上がりすぎでは?」という声もあった。
「予算案の段階で、査定のさなかにあるため正式に発表されていること以上のお話はできない」と前置きした上で、「不妊に悩んでいる方がとても多いんです。令和4年(2022年)から体外受精・顕微受精なども保険適用になりましたけれども、まだまだ費用のご負担が大きいということで計上させていただいた」という。
56億円の税金が日本国民の未来を明るく照らしてくれるよう、有効に活用されることを願いたい。
取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班

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